夢カクテル

繁華街を抜け、まだLEDも設置されていない蛍光灯の並ぶ路地に面した急な階段を下ると、そんな寂れた景色には不釣り合いである重厚な鉄製の扉がある。扉に着いた取手に手をかけ、力を入れて奥に押して開ける。

中には屈強な男が二人、黒いスーツ姿で立っている。会員証を提示し、両手を挙げると、男の一人が念入りにボディーチェックを行う。それが終わると、もう一人が電子カードをかざし、更に奥の自動ドアが開く。

「いらっしゃいませ」

入り口右手のバーカウンターから、チョッキに蝶ネクタイを締めた、ちょび髭面のバーテンダーがグラスをナプキンで拭きながら挨拶をする。

僕は、カウンターの前にある革製の丸椅子に腰掛ける。

「今日は新人が三人、入っています」

ちょび髭のバーテンダーはそう言って、電子タブレットを僕の前に差し出した。十代だろうか、僕はそのあどけなさの残る三人の女の子のデータをチェックする。その中から一人、ショートカットの黒髪の子を選び、ちょび髭のバーテンダーにタブレットを返した。

「かしこまりました」

ちょび髭のバーテンダーは軽く会釈して、カウンターの後ろに並んだ筒状のポッドを一つ引き抜き、中からSIMカードを取り出した。

「こちらになります、代金の方はご登録の口座から翌日、引き落とされます」

「わかった」

僕はSIMを受け取り、急いで家路に着いた。

LEDに照らされた街の夜景を見下ろしながら、僕はグラス型のモニターの右淵にある差し込み口にSIMを差し込む。

街の夜景は一瞬にして溶けるように消え失せ、僕の眼前に緑豊かな景色が広がった。聞いたこともないような、鳥の鳴き声が耳に響く。僕は獣道を当てもなく歩く。

すると、水の流れる音が聞こえてきた。滝だろうか、音の聞こえる方に向かって僕は歩いた。

落差五メートルくらいの滝壺が見え、華奢な身体をした女の子が水浴びをしていた。黒髪ショートのあの娘だ。贅肉の全く付いてない美しい身体に僕は見惚れた。彼女が僕の気配に気づき、まだ幼い乳房を右腕で隠し、左手で恥部を覆いながらこちらを振り返った。

「やあ、夢の世界は初めてかな?」

僕はスーツと、シャツを川辺に脱ぎ捨て滝壺に入った。

「あら、お客様ね。前もってシュミレーションの講習は受けてたんだけど・・・」

「じゃあ、僕が初めての客だね」

クロールで彼女の傍らまで泳ぎ、僕は彼女の黒く澄んだ瞳を覗き込んだ。

「ええ、そうよ。エミといいます、宜しくね」

僕は彼女の華奢な肩を抱き、滝壺の深淵へと沈み込んだ。