「わ、降ったんだ」

玄関の方からオットの呟きが聞こえる。私はビックリして、窓際に置いた時計と、手許の平行して作っていた彼の弁当と朝食を交互に見ながら頭のなかで素早く時間を計算する。雪が降っても特に雪かきが要らなさそうなら彼はあんな言葉を声に出さない。つまりは「雪かきしないと車が出しにくい」ということだ。

「これ作ったらすぐ私もやるから」
「簡単にだけ雪かきする、職場むこうまで時間がかかりそうだから」

この会話はお互いの話を聞いてない訳じゃ無い。前提を共有済みなだけだ。

昨夜寝るときに雪予報は出ていなかった。でも風向きの変化でもあったのか、とにかく朝方に降り出したのだろう。さっき彼がドアを開けたとき外からの音がほとんどしていなかった。ということは除雪車もまだ主要な高速道路の除雪で手一杯ということだ。我が家の前はもちろん、多分オットの職場周りの除雪も進んでいないに違いない。
我が家が高速道路の入り口から車で2分とはいえ、そしてきっと高速道路は走るのに支障ないくらいには除雪されているであろうが、オットの職場はダウンタウンを抜けて住宅街の坂を上っていく。ダウンタウンの道、住宅街の道どちらも普通の速度ではまだ走れないに違いない。いつもなら20分ほどの通勤時間だが30分以上かかるかもしれない。

オットは普段4時半とか5時には起きて、5時半から30分ほどトレッドミルで走ったあとに6時過ぎに朝食を食べ、6時20分くらいに出かける。でも今週はただでさえ忙しい当番週なのに心に負担の多いケースが続いているようで、今朝はギリギリまで寝ているつもりらしかった。疲れる週にはよくそういう流れになる。私はオットの睡眠を邪魔しないようにはしていた。

そして私のルーティンでは朝5：40に起きて弁当の準備を始め、5：55くらいからオットの朝食準備に入り、6：05には彼に食卓についてもらう。6：20頃に彼を送り出すまで　バタバタはしないがそこそこ詰まった時間になっている。
でも今朝は珍しく2度寝した。今思えばなぜその時気付かなかった、という話なのだが、雪の朝は音が吸われてしまうので目覚ましを止めたあとについ、再び目を閉じてしまうことがある。まぁそうは言っても数分後には飛び起きるのだけれど、今朝もそうやって「ああ、はやく動き始めなきゃ」と思ったのが仇となり、外を確認していなかったのだ。

オットが起きてきて世界が白い布団を被っているのに気付いて「降った」と言ったのが5：57。彼が防寒具を身につける間に私も少し弁当メニューを変更してすぐに準備が終わるようにする。6時前にオットが雪かきを始め、私も6：05には防寒具をつけ始めた。幸い雪は軽いし3cmほどしか積もっていなかった。それでも先に雪かきしておかないと、今日みたいな寒い日は家の前に氷の道ができてしまう。それは避けたいのだ。

車一台だせる場所を大まかに除雪したところで、オットには中に入って準備をしてもらった。残りの必要最低限なところを私が雪かきしてから家の中に戻ると、出かける準備を終えたオットがちょうど出ようとしていたところだった。6：22、上出来だけど仕事スタートは7時をすこし回るかもね。

入れ忘れていた箸をいれようと弁当袋を開けたら、朝食につくったサンドイッチが　かけておいたラップで包まれて入っていた。確かに、サンドイッチなら職場で朝の回診後にささっと食べることもできる。
私はそこに置いてあった洋ナシをひとつ、その上に追加していれた。

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冬の間にこういうことが起きてしまうのは数年に一度なのだけど、久し振りに「最善の時間のやりくりで」オットを送り出してみて思った。この人はこういう時に共有した前提条件で声を掛け合わなくても最短時間である程度のことをこなせる、そういうパートナーだったな。もちろん常にではないし時々勘違いや優先事項認識の違いで喧嘩にもなるけれど。

阿吽の呼吸、と思ったところで「阿吽」という言葉を考えた。確かもともと梵語で万物の始まりと終わり、という意味と2つの存在という意味があったような。

再度この言葉を調べてみて、ああ私はラッキーだなぁと思った。昔はイメージでしか分からなかった言葉が実感としてわかるようになった。

午前中に全部雪かきをこなしたのに、お昼になったらすごい勢いでまた雪が降り出した。まぁ・・・自然相手なので仕方ないです。
夕方には雪も止むらしいしそうしたらもう一回雪かきしておこうかな、オットの車が戻る前に。