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私は他人の“お気持ち”が読みたい

何かと比べて「悔しい」って感じたことが、あまりない。

だから「悔しみノート」と聞いたときにも、そんなに興味は湧かなかった。
読んでみよう、と思ったのは、「悔しみノート」で悔しさの対象として登場する星野源さんが、自分のラジオで本の感想を話していたからだ。
「(感想を書いている)自分のことじゃなく、作品のことを書いている」と聞いて、興味を持った。こういう時、電子版も同時に出てると即ポチれていいね。

「悔しみノート」の作者は、梨うまいさん。舞台制作を志す俳優さんだったようだけど、挫折して一度実家に戻ったらしい。そこで心身を回復させつつも、いい本やいい映画を見るたびに感じる悔しさに自己嫌悪する日々だったそうで、その悩みをジェーン・スーさんのラジオに投稿したことが、このノートを書くきっかけになったそうだ。それが今回、本として出版された。


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さっそく読んでみると、冒頭からいわゆる“お気持ち”の連続だった。えー自分のこと全開じゃんって思った。(悔しみノートってタイトルなんだから当然です)でも、2、3コラムを読んでいくうちに、他人の作品を使って自分をよく見せようという気持ちが一切感じられないこと、悔しさや妬ましさを感じると書いてある部分が、作品の良さとして伝わってくることに気がついた。ちなみに私が好きな映画は、梨さんの好みではなかったみたいだけど、言わんとすることはなんとなく分かった。

それと本のデザインも工夫してあって、読んでいると活字の合間にちょいちょい手書きが残されている。それがつい漏れた呟きみたいで、書き手には不本意かもしれないけれど親近感がわいた。
これが全部活字だったら冷たく、手書きのままだったら重くて途中で読むのを止めていたように思うから、このバランス感覚はすごいと思った。
私が好きなメモはここ。

悔しみノート

1つ1つ読んでいると、梨うまいさんがこのノートを書き続けたことが何よりすごいと思った。自分でも“自意識過剰”と書いていたけど、面倒くさい自意識と向き合い続けたこと、そこに圧倒された。文章を書いてみたいと思うような人は、たいがい自意識を持て余していると思うけど、それが恥ずかしくて、どうにか隠しているように思う。(私はそう)
梨うまいさんは、悔しいっていう自意識と向き合い続けていくんだろうなって終わりも、本人が楽しいかどうかはともかく、私は好きだ。

梨うまいさんの「悔しみ」にあたる感情って、自分にとってなんだろう。
本の中では、悔しさを持て余す自分を「根暗プライドエベレスト」って梨さんは表現してたけど、悔しさの実感が薄いのも卑屈な王様って感じがしなくもない。

うーん。でもやっぱり、生身で人の前に立って表現することと、こうやって名無しで書くのじゃ全然覚悟が違うだろうな。わかるなんて言えることはないか。「悔しさ」はよく分からないけど、梨うまいさんの作ったものをまた見たいって思った。

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