恋愛迷子な私のこと。【第2話】
深夜23時47分。東京。
今日も私は、”恋愛迷子”──
第2話
始めてしまう私なんて。
無駄にでかいラブホテルのテレビに映る自分が
何とも言えない表情をしているのが気になった。
楽しそうでもないし、つまらなそうでもない。
嬉しそうでもないし、悲しそうでもない。
私、なんでこうなったんだっけ。
───────
マッチングアプリで出会った君。
君とは驚くほど趣味が合って、話もしやすくて、もちろん顔もいい(アプリの登録写真では)
これまでにいくつかアプリを使ってみて、
それなりにやり取りしたり実際に会ったりしたこともあった私は、
アプリでの出会いにそこまで期待していなかった。
だから、こんな人に出会えたのは正直驚いた。
『今回は信じていいかも・・・?』
そんなこと思いながらメッセージを重ね、会う前に3回くらい通話をした。
声も良くて、穏やかで、そんなとこも好みだった。
お互いに、今日はなにをしたか、どんなものが好きか、恋人ができたら何をしたいか、なんて話してたら、
寝る前に30分くらい話すつもりが、毎回気づけば2時間くらい経ってた。
初めての寝落ち通話も君とだった。
会ったこともないのに、メッセージの雰囲気と声ですごく君に惹かれていて、見知らぬ人との寝落ち通話でこんなに安心感を得られるなんて思ってなかった。
だから『今度ご飯でもどうですか?』って言われたときはすごく嬉しかったし舞い上がった。
この人とならずっと一緒にいられるかもしれない。
”ようやく最後の恋に出会えた”と思ったくらい。
その日のために仕事も頑張ったし、会う前は入念にメイク直しと髪を整えた。
いざ待ち合わせの時間。
現れた立体の君を見てまず思ったのは、”見た目は正直ちょっとタイプじゃないかも”だった。
思ってたより身長や体格が一回りくらい小さめで、少し落胆。
でもアプリの出会いなんてこんなもんでしょ。
会う前の期待値が高すぎた分、多少のズレが生じるのは予定してたけど。
若干がっかりしながらもご飯を食べに移動する。
いろいろと話したけど、やっぱり君とは話が合うから一緒にいて飽きない。
穏やかな雰囲気も、私を見つめる君の目も心地よくて安心した。
だからきっと私は、終電を逃す道を選んだのかもしれない。
深夜0時を回ったころ、君と私は駅と反対方向に歩いていた。
その手はしっかり握られていて、別に嫌な感じはしなかった。
だけど、徐々にホテル街が近づいてくるにつれ、私の気持ちはざわついた。
『ほんとにこのまま行ってもいいの?』
『初日にここまで進展する予定じゃなかったんじゃないの?』
『彼のこと好きになれるの?』
ここで正しい判断ができなかったのは、
単に飲みすぎたアルコールのせいなのか、
君ならそんなに乱暴しないだろうからとりあえず行ってみようか、って思ったのか、
はたまた、しばらく彼氏がいなかった分、そういう行為ができるなら、と欲に飲まれただけなのか。
気づけば君と広いベッドの上。
私の服は程よくはだけている。
始まってしまえば、これまでのモヤモヤは消え去り、
ただただ君との情事に溺れた。
「キレイだよ。」「可愛いね。」「好きだよ。」
そんな言葉をかけてくれる優しい君。
私に触れる手も、行為も、すべてが優しくて泣きそうになる。
一度目の情事が果てたとき、君は私に聞いたっけ。
「キミは僕のことどう思ってる?」
聞かれてしまった。とその時思った。
これまでも、情事の最中も、君はたくさんの愛の言葉を私にかけてくれたのに、一度もそれを返さなかった私に気づいていたんだろうな。
なんて言おう、自分の気持ちがわからない。
そんなことを考えていたら変に間が開いてしまって、焦ってとっさに
『スキダヨ』
なんて口にした。
こういう言葉言うの苦手だから、なんて不自然な間が開いた理由をごまかした私に君は気づいただろうか。
結局そのまま2人は寝てしまい、気づけば翌朝。
私より先に目が覚めた君と、もう一度情事にふける朝。
寝ぼけていたからか、昨日までの罪悪感は薄れていて、昨晩よりも純粋に君と交わった。
身体の相性も悪くない、一緒にいても気が楽。
別に恋人になってもいいはずなのに、なんで君に飛び込めないんだろう。
会う前はあんなに楽しみだったじゃん。
君はきっと優しくて、付き合ったら幸せになれるはず。
だけど君に心が向かないのは、
顔が好みじゃなかったから?
お箸の持ち方が気になったから?
肘をついてご飯を食べるんだと知ったから?
背があんまり高くないんだなと思ったから?
守ってくれそうな強さを感じなかったから?
傍から見たらきっと些細なことかもしれないけど、実は自分がそういうことを重視する人なんだと気づいた。
結論としては、タイプじゃない、に入るのだろうか。
でも、これまで出会ってきた人の中で一番趣味が合うし、初対面なのに話しやすいし・・・
これまで人を見た目で選んでしまった結果、”顔は好きだけど趣味はそんなに一致しない恋人”が当たり前だった私からすると、逆パターンの男の人とのお付き合いを想像するのは、とても難しい。
いったん1人になりたくて、君とは昼前に別れて駅へ急いだ。
土曜の昼間の山手線。とりあえず乗り込んで席に座って、ぼんやりと考えた。
降りる駅まではあと半周くらいある。
ぐるぐると同じところを回ってくれる山手線に妙に安心した。
今だけは人目も気にならなくて、ぼーっと窓の外だけを一心に見つめ、気持ちの整理をした。
あのとき、ホテルに行かなければ。
あのとき、熱のない「スキダヨ」なんて言わずに、もう少しゆっくり考えたいなと言っていたら。
いつだってこうして私は、その場の空気に流されてしまうんだ。
そして、後になって全ての悩みや後悔が自分の口が招いたことだと気づく。
25にもなって何やってんのよ私。
そろそろ真剣に人と向き合いなよ。
恋愛の答えを求めてふと覗いた恋愛リアリティ番組では、
緊張の面持ちで告白をして、「こちらこそよろしくお願いします」の返事を聞いた瞬間に2人とも安堵と喜びで幸せそうに笑ってる。
”ああ。これか。私の恋愛にはこれがないんだ。”
誰かを好きになっても自分から告白したことがなく、アプローチもできない私は、告白された人と付き合うスタイルの恋愛をしてきたから、この喜びがなかった。
それはもちろん今回の君との恋も一緒で。
本来ならば、きっと君と一夜をともにできたり、君に告白されたら、嬉しくて幸せに包まれるはず。
好きだよと言われて焦ったり、自分はここにいてもいいのだろうかと戸惑うこともないんじゃないだろうか。
とすると、私は君が好きではないのかもしれない。
”次は自分から誰かを好きになる”
そうすればきっとこれまでと違った幸せを味わえるかもしれない。
恋が実った喜びとやらを感じられるかもしれない。
『・・・いやいや、だからそんな出会いどこにあんのよ。』
前向きな決意と、自虐風の諦めを胸に、
何度失敗しても
またすぐに恋に落ちてしまう私は、
後悔と罪悪感を抱えながら、
大都会東京で、
最後の恋を求めて彷徨っている。
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