映画『WALL・E』感想(2008年12月5日執筆)

※この記事は、過去に個人サイトのブログに掲載していたものを転載したものです。記述内容や感想は当時のものになります。ご了承ください。

※ネタバレがあります。ご了承ください。



 公開日に見る喜び。言ってきました『WALL・E』

 ええ、PIXAR信者ですから。まず驚いたのは、ほとんどセリフらしいセリフ無しで冒頭5分くらいで状況がわかってしまうところ。
 それ以外でも特に前半はセリフがほとんどないのにお話や状況がちゃんと伝わってくる。
 さすがは無声短編で慣らした表現力と言うところでしょうか。

 細かい部分では、たとえば700年もメンテナンスなしで動き続けられたのは、同型の仲間の残骸をつかってパーツ交換してきたことなど…。

 虫くらいの生き物しかいなくなった荒廃した地球で、おそらく与えられた仕事を黙々とこなすロボット…と思いきや、なにげに感情どころか趣味や嗜好を持っているあたりがたまらなくキュート。
 これは彼の仕事内容から察するに、最初からプログラミングされたものではなく、さまざまなアクシデントに対応できるように柔軟に設計された結果、700年の時間をかけて進化をしたんじゃないかしらん?とかたのしい妄想を喚起させられます。

 彼の唯一の夢、誰かと手をつなぐこと。
 そんな素朴でかわいい夢が、どんどん周りを巻き込んで変化を促していくストーリーは見事のひと言。

「純粋で一途な思いが奇跡を呼ぶ。」

文字で表すと恥ずかしいくらい「クサい」ことを、いやらしく感じずに
素直に見られたのはとてもうれしかったですね。

 ウォーリー自身はただただ大好きなイヴを追いかけているだけなのに、その行動に押されるようにイヴやロボットたち・人間たちが心を開いたり感情を開花させたりしていく様に無理やり感がない
 そのあたり、子供向けアニメにありがちな露骨な説教クサさを感じずに楽しめました。

 相変わらずよく練りこまれているなぁという印象もさすが。こまかい複線がきちんと効いてます。
 単純に痛快なストーリーとしても楽しめますし、しかも深読みしようとすれば退廃した世界の人間の愚かさも許してくれるような懐の深さも感じます。
 生物のほぼいなくなった地球に残されたわずかな緑などもそうですし、ほかにも宇宙船のシーンに入ってから、不自由のない快適な生活に馴染みすぎて何の感動も驚きもない暮らしを続ける、醜く太った未来の人間なんかはそのいい例ですが、個人的にうれしかったのは、そんな人類を上から目線で悪く描いてないってことです。
 これは簡単なようで、意外とできることでは無いように思います。 
 ラストで戦うデブ艦長は、こっけいながらもかっこよかったですし。

 ちなみに小ネタとして、

歴代艦長の写真がどんどんデブ化していく様は結構好きです。

エンディングで少しづつスマートになっていくのもw

 お話ももちろんいいのですが、とにかく秀逸なのが主人公ウォーリーのかわいらしさ。
 パッと見はいかにもなぼろぼろな建設機械って感じなのですが、(建機好きで廃墟マニアな私にはそれだけでもかなりのご馳走ですけどねw)なにか一途で無邪気な彼を見ていると、かわいい子犬を見ているような感じになってきます。
 命令に従順に仕事をするかたわら、気に入ったものを箱に入れて持ち帰ってコレクションしてる様は、人間のソレに用でもあり、サンダルなどを犬小屋に隠す犬みたいにも見えます。

 そのボディもそんな彼を表現するのに十分な、それでいて一見シンプルな、秀逸なデザインです
 箱に手足が生えただけのようなデザインに見えて、実に柔軟に行動できるようになってます。
 単純に見えるロボットアームでさえ、ただモノをはさむだけじゃなく微妙な調節が効き、その指の動きだけでも感情が伝わってくるようでした。
 脚代わりのタイヤからキャタピラを付けはずししてる様など、スニーカーを着脱してるようなかわいさ。
 この動きを含めたウォーリーのデザインが決まった段階で、この映画の成功がほぼ決まったといっても過言じゃないんじゃないでしょうか。

 イヴの方もこれまたウォーリーとは対極のデザインのよさといいますか、Mac的iPod的な美しさといいますか、そんなツルンとして無機質なデザインの中に、しぐさや声などで女性らしさが表現されててこれまた愛らしい。
 他の宇宙船用作業ろぼっとやジャンクロボットも含めて、すばらしいデザインだと思います。

 さて、ちょっとだけひっかかったことを。
 作品中の大きな鍵として古いミュージカル映画が出てくるんですが、それが実写なんですよね。
 それと、宇宙船の記録映像の人物も実写。これがどうしても世界観に馴染まない。
 まだ前半の地球での話の間は、ウォーリーの質感がわりとリアルっぽく描かれてるのでさほど違和感はないんですが、宇宙船内のデフォルメされたデブ人間が出てくると、どうしてもギャップを感じずにいられません

 そこが非常に残念でした。

 てなわけで、非常に楽しい映画でした。ロボットにここまでウルッとさせられるとは思わなんだ。
 上記の違和感や細かい点でひっかかった部分を考慮して、90点くらいの満足度でした。
 楽しいものや可愛いものが見たいという方にはオススメです

 ちなみに、運動不足でデブデブ化した人類を見た瞬間、唐沢なをき先生の『ぶよガンダム』を思い出したあなたは仲間だ!w



 関係ないけど、私が見た吉祥寺の映画館は、男子トイレの入り口にウォーリーの、女子にはイヴの巨大ステッカーがはってあったのはちょっと好きだ。

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