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[report]『版画の青春 小野忠重と版画運動』町田市立国際版画美術館


開催情報

『版画の青春 小野忠重と版画運動』
―激動の1930-40年代を版画に刻んだ若者たち―
場所:町田市立国際版画美術館(東京都町田市)
開催日:2024.3.16.sat-5.19.sun
入館料:900円(一般)
 ぐるっとパスで入場可
 SNS割引:一律:200円引
 X(旧Twitter)、Instagramほか各種SNSにて、「#町田市立国際版画美術館」のハッシュタグをつけて、ポスター、看板など本展のロゴが入った画像シェアすると、観覧券が200円引

内容:
・「新版画集団」「造型版画協会」の版画運動の歴史的、美術史的意義を検証する
・1930年代、関東大震災から復興し、近代都市へと変貌を遂げる一方、戦時体制へと歩みが進んだ時代に版画に熱中した青年たちが、いかにこの時代を越えようとしたかを考える。

見どころ
・知られざる1930-40年代の創作版画を約300点展示
・藤牧義夫《つき》

同時開催
『日本のグラフィック・デザイナーと版画』(入場無料)
2024.3.13.wed-5.26.sun
内容:永井一正、横尾忠則、和田誠などグラフィックデザイナーの版画を通じて、グラフィック・デザインと版画の響き合いを楽しむ

※写真撮影可のマークのある作品のみ撮影可

主な登場人物(生年順)…人数多いヨ

  • 上阪雅人(1877-1953)
    版画家。日本画も学ぶ。

  • 山本かなえ(1882-1946)
    版画家。文芸誌「明星」に最初の創作版画《漁夫》を発表。

  • 蓬田兵衛門(1886-1947)
    版画家。深澤索一に木版を学ぶ。

  • 武藤完一かんいち(1892-1982)
    版画家。長年に渡り大分の図画・美術教育に貢献。

  • 武田由平(1892-1989)
    版画家。小学校教師。大分県中津市の美術振興に尽力、版画教育に取り組む。

  • 江端芳市よしいち(1899-1986)
    版画家。戦後活動不明。

  • 段塚青一(1900-1984)
    版画家。詩作も行う。戦後の版画制作は「魚郎」の名で発表。

  • 松尾醇一郎(1901-1945)
    版画家。戦後消息不明。

  • 吉田正三(1901-1972)
    版画家。家業は千住絵馬屋吉田屋。
    俳句が得意。俳号は「絵馬寿」。

  • 新田じょう(1905-1949)
    版画家。1932年「熊野きつつき会」結成。朝鮮半島に渡り作品制作に専念するも、困窮し帰郷。新宮市で事務員として働きつつ、作品を制作。

  • 杉本義夫(1905-2001)
    版画家。地元新富市の芸術文化振興に貢献。

  • 矢田卿二(桂一、桂示)(1907-1965)
    版画家。石版印刷に従事。

  • 柴秀夫(1907-1979)
    版画家。商店員。独学で木版を学ぶ。
    1957以降創作から遠ざかる。

  • 武藤六郎(1907-1995)
    版画家。「折染おりせん」を研究。中部女子短期大学で後進の指導にあたる。

  • 斎藤清(1907-1997)
    版画家。代表作「会津の冬」

  • 畑野織蔵(1908-1992)
    版画家。

  • 松下義雄(芳太郎)(1908-1993)
    版画家。家業は釜師。錫の金工家。「喜山」の号。

  • 谷口薫美くんび(董美)(1909-1964)
    版画家。小学校教員。

  • 黒木貞雄(1909-1984)
    版画家。宮城県文化賞受賞。

  • 小野忠重(1909-1990)
    版画家。「新版画集団」「造型版画協会」のリーダー。

  • 河合光(1909-1991)
    版画家。武藤六郎の誘いで版画活動に参加。

  • 大田耕士(1909-1998)
    版画家。1951年日本教育版画協会を創立。

  • 堀一惠(?)
    1934-35の2年間のみ新版画集団と関わる。

  • 末木(荒井)東留とおる(?)
    版画家。独学で版画を習得?1942年以降消息不明

  • 北澤博(?)
    版画家。

  • 栗田しゅう(?-1940?)
    版画家。

  • 吉原正道(1910-没年不明)
    版画家。1937年呉服屋で着物デザインに携わる。

  • 宇治山哲平(1910-1986)
    版画家。別府大学教授として後進の指導に携わる。

  • 東一雄(1910-2000)
    版画家。戦後の富山の美術振興に尽力。

  • 藤牧義夫(1911-1935?行方不明)
    版画家。

  • 大久保一(1911-1991)
    版画家。戦後は教員?

  • 菊池善二郎(1911-1996)
    版画家。プロレタリア美術運動に参加。

  • 水船みずふね六洲ろくしゅう(1912-1982)
    版画家。彫刻家。戦後も彫刻と版画を発表。関東学院小学校校長。

  • 佐伯留守夫るすお(1912-1986)
    版画家。二度の徴兵。1946年復員。

  • 大道寺すすむ(1912-2005)
    版画家。戦後、関東学院大学で教鞭を取る。ディーゼル機関研究の大家。

  • 伊東健乃典けんのすけ(1913-1980)
    版画家。

  • 飯野農夫也のぶや(1913-2006)
    版画家。

  • 武田(鈴木)健夫(1913-2013)
    版画家。日本興業銀行常務。小野田セメント副社長。

  • 清水正博(1914-2011)
    版画家。

  • 北岡文雄(坂上登)(1918-2007)
    版画家。

  • 永井一正(1929-)

  • 田中一光(1930-2002)

  • 福田繁雄(1932-2009)

  • 和田誠(1936-2019)

  • 横尾忠則(1936-)

  • 滝沢恭司(1962-)
    町田市立国際版画美術館学芸員。本展企画者。

単語

  • 【創作版画】作家自らが下絵を描き、版を彫り、摺る「自画・自刻・自摺」を標榜とする。1904年山本鼎が文芸誌「明星」発表した《漁夫》が最初とされる。

  • 【新版画集団】1932年小野忠重らが結成。「版画の大衆化」を掲げて版画運動を行う。1936年一旦解散。メンバーの一部が「造型版画協会」を結成して版画運動を継続・発展させた。

  • 【造型版画協会】1937年結成。1950年代まで活動。

  • 【版画懇話会】1954年結成。

年表

1868-1912 明治時代
1904 山本鼎《漁夫》を発表(創作版画の始まり)
1907 石井柏亭、森田恒友、山本鼎の三人によって版画雑誌『方寸』が発行。
   創作版画の認知度の向上に貢献。
1904-1905 日露戦争
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1912-1926 大正時代
1919 日本創作版画協会 結成
1923 関東大震災
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1926-1989 昭和時代
1931 満州事変勃発
1932 「新版画集団」結成
1936 226事件
1937 日中戦争勃発
1937 「造形版画協会」結成
1941 太平洋戦争はじまる
1945 無条件降伏(ポツダム宣言受諾)
1949 造形版画協会 活動再開
1951 日本宣伝美術会 設立
1954 「版画懇話会」結成
1955 造形版画協会 活動停止
1959 日本デザインセンター 発足

章構成覚書

  1. 第一部: 新版画集団 ―「版画の大衆化」を掲げて
    第Ⅰ章: 1932年 ―「新版画集団」結成
     1932年4月 20代前半の若者をはじめ22名が「新版画集団」を結成。
     「版画の大衆化」を掲げ、内容の大衆化、多くの人々が鑑賞できる方法で発表することを訴えた。
     第1節: 版画誌『新版画』創刊(~第6号)
     第2節: 第1回展の開催
      新版画集団展覧会ポスター、看板
    第Ⅱ章 1933-36年 ― 版画運動の進展と解散
     「新版画集団」は、機関紙『新版画』の発行、年1~2回の展覧会などを通じ、版画運動を進展させる。
     「版画の大衆化」に対する集団員の問題意識が変わり、版画の絵画性を充実させる方向性に仕切り直すため1936年12月解散。
     第1節: 版画誌『新版画』発行の継続(第7号~18号)
     第2節: 版画の大衆化に向けて ― 時代を映す多様な版画の制作
     コラム1: 第1回版画アンデパンダン展特別陳列「版画に於ける組織的制作」について
    (サイズの大きい油彩画と日本画に匹敵する表現を獲得するため「形式」について研究)
      第1部 画面拡大
      第2部 組作(風景、催事などをシリーズ化する)
      第3部 連作並ニ物語版画(文学、物語を連作の対象にする)
     コラム2: 江戸東京風景版画展の開催
     コラム3: さまざまな版画集の発行

  2. 第二部:造型版画協会(戦前を中心に) ― 絵画的充実を目指して
    第Ⅰ章 1937年 ―「造型版画協会」結成時のメンバーと戦前の作品
     1937年3月、新版画集団のメンバー5名が造型版画協会を結成。
     版画もまた「絵画」であるとし、マチエールなど造形性の充実や作品の大型化を重視しながら版画の独自性を追求することにより、結果的に版画への大衆の関心を拡充してゆく。
    第Ⅱ章 1938-43年 ― 戦時下での活動 新たな会員と公募出品者
     1943年、公募形式の第7回展後、戦争の激化にともなって活動を停止。
     コラム4: 造型版画協会第2回展での「現代仏蘭西版画」の特別陳列
      ピカソ、マチス、ルオー、シャガール、ミロ
     コラム5: 「日本の銅版画と石版画の歴史」展の開催
     コラム6: 造型版画協会第6回展での「小林清親 井上安治」の特別陳列
    第Ⅲ章 戦後、あらたな時代へ 運動の継続と表現の模索
     1949年12月戦後初の展覧会を開催し、活動再開。
     1954年の第12回展まで展覧会を実施。1955年を最後に活動を止め、その後自然消滅。
     版画運動は1954年結成の「版画懇話会」の活動に引き継がれる。

関連ページ

↓TOKYO ART BEAT レビュー(評:水沢勉)

↓ Sfmart レビュー(ライター:浜野タコ)

感想

タイトル「版画の青春」を聞いて思った。「…版画さん、今お幾つでしたっけ?」
ここで言う"版画"は"創作版画"。
1904年山本鼎《漁夫》発表を誕生とすると 120 才。…ご高齢ですね。
そもそも"創作版画"って何だっけ?と、調べたところ、大正〜明治期の木版画再興の動きのことで、2方向あり一方が"創作版画"、もう片方が渡邊正三郎(1885-1962)の"新版画"運動のようです。
(その頃、安井仲治(1903-1942)が写真を撮っていた…という立ち位置でしょうか)

↓国立国会図書館 コラム「創作版画と新版画」

「新版画集団」は「版画の大衆化」を掲げているだけあって、参加者もアマチュアが多く、小学校教師で後に教育者として後進の指導に励む人、本業と並行して創作活動を続ける人、その後、作品を発表することなく消息不明になる人など、様々。

撮影可の作品の中から、印象に残った展示をいくつか…

【藤牧義夫】

左:17.藤牧義夫《第1回新版画集団展覧会ポスター》小野忠重版画館蔵
右:75.藤牧義夫《新版画集団第2回展ポスター》小野忠重版画館蔵

文字もかわいい!
左のポスターの「第」の竹冠が耳みたいで下の跳ね払いが手足みたいなところ、右のポスターの「新」の点、「版」のくるんとしたところ、かわいい。

100.藤牧義夫《つき(『新版画』12号収録)》神奈川県立近代美術館蔵

これを観に来たと言っても過言ではない《つき》。
ただ…noteで「美術館とお寺と猫」さんもおっしゃっていますが↓

このケース、上からだと曇って観えるんですよね。
壁に掛かっている作品も、反射が気になるものと、ほとんど反射していないものがあったので、光のあたり方なのかな?と思ったりもしましたが…
ケースを都度、中腰で眺めていくのは、地味に足腰にきます。

フラフラと電車がやって来る。
あのスパークはため息だ。
吐く息は皆蒼い。
驛もガードも人も車も
僕はうれしくなって目を閉ぢた。

11 藤牧義夫《御徒町駅の付近で 東京夜曲A(『新版画』4号収録)》より

…ウーン、カッコいいですね。

【水船六洲】
西洋風のモダンな作品が目を惹きます。
お兄さんは洋画家、水船三洋。
《聖母礼賛》などキリスト教の宗教画のような作品もあったので、もしかしてクリスチャンかと思ったのですが、どうなんでしょう。

119.水船六洲《白衣》小野忠重版画館蔵

【宇治山哲平】
カクカクした感じが面白い。(マインクラフトを連想してしまった)
《小田ノ池》の方が好きだけど、そちらは撮影不可。

188.宇治山哲平《裸木と山》和歌山県立近代美術館蔵

【武藤六郎】
レトロな雰囲気。

30.武藤六郎《日暮里遠望》個人蔵
木版4枚続
133. 武藤六郎《無人島と赤きカノー(小笠原島)》町田市立国際版画美術館蔵

【小野忠重】
若い頃の作品は、チューブから直接絵の具を捻り出したような黒々として重苦しい作品が多い。

38.小野忠重《生糸輸出》東京国立近代美術館蔵

戦後になると黒が茶や紺に変わり、だいぶ薄くなる。(…が、基本的に重くて暗い)

265.小野忠重《工場》町田市立国際版画美術館蔵

体力配分を間違え、ヘロヘロに…
終盤は、じっくり見る余力がなかった。
展示作品が多いこと、ソファはあるものの作品が小さく座って鑑賞できるものがなかったこと、ケース展示を中腰で横から見ることが多かったことから、体力をかなり使いました。

同時開催の「日本のグラフィック・デザイナーと版画」は、大きくて色のはっきりした作品が多いのでソファに座って眺めることもできるのですが…


もはや集中力を欠いて、じっくり鑑賞できていませんが「日本のグラフィック・デザイナーと版画」から、いくつか…

3.永井一正《CD》町田市立国際版画美術館蔵
…CDというより、蚊取り線香ぽい
19.和田誠《『ねこのシジミ』のための原画》町田市立国際版画美術館蔵
かわいいー。やはり疲れてくると、かわいいものしか目に入らなくなってくる。

次回予告(町田市立国際版画美術館)

おまけ(ポケふた)



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