見出し画像

【読書感想】「未来のだるまちゃんへ」  かこさとし

読了日:2017/9/25

Amazonで購入する

『だるまちゃんとてんぐちゃん』など数多の人気絵本を世に送り出してきた著者。19歳で敗戦を迎え、態度を変えた大人に失望した著者は「子供達のために役に立ちたい」と、セツルメント活動に励むようになる。そこでは、絵本創作の原点となる子供達との出会いがあった。全ての親子へ贈る、希望のメッセージ。
「BOOK」データベースより

この本の概要

マンガ「黒子のバスケ」を読んだり、ずっとやめていたツムツム(スマホゲーム)を再開してしまったりで、すっかり読書時間が減少している(笑)
読みたい気持ちはいつもあるんだけど…。
なんなんでしょう、この波は。

この本の著者は「だるまちゃんとてんぐちゃん」「どろぼうがっこう」「からすのぱんやさん」など、人気絵本の生みの親、かこさとしさん。
内容は自伝エッセイです。

前半はかこさんの幼少期~大学時代(敗戦)までの生い立ちの話で、後半は絵本作家になるまでの話。最後にかこさんの思いが書かれています。

かこさんは戦時中を生きのびた世代の人です。
かこさんが中学校のときは、世の中が戦争に突き進んでいく時代。当時のかこさんは、「軍人になって飛行機乗りになる!」と思っていたそうです。ですが、身体測定でひっかかり、軍人になれないことがわかります。
軍人になれないことがわかったかこさん。今度は技術者への道を目指し、東大に入りますがそこで終戦に…。

戦争が終わり、今まで「お国のために」と言っていた大人たちは手のひらを返したようにアメリカ寄りな発言をし始めます。
かこさんは、そんな大人に落胆・失望し、同時に自分だけ生き残ってしまった無力感にさいなまれます。

生きる意味を見失っていたかこさんですが、大学の先生の言葉や、セツルメント活動(ボランティア的な活動)をきっかけに、徐々に気持ちも前向きに。
その後、社会人になり会社に勤めながらセツルメント活動を継続し、40歳後半で専業の絵本作家になり現在に至る、
とまぁこんな感じの生い立ちです。

副業生活

かこさんは、会社員と絵本作家(半分ボランティア)という復業ライフを20年くらいやっていましたが、その復業ライフは、絵本にも仕事にもすごくよかったと書いてました。 

私も共感。
ひとつの仕事だけより、別の何かを持ってる人は強い。それは金になる複業でもいいし、ボランティアでもいいし、子育てでもいいし、趣味に没頭するでもいい。
会社だけだと、どんなに視野を広げようと頑張っても限界があるし、できる経験も少ない。
どんな会社でも、今はいつ潰れるかわかりません。会社の仕事だけの人生は、会社という拠り所を失ったとき、金銭的にも精神的にも脆いよなぁと思うんです。

かこさんは、会社に内緒で20年ほど復業し、最後には絵本一本でくらせるようになりました。
みんながみんな、成功するわけではないけど、やっぱりやりたいことがあったら「どうせ無理だ」とか思わず、まずはやってかないとなぁ。

復業生活のしわよせ

復業生活を続けるなかで、犠牲になったものもありました。
会社と、絵本・紙芝居作りという二足のわらじ生活が忙しくない訳はありません。その忙しさの皺寄せは家庭にいってたそうです。 
家のことや子育てはすべて妻にまかせ、土日になればボランティア活動で外出続き。
家にいても絵本作りに没頭。

奥さんは承知したうえで結婚したし、当時はそういう家庭が当たり前だったけど、かこさんちの子供からみれば、「自分の相手はちっともしないくせに土日に余所の子と遊んでるの?!」と面白くなかったんだそうです。

選択するということ

生きるということは選択の連続。
すべての選択は何かを得て、何かを諦めるということなんだなぁと思います。
そして、最近思うんです。
なにかを選択をするときには、自分の中の優先度を自覚・認識し、必要に応じて周囲と話しあい、その選択を理解してもらえるよう調整していくスキルが必要なんじゃないかな、と。

かこさんは、絵本作りやボランティア活動を選び、家庭人として、良き父になるという道は選びませんでした。
奥さんには結婚時にセツルメント活動のことを説明し、理解してもらったうえで結婚したんだそうです。

かこさんの選択は、家族の犠牲や理解のもとに成り立っていたけど、一応、きちんと自分が選択したものについて説明はしてたんですよね。(奥さんが心から理解していたかはわからないけど。)

優先度をつける→大事にしないものを決める

選択するには物事に優先度をつける必要があります。
おそらく優先度を付けるといくとき、多くの人が大事なものを選ぶ方に目が行くと思うんです。でも、大事なものを選ぶってことは、同時に大事にしないことを決めるということなんですよね。

複数の何かを選ぶとき、選ばないものの方に目を向けることが、実はとてもとても大切なのではないかしら。もしかしたら、大事なものを選ぶことよりも。
それが下手だから、捨てるものを選べず全部大事に扱って過負荷になり、なにも決められない状態に陥るのかなと思うんです。
仕事も、家事も、会社の業務も、政治も。

子供らには「大事なこと」を選ばせることと同時に、「切り捨てること」を選ぶ視点も育てていく必要があるなぁと、かこさんの人生の選択を読みながら思いました。

説明し、理解してもらうことの重要性

かこさんは、セツルメント活動を選び、家庭を犠牲にした部分がありましたが、自分が選んだものにたいして自覚的で、奥さんにその選択を説明し理解を得たうえで結婚しています。

当時と今とでは世の中の状況も違うので、実際、奥さんがどう思っていたのかはわかりません。でも、かこさんのように、なにかを選択したとき、それをきちんと周囲に説明することは大事だなぁと思いました。

特に、私たち日本人は、説明したり、議論したりするコミュニケーションが苦手です。だから「空気を読む」「顔色を伺う」というスキルを重要視し、そのスキルが高い人を「コミュニケーション能力が高い」と表現してしまいます。

でも、空気的に言いにくい場でも、自分の思ったことをきちんと自分の言葉で伝えられることが、本当のコミュニケーションスキルが高いということだと思うんです。

昔かたぎのお父さんや昭和世代の多くは、高倉健のように「無口でなにもいわずになにかを成し遂げる」男を理想像として掲げがちです。(高倉健が実際どうかはわかりません。私のなかでは高倉健は「自分、不器用ですから」のイメージなので。)
でも、それは実はコミュニケーションが苦手な人たちが、コミュニケーション力を向上することから逃げて、無理やり「かっこよさ」に昇華させてるだけなんじゃないかと思えるんです。

これから先は、高倉健のように黙ってなんにも言わない人は、「できる人」「かっこいい人」とは思われなくなってくるんじゃないかなぁ。

私も人の親なので、勉強ができるとか、スポーツができるとか、子供に対して「こうなってほしい」という思いはたくさんあります。だけど、この
「優先度をつけて、大事にしないものを決めるスキル」と、
「選択したことを周囲に説明するスキル」
を押さえておけば、運動ができなくても、勉強ができなくても、そこそこなんとかなるんじゃないかなぁ
と思います。

そのスキルを伸ばすのが難しいんだけどさ(笑)

ワタクシ的名文

そのお医者さんは緑内障の日本の権威なので、毎日、朝からお年寄りの長い行列ができます。「緑内障にかかる人が増えた」のではなくて「長生きする人が増えた」ので、緑内障が増えたように見える。その結果と論文を、お医者さんは示してくださいました。要するに長生き病というわけです。
なるほど、そういうものかもしれないなあと思いました。だったら嘆くよりこれも個性だと思えばいい。そういうものはきっと誰にでもあるはずで、僕は欠点に見えるものとどう付き合うかで、人間の厚みが出るんだろうと思ったのです

最後の一文がいいなぁ。
歳をとって緑内障になったけど、考え方を変え、それを個性ととらえる。
欠点と向き合って、人間の厚みがでるというのがとてもいい。

「諸君。よくぞ生き残ってきた。どうか体を丈夫にして、これからの世の中を生き延びてくれ。」
何が始まったのかといぶかしく思っていると、先生は構わずこう続けます。
「いいか。諸君。そのためには体操をよくしなさい。私は若い頃からデンマーク体操をやってきた。」
きっぱりとそういうと、やおらその「デンマーク体操」とやらを、ブンブン腕を振り回しながら、真剣な面持ちで黙々とやり始めたのです。
(中略)
非常時において、教科書通りの話をして何になる。
歴戦の現場を渡り歩いて来た人だからこそ、今、何を学生たちに語りかけるべきか、考え抜いたのに違いありません。

敗戦後、東大の授業で、「がんちゃん」という先生が言った言葉です。
デンマーク体操が気になります(笑)
この授業がきっかけで、生きる意味を失ってヤケになっていたかこさんが、少し上を向けるようになったのだそうです。
「非常時において、教科書通りの話をして何になる」ってのがいい。
人が変わるきっかけって面白い。

生きるということは、本当は、喜びです。
生きていくというのは、本当はとても、うんと面白いこと、楽しいことです。

もう何も信じられないと打ちひしがれていた時に、僕はそれを子供達から教わりました。

ほんと、そうだなぁ。
「働き方改革、楽しくないのはなんでだろう」という広告で話題になってるうちの会社ですが、みんな仕事も生活も真面目にしなきゃと思い込んでて、「楽しむ」ことの優先度を下げちゃってないかい?と思うのです。
人生は短い。
死ぬときに後悔しないためにも、人生は面白がって、楽しくいきたいし、そのためにどうすればいいか、みんなで考えていけるといいのになぁ。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?