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交差点。

 ピッ・ピッ・ピッ・・・
 今日もリズムが変わらない心電図の音が病室に響く。
 ここは交差点を見渡せる位置にある病院の一室・・・。


「じゃあ、また明日!」彼が私の手を放す。
 ここはいつも私たちの通学路にある交差点。

 この交差点は、私が住んでいる田舎の中では「都会」にある。
 朝早くからは通勤のサラリーマンを見送り、昼間は買い物をするお母さん達を見守り、夕方から夜遅くまで帰ってくる人たちを出迎えている所。

 当然、私達学生もこの交差点を通る。
 毎朝、「おはよー!」「ねぇねぇ、昨日のテレビ見た?あの俳優、超イケメンじゃない?」とか、ティーンエイジャーのたわいもない話を話している。

 彼とは毎日、何でもない話をしながら通学するのは恋人になってから日課になった。

「じゃあ、また明日!」彼が私の手を放す。
 手を振りながら交差点に走って行く彼。トラックにひかれた。
 その有様を、私は眼前にしてしまった・・・。


「ハッ!」私は目が覚めた。夢だったのか。良かった。


 学校に行く前に待ち合わせの場所に行く。彼がいた。
 いくら私が家を早く出ても、必ず先に彼が待ち合わせ場所にいる。
 今の時間は本当の待ち合わせの一時間前だ。それなのに彼がいる。

「おはよー!待った!」
「全然、それよりも宿題やった?見せて欲しいんだけど・・・。」
「またやってないのー!しかたないなぁ。」
 他愛のない事を話しながら学校に行く。

 お昼休み。「それにしても、授業、つまんなーい!」と誰かが言う。
 私も同じ意見だ。授業はもっと生徒に興味を抱かせるような内容にして欲しいと塾のような内容を願うものだ。叶わぬ願いだけれども。

 今日の授業も終わり、彼と待ち合わせの校門に急ぐ。
 私も彼もいわゆる「帰宅部」だから早い時間から彼と会う事が出来るのだ。
 もう、付き合って2年経つのだけれど、この緊張感にも似たドキドキ感がたまらない。

 足早に校門に急ぐと、ソワソワと立っている彼を発見。走って行く。
「ゴメン!待った!」と息を弾ませて聞いてみる。
「そんなことないよ。」と彼は優しい笑顔を向けてくれる。
「帰ろ!」手を出してくる彼。私はその手を握り「うん!」と答える。

 学校から、一つ目の角を左に曲がって真っすぐ行くと「交差点」。
 交差点の周りには、スーパーやコンビニ、デパートが立ち並ぶ、この町きっての繁華街。いつもはこの交差点で、彼と別れる。

「じゃあ、また明日!」と彼が私の手を放そうとしたので、「待って!」と彼の手を握り返し、足止めをした。


 信号無視をしたトラックが通り過ぎて行った。


「どういう事?」この場面は「夢」で見た光景だ。
 なのに、何故、今だと分かったのか不思議でたまらない。

「どうしたの?大丈夫?」と彼が顔を覗き込んでくる。どうやら彼はトラックの恐怖は訪れなかったようだ。

「なんでもないよ。」と手を振る。
「そうなの?本当に?」と心配をしてくれる彼には「夢で見た」とは言わないでおこう。

「じゃあ、また明日!」と彼が手を振って交差点に走って行く。


 彼はトラックにひかれてしまった。


「ハッ!」ベッドの上で目が覚めた。夢?夢を見た夢?

「おはよー!」と彼との待ち合わせの場所に行く。
「おはよ!」と笑顔で私を迎え入れてくれる。

 学校の昼休み。「授業、つまんなぁ~い!」と誰かが言った。
 この言葉、聞き覚えがある。

 授業も終わり、彼との待ち合わせの校門に急ぐ。
「ごめん、待った?」の私の声に
「そんなことないよ!」と優しい笑顔を向けてくる彼。

「今日の授業、どうだった?」
「あの友達がさぁ~。」
 なんでもない話をしながらの下校道。「交差点」にやって来た。

「じゃあ、また明日!」と手を放そうとする彼の手を掴む。


 信号無視のトラックが通り過ぎて行った。


「大丈夫?じゃあ、また明日!」と手を放そうとする彼を捕まえた。


 トラックが通り過ぎて行った。


 夢なのか・・・?本当に夢だったのか・・・?

「本当に大丈夫?休憩しなよ。」とコンビニで水を買ってきてくれる彼。
「ありがとう。もう、大丈夫。」
「じゃあ、また明日!」と彼が、交差点に飛び込んでいく。


 彼はトラックにひかれてしまった。


「ハッ!」私は目が覚めた。

 夢を見た夢の夢を見た?

 おかしい・・・おかしい、おかしい、おかしい!

 彼との待ち合わせの場所に行った。
 でも、彼はいなかった。
「早すぎたかな?」と思って待ってると「おはよー!」とクラスメイトの女の子がやって来た。

「なにしてるの?」
「彼が来るのを待ってるのよ。」
「え?、あの子って2年前に交通事故で亡くなったのよ。」
「そんなはずは!・・・」

 学校の昼休み。「授業、つまんな~い!」と誰かが言う。
 授業も終わり、彼との待ち合わせの校門へ急ぐ。
「やぁ!」と手を上げる彼のすがたが見えた。
 彼が死んだって嘘じゃない!私をだまそうとして!

 手を繋ぎながらの帰り道。今日もたわいもない話をする。

 交差点・・・。

「じゃあ、また明日!」と彼が手を放す。
「待って!」と私は手を掴もうとするけど、掴めなかった。彼は交差点に飛び込んでいく。私は彼の後を追う。


 目の前にトラックが見えた・・・。


 病院内。
「お嬢さんの意識は、いまだに戻りません。」
「いつになれば戻ってくるのでしょう?」
「あれから、もう2年も経っているのです。時々、同じぐらいの時刻に意識が戻ったかと思わせる心電図の変化も伺えますが、原因がわかりません。覚悟も必要かと思います。」

 傍らに泣いている彼の姿があった。

 よかった。彼、無事だったんだ。本当に良かった。

「先生、また心電図に反応がありました。」
「そうか、今日も同じ時間だな。」

 ピッ・・・・ピッ・ピーーーー!

「先生!患者が急変しました!バイタル低下です!」
「まだ間に合う!心臓マッサージをするんだ!」

 先生達の努力も虚しく、心電図のラインは横に一直線にしか動かない。
「まだだ!大丈夫だ!電気ショックを使うぞ!用意しろ!」
「はい!」
「何で帰ってこない!生きたいと思わないのか!お父さんを、お母さんを、そして彼を泣かせたいのか!帰ってこい!」
 数度にわたって電気ショック、その後に心臓マッサージを施すが心電図に変化は見られなかった。


「おはよー!」「ねぇ、宿題やった?」「やってな~い!」
 今日も変わらない交差点の光景。
 ただ一つ、違う事は交差点に花束が置かれていることだった。
 その花束を毎日置いているのは誰かは皆が知っていた。

ー完ー


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