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私のつくる卵焼きは三角形をしている。

たまごやきが三角になる。
もちろん断面の話だけれど。

世の中のSNSや、ドラマの食卓なんかでたまごやきが出てくるといつもウーン、と心の中で唸っている。あの綺麗な形を作るのは、腕なのか、タマゴの量なのか、練習なのか、卵焼き器がしっかり使い込んであって焦げ付かないからなのか。

いや、少し理由はわかっている。

私は「いらち」(せっかちもの)なのだ。ほんの少し卵液を卵焼き器に流し込んで、拡げて、くるくると巻き上げ、また次の層になる卵液を流し込んで・・・・を繰り返すのが面倒。

それにお弁当にいれる卵焼きは、まぁLサイズ卵が2つもあればいい。時々卵の数が冷蔵庫の中に心許ないと、1コだけでつくることだってある。その量を何度も分けて卵焼き器に流し入れるのはまず無理だ。

そんなのケチらずに3つでも4つでも使えば?と思うかもしれない。でも沢山巻き付けると当たり前だけれど巻き返すのも大変なのだ。そしてビミョウに卵液が残る。使い切ろうとすると既に巻いた卵が重くて、返すと酷い事になったりする。
練習すればそんなことないよ、と思ったあなた。その根気強さがないのが「いらち」が「いらち」たる所以。


それから作り方にも問題がある。お弁当を作る朝は大抵寝ぼけている。あるとき熱した卵焼き器に盛大に卵液を1回で入れてしまった。

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寝ぼけているにも程がある。しばらく呆然と卵焼き器を眺め、私はおもむろに卵液をぐるりとかき回した。スクランブルエッグの要領で。

そして巻き上げるのは1回で。最後はころころ転がして凸凹の表面を焼き付けて誤魔化した。タコ焼きが途中はぐちゃっとしていても最後には綺麗に丸くなる、あれと一緒だ。


そして出来上がった卵焼きは、そのまま皿に載せるのなら不格好だけれど 切って断面を上にして弁当箱にいれたらなんとかなった。しかもビミョウに三角形なので、それが逆にオットの丸い弁当箱にフィットする。まぁいいか。

切り落とした端っこをぱくん、とクチに放り込む。そして思った。

すこしとろり、とした部分がのこった卵焼き、この方が私は好きだ。

薄い層が重なった卵焼きだと基本的に卵にはほぼ完全に火が通っている。でもスクランブルエッグの要領でかき混ぜたので、真ん中にすこしとろっとした卵液が良い塩梅に火が通って残っていた。
それに焼き上げる時間が早い。と言っても卵2コ程度だからほんの数十秒、もしかすると1分くらいの差かもしれないが、二手間くらい減っている。家庭料理で「手間を減らす」を見つけると嬉しくなるのは、私だけじゃないだろう。


そんなわけでちょっと火の通っていないスクランブルエッグ状態にしてから卵を巻き上げるようになった。すると半分固まった部分は高さが出る。均している訳では無いので、いつの間にか卵焼きは三角になる。

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料理は美しさも美味しさの一部として頂くプロのものと、「お母さんの手抜き」が見える日常の家庭料理とあっていい。

いつか私がこの世を去ったとき子供達が「お母さんの卵焼きって味が一定してなかったよね」「へんな形してたよね」と、ディスってるのか懐かしんでいるのか分からない話をしてくれたらいい。あるいは、自分でキッチンに立って作ってみたとき「・・・・親子だなぁ」と独りごちてくれたらいい。

不格好な卵焼きを今日も、卵をもう1個加えることもしないで私は焼いている。

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