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墓参りの日の日記(読み切り小説)

いつか消えてしまうんだろうな。夢か現か、定かでない記憶。ここに書き残しておこうと思う。今日は、墓参りに行ってきたことだし。

目が覚めた時、かすかに残る物語の記憶を夢と呼ぶと知る前から、同じような夢を何度も見ていた。

同い年の女の子がいる。僕は、その子を食べたいと思う。だけど、僕は動けない。
女の子の顔は思い出せないけど、物悲しそうな目元だけが断片的に、不明瞭に映像としてよみがえる。

その目つきに吸い込まれるんじゃないかって思っていると、女の子はもう僕の両腕を抑えている。だけど、僕は怖くない。

女の子に僕は食べられる。
だけど、僕は怖くない。

女の子はずっと悲しそう。

そして目が覚める。
そんな夢を何度も見ることに、疑問を抱くようになったのは、小学校低学年頃だと思う。

その女の子は、僕が成長するのに合わせて、いつも同い年だった。別に夢の中で、年齢を聞いたわけじゃない。でも、いつもそうだった。なぜかって、僕にはそれが分かったから。

僕が、その子の名前を、僕との関係を知ったのは小学校中学年頃だった。
意外にも、母から告げられることになる。
母は、済まなさそうに、でもはっきりと僕に言った。

「悠(ゆう)にはね、本当は妹がいるの。沙都美(さとみ)。悠とは双子。でもね、産まれてすぐに死んじゃったの。」

意外にも、僕が納得した表情を見せたので、母はどう言葉を繋ぐか戸惑っていた。

それから数日後の夢の中で、沙都美と会った。いつものパターン。僕は食べられた。安心して目覚めた。

歳を重ねるにつれ、あの夢を見る頻度が減っていくのに気がついていた。何度も何度も見てきたはずなのに、中学に上がったときは、久しぶりに沙都美が夢に出てきて、はっとしたぐらいだった。

最後に沙都美に会ったのは、いつだっただろうな。急に会えなくなったわけじゃない。最後にちゃんとお別れをしたんだ。

あの日も、いつものように沙都美に押さえつけられた。気づけば沙都美は、僕は、もうすっかり大人と変わらない体つきになっていた。
心も少し成長していたんだろう。
いつもなら、あっという間、僕は食べられる。
なのに、この日は違った。沙都美が躊躇した。

僕は、沙都美を強く強くきつくきつく抱きしめた。
くっついて1つになっちゃうんじゃないかってほど。

沙都美は泣いていたと思う。僕の胸と肩の間あたり、沙都美の顔があったけど、湿気を含んだような、じんわりした温かさがあった。それに、笑っていたようにも思う。なぜかって、それが僕には分かったから。

それ以降、沙都美は僕に会いに来なくなった。

僕は今でも墓参りをする。

だけど、沙都美の記憶は、沙都美に触れた感覚は、どんどん薄くなっている。

お墓参りと、図書館に行くことは似ているなあと思った。

僕が沙都美と夢の中で会っていたことに、理由や意味はないんだ。なぜかって、僕にはそれが分かったから。

忘れながら、見つけながら。泣きながら、笑いながら。誰かの中で、理由も意味もなく、僕は何も分からず生きている。

あとがき

お墓参りに行って、そこから考えたお話です。
オチとかないのに、最後まで読んでいただいてありがとうございました。