松岡誠一(仏像文化財修復工房)

東京神田出身だけど、現在、新潟県田上町で、文化財として歴史を尊重した仏像修復を仕事にし…

松岡誠一(仏像文化財修復工房)

東京神田出身だけど、現在、新潟県田上町で、文化財として歴史を尊重した仏像修復を仕事にしています。 仏像、文化財の修復、調査、などなどを、ぶつぶつとつぶやいていきます。

最近の記事

能登半島に応急修復活動に行ってきました

先週、能登半島の方に、仏像彫刻の応急修復ボランティアに行ってきました。記事は下記。 津波かぶった仏像、専門家が修復ボランティア「地域の宝を次世代へ」朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASS4V4R4ZS4VPJLB004M.html 震災発生から少しして、以前お会いしたことのある石川県能登町の文化財保存担当のかたに、「出来ることがあれば何でもしに行きます」とメールを差し上げていた。 工房とは別に「地域歴史文化財保存支援」htt

有料
500
    • 仏像の防犯について考えてみた

      仏像の防犯について聞かれることがあったので、まとめてみました。 ①一番は写真を撮っておく! 盗難が起こった時にどのような御像が盗まれたかということを、盗難届けを出すのに写真がないと、見つけようがありません。また、犯人が見つかったとしても、その御像が自坊の仏像だということを証明する事も出来ないので、写真を撮っておく事は、とても大事。 SNSなどのインターネットで情報が拡散される時代。写真を拡散すれば、売りに出されても見つかることも多くなりました。ここのところの盗難ではこの効

      • インターネットで日本彫刻史研究が少し進んだ話

        先日、福島県西会津町の鳥追観音如法寺様の三十三応現身像の調査会に参加させていただいて、いくつか報道にも載りました。なかなか報道だと、詳しい顛末を押さえきれていないので、ここに私の知る部分をまとめておこうと思います。一応お寺には許可いただいてますが、その他の個人名は、載せていいか悪いか分からないし、登場人物が多すぎると、内容が分からなくなるので、その辺は新聞記事をご参照下さい。 不明仏像、早大で発見 鳥追観音(西会津)の観音三十三応現身像:福島民友ニュース:福島民友新聞社 み

        • 仏像をよく知るための本

          工房のHPに『修復家の本棚』と称して下記のように本の紹介していますが、そこから仏像を知るための本を選びました。上から順に入門編から、中級編になっていきます。 完本 仏像のひみつ 山本勉著 ミズノ先生の仏像のみかた 水野敬三郎著   日本仏像史講義 (別冊太陽) 山本勉著 仏像の再発見−鑑定への道 西村公朝著 日本仏像史 水野敬三郎監修 https://amzn.to/3DyEjk8 目で見る仏像 田中義恭・星山晋也 仏像彫刻の鑑賞基礎知識 光森正士・岡田健

        能登半島に応急修復活動に行ってきました

          古い大工道具を大量に買ってきました。

          少し前のことですが、ジャンク品として古い大工道具が売られていたので、買い占めてきました。そして、夜中に錆を落として、鋸を目立て、鉋は研いでメンテナンスしてました。その動画集です。 1100円の鉋たちは、みんなすごく良かったです。330円の鋸たちは、使えるのもあり、駄目なのもありましたが、総じて使えそう。 大工道具、手道具って電動工具に圧されて、使われなくなってしまっていますが、残したい文化。現代の職人さんのを買ってあげるのが一番文化を守れる気もしますが、古いやつがこんなに

          古い大工道具を大量に買ってきました。

          山の磐座の観音様。虫食い損傷から蘇る

          山の中の大岩に張り付くお堂に安置されていた観音様。 虫穴だらけでしたが、一つ一つ埋めて補修しました。 こういう虫穴だらけの御像、もう直らないのではないかと思われがちですが、このように彫刻表面がしっかり残りつつも虫穴があいてしまっている御像は、虫穴が埋まるとしっかりした造形が甦ります。 木造(サクラ材か)一木造り。内刳りなし。髻別材。両肘より先、両足先、背面足元後補。 足元は腐朽して一旦切られて、すげ替えられていました。 修復してみますと、衣文線もしっかりしていて、髻の形

          山の磐座の観音様。虫食い損傷から蘇る

          ちょっと元気になっていただきました。

          6年くらい前、仁王様を修復させていただいて、その搬入作業をしている最中に、「こんな像が蔵に入っていたけど」と、拝見しました。最初見た時は素朴な感じで、江戸時代?と思ったのですが、 台座の背面に文明四年(1472:室町時代:二二は四の異体字)と書かれていて、「あら、室町時代」と思ったのですが、搬入作業で忙しくて、写真も撮れませんでした。その数年後、調査の機会を得て、写真撮影と、墨書の赤外線写真撮って、記録出来ました。素朴ですが、しっかりと彫刻した御像で、室町時代でよさそうです

          ちょっと元気になっていただきました。

          仏像彫刻の製作年代を考える時ってどの辺を見ているか

          質問箱(https://peing.net/ja/mokujiki2)に 『仏像彫刻の製作年代を考える時ってどの辺を見ていますか?』との質問があったので、こちらにも。 仏像に墨書や像内納入品で製作年がしっかり分かる場合はいいのですが、そうでないことが多いので、仏像のかたちや構造技法から製作年代を推定します。これがなかなか難しい。ここでは、私が見ているポイントを。 まず、シルエット。遠目から見ても結構古い像は、シルエットとか姿勢でなんとなく古そうと分かることがあります。

          仏像彫刻の製作年代を考える時ってどの辺を見ているか

          仏像を後世に伝えるためには、環境など、どんなことに気をつければいいか

          質問箱(https://peing.net/ja/mokujiki2)に 『仏像を後世に伝えるためには、環境など、どんなことに気をつければいいですか』との質問がありましたので、答えたのですが、こちらにも。 ・湿気対策 湿気があると、カビや虫害を呼ぶので、湿気をこもらせないように、天気のいい日にたまにお堂をあけて、湿気を逃がすとか、雨漏りさせないようにするとか。たまに、冬場にストーブで温かくなって結露してしまうなんてこともあるので注意です。周辺に側溝を作って雨仕舞いをよくして

          仏像を後世に伝えるためには、環境など、どんなことに気をつければいいか

          仏像の修復④(修復前後)

          という訳で完成です。 仏像の歴史を尊重した文化財的な修復は、時計の針を戻して、少し元気になる感じの修復になります。 ちょっと色味が黒くなったのは、表面の汚れがとれて、元々の状態に少し近くなったから。修復後の写真だけ見ると、何をしたの分からないという、非常に地味なお仕事でした。 見ていただいた、写真は修復報告書のもので、こんな風に、アルバムにして、報告書をお渡しします。

          仏像の修復④(修復前後)

          仏像の修復③(修復作業)

          腐朽して弱くなってしまった部分には、合成樹脂を含浸して強化します。 虫穴には漆木屎(漆+小麦粉+木粉)というものを詰めて補修します。 目には水晶を嵌める「玉眼」という技法で作られています。裏側に目玉が描かれています。その後ろに白眼となる紙が置かれて、それを抑える抑え木が付けられているはずですが、それが、無くなってしましたので、新しく補いました。目の表情が甦った感じになりました。 接着剤と、錆びないステンレス釘を用いて組み立てていきます。木は収縮していたりするので、プラモ

          仏像の修復③(修復作業)

          仏像の修復②(解体作業)

          仏像に使われている鉄釘や鉄鎹は、錆びて膨らんで、材を割ったり、周りの木質を炭化させてしまい、像を傷めてしまいます。なので、これを全て除去しつつ、像を壊さないように解体します。錆びた釘を一旦叩き込んで、錆を切って、矧ぎ目に楔をいれたりして、解体していきます。 鉄釘は全部取り去ります。 部材を全部解体出来たら、並べて写真を撮ります。全部解体した証拠写真でもあり、どのような材が使われていたか、後に検証する貴重な写真になります。仏像はだいたいこんな感じで、細かい部材が組み合わされ

          仏像の修復②(解体作業)

          仏像の修復➀(修復前写真)

          ピカピカに直さない、仏像の歴史を尊重した文化財としての仏像修復はどのようなことをしているのか、ちょっと知ってもらおうと、4編に分けてご紹介します。 壊れている仏像がを修復させていただく時、まず、魂抜きの儀式をしていただいて、厳重に梱包して工房に運び(自分で)、修復前の状態を写真に記録します。結構、ご住職様でも毎日お参りしていても、近くに寄って、どのくらい壊れているかというのは見ていなかったり、見慣れていたりしているので、しっかり写真撮って、後でこのくらい壊れていたのですと、

          仏像の修復➀(修復前写真)

          Twitterでの文化財情報と仏像情報

          まだ学生の頃、文化財保存修復学会の中の有志の「修復家の集い」という集まりの中で、地方の文化財保存の新聞記事の切り抜きを集めてコピーして作る「修復事情」なるものを、封書でお送りいただき勉強になってました。それがいつの間にか無くなってしまいました。 埼玉県北本市で独立した時、同じ大学の仏像修復研究室だった家内と二人の工房ですので、外からは全く情報なくて、このままだと情報の最末端だなと、インターネットで地域の文化財情報見つけては、ブログに書いたり、それをまとめてメーリングリストで

          Twitterでの文化財情報と仏像情報

          地域には、まだまだ文化財が眠っている。

          地域の中には文化財が沢山眠っている。 1960年代くらいからの自治体史編纂ブームで、自治体史が作られた時期には、一応自治体内の歴史や文化財は調べられましたが、割合、お寺や神社の宗教物や、古い家の土蔵に残されている古文書とか、民具は調査しきれていないものも多かったと感じます。 お寺は、当時は厳しいご住職様もおられて、調査なんてもってのほかと、調査出来ない場合も多かったですが、やはり、お寺は地域の歴史の中心でもあり、ご住職様の地域史へのご理解が進んで、仏像や絵像の調査を許してい

          地域には、まだまだ文化財が眠っている。

          地域の歴史研究を復興しないと

          私も市町村の文化財審議委員会の任を拝命しているが、市町村の規模によって人数も、専門性もまちまち。 市だと、県内の専門家の大学の先生や、専門家を招聘されているところもあれば、大きな市だと、遠くの他県の大学の先生を招聘したりもしている。 小さな町だと、郷土史を研究されていた在野のかたや、元学校の先生が多かったりする。市町村史を作り、鍛えられた頃のかたが、中心になられていることが多い。 専門の先生が入っているところでは、それなりの対応はできるが、専門外のことは、なかなか分から

          地域の歴史研究を復興しないと