陰キャ。で何が悪い!
「12時の終電までには帰してくれる?」
大学のマドンナの早紀先輩との初めての食事に行った時に言われた言葉だ。
僕の名前は早乙女翔太。就活を始めたばかりの大学3年生。
今の大学は都内から遠く離れた九州の大学。
地方の大学と言ってもかなりのレベルの大学だ。
本来ならば、都内の大学も合格確実と言われていた成績だったが自分を知らない土地の大学に行きたかったので地方の大学に進学をすることにした。
僕はいわゆる『陰キャ』なのだ。
高校生の時はいじめられている訳でもなく、僕からすればいじめられっ子であっても存在感があるのだから羨ましいとも思っていた。
大学に入学して初めての一人暮らし、初めてだらけの生活に心が躍る。
『陰キャ』卒業の為にまずやったことは、『見た目改造』である。
髪型をおしゃれにし、髪色も変えた。
おしゃれなファッション雑誌を買って研究、着る服にも気を使った。
陰キャのマストアイテム「ゲーム」はしないで、慣れないスポーツを始めるようにした。お陰で筋肉痛の毎日だ。
サークル活動もアクティブ系に入り、それなりに充実した生活をしている。
気づけば、かなりイメージを変えることに成功したと思う。
そんな大学生活を送っているある日
キャンパスにある一番大きな木の下にあるベンチで本を読んでいる人を見かけた。
その女性は艶やかな黒髪は長く、時折吹く風に委ね太陽の光を纏い、キラキラしていて、透き通った白い肌に切れ長の瞳、薄く塗った紅が特徴的な女性だった。
名前を早紀と言った。
僕は、初めて「恋」をしてしまった。
その日から毎日のように彼女を目で追いかける日々が過ぎ、心臓がちぎれるのかと思う位の鼓動を感じる中、思い切って告白をした。
・・・撃沈。
失恋のショックでしょんぼりとキャンパス内を歩いていると、早紀先輩が声を掛けてくるようになり、自然と友達になって行った。
とはいう物のキャンパス内で話をしてもデートをした事がない。
思い切ってデートに誘ってみることにした。
断られるかな?その気持ちは裏切られOKサイン。僕は天上にも上る気分だった。
デート前日はノートにびっしりとデートコースを書き込んだり、着て行く服をあれやこれやとコーディネートを深夜まで繰り返していた。
デートをひとしきり楽しんだ後に、飲みに行った。
少しアルコールが回ったのか、桜色に染まった早紀先輩は僕に向かって
「12時までには帰してくれる?」と甘えた声を発した。
そりゃ、そうだよね!初デートでいきなりさよなら童貞、こんにちはリア充とはいかないよね!
「そりゃ、もちろん!遅い時間ですもんね!」
「ゴメンね!どうしても外せない用事があって・・・。」
どんな用事?聞きたいけどそんなことを聞くのは野暮と言うもの
分かっている、分かっているんだ!
「どんな用事ですか?」
聞いてしまったー!僕の馬鹿!
「ああ、用事ね」
早紀先輩はクスリと笑いながら、鞄に手を入れスマホを取り出した。
「実は、今やってるゲームのイベント開始なの!先着順でレアアイテムゲットだし、どうしても参加したいのよ!」
さっきまでのおしとやかな早紀先輩とのギャップに驚いてしまった。
「ゲームが好きなんですか?」
「そ!私『陰キャ』だから!」
「陰キャを恥ずかしいって思った事はないのですか?」
すると、早紀先輩はさっきまでの笑顔が一変して鋭い眼光に。
そして
「陰キャで何が悪い!個性でしょ!恥ずかしいって思ってる時点で自分をマイナス評価してるじゃない!」
その声に僕の中にあった何かが音を立てて崩れ落ち同時に爽快な気分にもなった。
「あの、僕も高校まで陰キャだったんです。それを変えたくて地方の大学に入ってイメチェンをしました。」
「イメチェンするために逃げて来たんだ。」
「陰キャのままでもいいのでしょうか?」
「オーケーオーケー!自信もって行こう!」
帰りの電車のホームで、早紀先輩に言ってみた。
「僕もそのゲーム教えてくれませんか?」
「じゃあ、今日から一緒にやろう!」
大学を卒業後、僕はゲームクリエイターとして大手企業に就職している。
早紀先輩?早紀先輩はと言うと・・・。
同じゲーム会社で広報をしている。
本当はクリエイターをしたかったのだけどねと笑っていた。
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