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【読書感想】「ヤッさん」原宏一

読了日:2012/11/16

銀座の街の片隅で、ホームレスとなっていたタカオは、 ある朝、ガタイのいいおじさんにたたき起こされる。 おじさんは「ヤッさん」と呼ばれる孤高のホームレス。
ホームレスながら、築地場内の人々と高級料理店の間を結ぶ コーディネータとして信頼を得ており、タカオにうまいものを食わせてくれる。
そんなヤッさんの人柄と心意気にひかれたタカオは、彼に弟子入り。
都会の街を走り回るホームレスとしての生活を始める。

痛快で面白い。
ヤッさんステキ。

この本の魅力はもうヤッさんにつきる。
ヤッさんのホームレス哲学がかっこいい。
冒頭から
「いいか若えの、そういう卑屈な態度は二度ととるんじゃねぇっ! ホームレスにはホームレスの矜持ってもんがなきゃならねえんだっ!」
とタカの頭を叩く。

ホームレスなのに清潔を心がけ、
ホームレスなのに腹筋背筋のトレーニングをかかさない。
ホームレスなのに周囲からの人望も厚く、
ホームレスなのにストイック。

矜持(プライド)には、2種類あると思う。
1つは自己保身や自分を高くみせるための矜持。
もう1つは心や行動の芯となる矜持。

自己保身や自分を高くみせるための矜持は、だいたい周囲にそのことが バレてしまってカッコ悪い。
ハタからみると滑稽なのに、当事者は自分がプライド高いことにも、それがバレてることにも気付いていない人が多い。

心や行動の芯となる矜持は、人にはなかなか見えないので、 表向きプライドがないようにも見える。
でもこちらの矜持の場合は、その人の行動や発言からさりげなく見えてきたりして、その人の存在をより魅力的にしてくれる。

ヤッさんはちょっと人とは違うとはいえ、いわゆるホームレス。
心無い人からひどいことを言われたりすることもあるけど、 人としての矜持は、そこらへんを歩いているサラリーマンよりもきちんと持っている。
ホームレスでなくても立派に生きていけるよ、 という勢い。
だがしかし、彼はストイックにホームレスライフを貫く。
いやーー。漢(オトコ)。

最後の終わり方もまた秀逸。
軽く読めるし、気持ち良い。

ワタクシ的名言

「馬鹿野郎っ、ホームレスだからこそ体力がなきゃだめなんじゃねえか。
おれたちにゃ健康保険も医療保険の何もねえんだ。長年ホームレス張っていくつもりなら健康維持は生命線だ。健康のためなら死んでもいい!それぐれえの根性決めて頑張んなきゃな」
「馬鹿野郎っ!利いたふうなことを抜かすなっ!ちゃんと話を聞いたうえで、二度と話すなといってんだからどこが悪い。おめえが考えてるような上っ面の同情が 一人の人間をだめにしちまうってことがわからねえのかっ」
「そんなもなあ上っ面だ。そもそも同情なんてもの自体が上っ面じゃねえか。いいか、身の上話ってのは逃げなんだ。あたしはこんな身の上だから仕方ないってあきらめたり、こんな身の上だから助けてって、だれかにすがりつくための逃げの道具でしかねえんだよ。そんなもんに頼っててどうするんだ。
若えうちから身の上話にすがる根性でいたら、一生、身の上話に頼っていきてくようなヤツになっちまうんだ。」
「おれたちゃ税金ってもんを払ってねえだろうがっ。一円たりとも税金を払ってねぇ人間に、政治や行政の問題に口出ししたり批判したりする資格なんざねえんだっ」

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