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[report]『新収蔵作品展』&『黒崎彰50年の軌跡』

※タイトル画像 ヨルク・シュマイサー《『中国キャセイ』より「鳳凰」》[部分]町田市立国際版画美術館


開催情報

『新収蔵作品展 Present for You わたしからあなたへ/みんなから未来へ』
開催日:2023.12.21.thu-2024.2.18.sun
場所:町田市立国際版画美術館 企画展示室2(東京都町田市)
内容:2022年度から2023年度にかけて新たに町田市立国際版画美術館に収蔵された445点中、約100点を紹介(半分くらいヨルク・シュマイサー)
観覧料:入場無料

『黒崎彰50年の軌跡』
開催日:2023.12.21.thu-2024.3.10.sun
場所:町田市立国際版画美術館 常設展示室
内容:版画家・版画研究家 黒崎彰の作品30点を展示
観覧料:入場無料

『第37回 町田市公立小中学校作品展』
開催日:2024.1.12.fri-2.18.sun
場所:町田市立国際版画美術館 企画展示室1
内容:町田市内の公立小・中学校でおこなわれている図画工作、書写、美術の日頃の学習の成果を公開。
観覧料:入場無料

公式サイト:町田市立国際版画美術館

※入り口で配布のプリント資料と展覧会内のキャプションは同一。
 詳しめな作家紹介と展示リストなので、もらっておくのお勧めです。

主な登場人物

  • 谷中安規やすのり(1897-1946)
    版画家。奈良県初瀬町出身。
    佐藤春夫や内田百閒と親しく交流し、挿絵も作成した。

  • 勝平得之とくし(1904-1971)
    版画家。秋田市出身。郷土特有の風俗などに取材した土俗性の強い親しみやすい木版画を制作。

  • 笠木みのる(1920-2018)
    洋画家、版画家(銅版画)。群馬県桐生市出身。
    西田武雄主催のエッチング研究所に通った。

  • 招瑞娟(1924-2020)
    神戸華僑として幼少期から日本に住む。
    李平凡の「神戸新集体版画協会」に参加。平和や公害・環境問題をテーマに制作。コルヴィッツ、丸木夫妻、上野誠からの影響も大きい。

  • 詹永年(1926-)
    福建省出身。招と共に東京美術学校油画科に特別学生として入学、その後招と結婚。

  • 若林いさむ(1936-2003)
    彫刻家。町田市原町田出身。

  • 井田照一(1941-2006)
    現代美術家。京都市出身。

  • 榎倉康二(1942-1995)
    現代美術家。東京都出身。「もの派」。

  • 池田俊彦(1980-)
    版画家。東京都出身。緻密な銅版画の古典技法に定評がある。

  • 門坂りゅう(1948-2014)
    版画家、イラストレーター。京都出身。
    エングレーヴィング技法の第一人者。

  • 藤田修(1953-)
    版画家。神奈川県出身。フォトポリマーグラヴュールの制作を行う。

  • ヤン・フォス(1936-)
    パリ在住のアーティスト。ドイツ・ハンブルク生まれ。

  • ヨルク・シュマイサー(1942-2012)
    版画家。ドイツ出身。「旅する版画家」と呼ばれる。
    生涯にわたるテーマは「変化」。

  • 黒崎彰(1937-2019)
    版画家。浮世絵の技術を活かした木版画作品で知られる。
    シュマイサーに浮世絵の職人や道具を扱う店を紹介した。

単語

  • 【もの派】
    未加工の素材を空間に提示

  • 【エングレーヴィング技法】
    金属板に刃物で直に線を刻む技法。習得が難しく、職人的な修行が必要とされる。

  • 【フォトポリマーグラヴュール】
    紫外線で硬化する合成樹脂フォトポリマーを版に用いた凹版画。
    露光は一度限り。柔らかく深みのある黒が特徴。

  • (黒崎の)【ペーパーワーク】
    「自分の手で漉いた紙による造形」。1点ずつしか制作できないため、実物を見る機会が限られる。

展示構成…覚書を添えて

企画展示室1(小中学校作品展) → 企画展示室2(新収蔵作品展) → 常設展示室(黒崎彰展)が順路。
常設展示室から入ることはできるが、企画展示室2はどちらかの部屋を通らないと行けない。

  • 『新収蔵作品展 Present for You わたしからあなたへ/みんなから未来へ』
    …展示の後半はヨルク・シュマイサー
    谷中安規『街の本』
    勝平得之『秋田風俗十態』
    若林奮『52 記』…限定30部
    井田照一『Red Lotus in Well-Locus Sutra』…法華経(Lotus Sutra)に着想。「血」「肉体」をイメージ。
    榎倉康二「干渉」
    池田俊彦「笑う黄金種族 騎士と死と悪魔」
    門坂流『風力の学派』掲載作より
    藤田修『TORSO』より

    ヨルク・シュマイサー
    『彼女は老いていく』 『変化』『日記』南極訪問
    『古事記』より 『中国キャセイ』より

  • 『黒崎彰50年の軌跡』
    1965 学生時代に重度の結核を患い、信仰に救いを求める→新約聖書をテーマにした表現主義的な木版画
    1968 欧米偏重の教育に疑問。伝統木版の職人の元に通い、浮世絵の技法を習得。→<浄夜>
    1970 幕末浮世絵の赤を実現→<赤い闇>
    1973 研修で欧米に滞在
    1979 中国への旅→<軌跡>シリーズ
    1980 韓国への旅→ペーパーワーク(自身で漉いた紙による造形)
    2011 <近江八景>(滋賀を舞台)
    2014 『万葉』<大和>

感想

お目当ては谷中安規とヨルク・シュマイサー。
結論から言うと、谷中安規は冒頭4点のみでしたが、会場の半分くらいヨルク・シュマイサーだったので満足。
新しく好きな作家とも出会えました。
以下、ダラダラとレビュー。

今回の展示は町田市立の美術館が町田市民へのお披露目ということで観覧料が無料。
町田市民じゃないのにお相伴にあずかり、申し訳ない。

さて、『新収蔵作品展』はどこだろう?とキョロキョロするも、会場が見当たりません。
『第37回 町田市公立小中学校作品展』の会場を通過しないと辿り着けない模様。
企画展示室1へ進みます。

『第37回 町田市公立小中学校作品展』

懐かしい。
選んだ作品でなく生徒全員分を展示してるようです。
町田市に雪が降るのは年に1〜2回くらいと思うのですが、やっぱり「冬は雪」なのね〜とか、こたつって意外とまだ家にあるのね、とか、"YouTuber"って縦書き難しいよね横書きしたらダメなのかねカタカナだとイメージ違うのかな、とか思いながら進みます。
作品のお題がわからないので「鯉」「苺」「一位」「子羊」「騎士」と書き初めされているのを見て、これお題何???と首を捻ります。


『新収蔵作品展 Present for You わたしからあなたへ/みんなから未来へ』

…この会場、すごく展示作品のガラスに背景が映り込んでしまいます。
そもそもワタクシ、写真撮るの下手なので(イメージ映像)として参考程度にご覧ください。

谷中安規《『街の本』渋谷》町田市立国際版画美術館

最初に推しが来たので、かなり満足。

・門坂流《水流》(撮影不可)
天気予報を見ていると時々出てくる等高線みたいな風の画像ありますよね。
「ウィンドフロー」というのでしょうか。
いつも美しいなーと思って見ているのですが、それを連想しました。
解説によると門坂流は幼い頃から水の流れや炎の形の変化をあかず眺めていたとのこと。
画集『風力の学派』見てみたいけど、出版社品切れなので古本屋か図書館探すか…
ISBN : 9784324012178

・藤田修(撮影不可)
深く柔らかい、こっくりとした黒。
ベルベットのように吸い込まれていきそう。
フォトポリマーグラヴェールという手法とのこと。

・ヨルク・シュマイサー
「ミニ ヨルク・シュマイサー展」と言ってよいほど、後ろ半分はヨルク・シュマイサーです。

銅版版に加筆・修正を加えて連作にしていく作品が多いです。
…浮世絵の「変わり図」みたいな感じでしょうか。

ヨルク・シュマイサー《『彼女は老いていく』より 3枚目》町田市立国際版画美術館
上の画像のアップ(部分)

画面に文字を書き込むのはシュマイサーの特徴のひとつ。
銅版画で文字を刷るには左右を反転する必要がありますが、シュマイサーは鏡文字をすらすら書けたとのこと。(展示キャプションより)
…ただ、この絵のは、私にはなんか文字書いてあるなーくらいで読めません。

『変化』は、私は九相図くそうず(死体が朽ちていく様子を連作に描いたもの)を連想してしまいました。

ヨルク・シュマイサー《『京都清水寺』より①冬 ②春》町田市立国際版画美術館
こういう同じ場所で時間が違う、みたいな作品大好きです。
音楽に例えるなら変奏曲でしょうか
ヨルク・シュマイサー《モーソン基地》町田市立国際版画美術館
雪舟の水墨画を手がかりに暗青色の濃淡のみで描いた南極モーソン基地
ヨルク・シュマイサー《『古事記』のためのスケッチ》(部分)町田市立国際版画美術館

浮世絵の技術を学ぶために日本に留学したシュマイサー。
だが、大学には伝統木版の技術を教える講座はなかった。
指導者を探す中、木版画家・黒崎彰を知る。
黒崎は職人や道具を扱う店を紹介、シュマイサーはその行動力で短期間に交流範囲を広げていった。
…という、流れから『黒崎彰50年の軌跡』へと続きます。


『黒崎彰50年の軌跡』

…告白します。
この展覧会を知るまで黒崎彰氏、存じ上げませんでした。
ちなみにポスターに使われているのは《赤い闇》。

会場に入って気づくのは、ここの展示は何回目の版かと色の数、使っている紙が作品目と並んで書いてあること。
↓こんなふうに

黒崎彰《ピューターポット》木版5版6色、写真凸版2版2色 越前奉書紙
町田市立国際版画美術館

今まで使われている紙について、気にしていなかった自分に愕然。
普段、万年筆には裏抜けしないこのノートだよね、とか、暖かみのある水彩画ならこの紙かな、とか、ツルツルの紙とザラザラの紙、どっちにしようかなとか、言っているくせに。
どの紙を使うかで、発色も雰囲気も全然変わるの、当たり前ですよね。なんで気にならなかったんだろう。
後半の韓国の紙を使ったシリーズ、好きです。
韓国紙の非常に薄く、にじみ止めが施されていない特徴を活かし、裏から刷る、美しいにじみの効果を利用するなどして、表現を追求したとのこと。
今回の展示にはありませんが自身で漉いた紙を使った作品もあるらしく、見てみたい!

黒崎彰《『近江八景』より 唐崎の夜雨》2011 木版 韓国楮紙こうぞし
町田市立国際版画美術館
黒崎彰《『万葉』<大和>より 雪の佐保/光明皇后》2014 木版 八女紙やめがみ
町田市立国際版画美術館

「わが背子と 二人見ませば 幾許か この降る雪の 嬉しからまし」

町田市立国際版画美術館について

小田急町田駅、JR町田駅から徒歩約15分。
…大雨や真夏の炎天下だと歩くのは怯む距離。
バスはありますが、あんまり便利ではないよう。(私は使ったことがありません)
企画展によっては土日祝日は無料のシャトルバスが出ている時があるようです。
芹ヶ谷公園の中にあるので、芹ヶ谷公園の駐車場を利用するのもあり。版画美術館の駐車場もあるようです
版画教室も開催。町田市民が優先ではありますが、他市民も応募できます。

芹ヶ谷公園は大きな公園で、子どもが遊べる広場も大人が散歩を楽しめるエリアもあり。
町田市 芹ヶ谷公園情報サイト
ポケふたもあるよ!

ポケふた
他にもあるよ







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