【読書感想】木練柿 あさのあつこ
この本の概要
感想
弥勒の月シリーズ第三弾。これまでの二作は長編でしたが今回は四つの短編でした。長編もいいけど短めのもいい。
それぞれの物語に登場する周囲の人々や様々な立場の人との会話で、信次郎や清之介のみえなかった人物像が少しずつみえてきて、より、その人となりに厚みが増してきてる感じがします。
特に信次郎。性格に難ありなのは変わらずだし、近くにいたら確かに「あー嫌だ」ってなると思うんですけど、なんだってこんなジャックナイフなヤツになっちゃったのかが気になります。
もともとなのか、お父さんの死が絡んでたりするのか?
私が続きを読みたいと思うのは、彼を知りたいという要素も大きいです。
もうひとつは清之介さん。この人がどう過去と対峙していくのか、そこも気になります。
つらい過去を抱えている彼が、うっかりダークサイドに落ちぬよう見守っていきたいと思います。
ワタクシ的明文
「宵に咲く花」は、伊佐治の息子の嫁さん・おけいのお話。おけいが結婚する前に自分の旦那となる太助を見定めようと、太助の店(伊佐治の店)を訪れたことについて、後に伊佐治から言われたことば。
「人間、芯がなきゃ泥人形と同じ」。たしかにそのとおりだなぁと思いました。一方で、自分の芯がどこにあるかっていうことにはきっと多くの人が無自覚だとも思う。私も、自分の芯ってなんだろうな?って考えたけど、よくわからないもんね。
「楽しく生きる」「味わい尽くす」「幸せに暮らす」とかかなぁ?
「人は変わる」「人は変わらない」。
いろんな場面でこのふたつの考えは耳にします。
たとえば仕事してて「この人イヤだなぁ」って思ったとき、「人は変えられないし、あの人に変わってもらうことを期待してもしょうがないか」と思う人も多いでしょう。
逆に「前はこうだったけど今はこう変わった。人ってこんなにも考え方が変えられるんです!」みたいな話も聞きます。
「人は変わらない」は他者に対して使われることが多く、「人は変わる」は自分自身の変化にフォーカスしたときに使われることが多い気がしています。
「人は変わらない」は、たしかにひとつの真理かもしれない。けど、対象となる人の心が自ら動けばきっと変われるのだと思います。
伊佐治は、人は変わることを信じている。悪く変わることもあるけど、良く変わることもあると信じている。
本当に、彼はこの小説の良心だなぁ。
いいヤツだ。
文庫本おわりの解説から。
書評家・青木逸美さんが書いた解説なんですが、さすが書評家だけある!!
この本の魅力とおもしろさがすごくしっくりくる感じで語られています。「そうそう!そういうところが面白いのよ」と読みながらめちゃ共感してました。
そのなかでもこの部分が特にグッときました
幸せに生きることは本当に難しい。
なにかを為さなくても、日々生きることに精一杯でも、人はみな、必死で幸せになろうと生きている。
人ってのは愚かで愛おしい。
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