映画『レミーのおいしいレストラン』感想(2007年8月2日記述)

※この記事は、過去に個人サイトのブログに掲載していたものを転載したものです。記述内容や感想は当時のものになります。ご了承ください。

※余談:今あらためて読んでみると、あんがい評価高めだなぁと。
 今だともうちょっと低めに書くかもです。



 もともとピクサー作品が大好きな私ですが、とくに監督が私の大好きな「インクレ父さん」「アイアンジャイアント」を監督したブラッド・バードなので、見ないわけには行かないヽ(´―`)ノ


以下、ちょいネタバレありの感想。




















 でも、見に行く前から不安もあったんですよねぇ…。

 まず一つは、今回はわりとリアルな人間の世界が舞台だということ。
 ピクサーの上手いところは、CGアニメの弱点を早くから認識していて、いきなり冒険はしないで出来る範囲でお話を作るというところだと思うんですよ。
 人間はやはり人間とそれ以外のものを見るのでは感じとれる情報量がぜんぜん違うので、物が人間に近ければ近いほど誤魔化せなくなるんですよね。
 この辺語り始めると長くなる上に興味が無い方には退屈なのでこの辺にしますけどw

 で、ピクサーは最初から無理をせず、まずはCGと相性のいい「おもちゃ」。次に生き物だけど固そうな「虫」
 で、生き物っぽいけどあり物ではない「お化け」でふさふさの毛を作るまでに来て、今度はやわらかそうなあり物の生き物「魚」で、同時に水表現まで完璧に。で、「父さん」では、コミカルで非現実的な設定とはいえ
ついに「人間」を描いたんですよ。とくに長女のさらさらヘアにはビックリしました。

こう並べると、確実に確信的にステップアップしてますよねw


 で、本作「レミー」ではついに、ディフォルメされてるとはいえ、普通の人間がメインの話です。とうとうここまできました。
 しかも今回はネズミ視線なんで、当然のようにドアップもあります。
 主人公のレミー(ネズミ)はしょちゅうリングイニ(青年)の頭に乗るので、頭髪のドアップなんて当然。
 これがまぁ、見事すぎるくらいカンペキでしたねぇ。呆れるくらい。   「インクレ父さん」のときはわりとタイトな服が多かったんですが、今回はひらひらした服とか多かったし、そういう部分も見事でした。

 あと、今作で肝心な料理や食材も、自然に見えるのがすばらしい。
 ちぎったパンのちりちりした部分とか、オムレツのふんわりかんとか。
 銅の鍋の表面の無数の傷とかも、なんか「そうそうこれこれ」って感じで。

 そんなこんなで、映像的にはほぼ満点でした。「ほぼ」なのは、それでも やっぱり人間を扱ってるとなんとなく違和感や気持ち悪さ感じることがあったって部分ですかね。(不気味の谷ってやつです)

 でも、ネズミ表現も数匹がアップで会話してる部分とかは問題なく可愛いのですが、数十匹で動くシーンはさすがに

生理的に「ひぃい!」ってなります。 


 2Dだとここまではならないと思うんですが、なまじ質感がある3Dだとそれぞれのボリュームとかを感じてしまい、ぞわぞわします。
 これが受け付けない人も多そうだなぁ…。私もちょっと嫌。

 で、2番目の問題なんですが、じつはこっちの方が重要
 番宣など見てれば判るとおり、ネズミがレストランの厨房に入ると言う話である以上、その奇跡が永遠に続くわけがない。
 あくまでおとぎ話としてならそれもいいでしょうが、絵の描き込みがすでに単なる絵空事であることを拒否してますし。
 なので、この部分に関しては最初から覚悟してみてました。
 あとは、そのシビアな部分も含めて、いかに満足させてくれるか。そこが勝負どころだなぁと。

 この部分に関しては、まあこういうのもありかな、って感じですね。
 でも正直、レミーとリングイニのコンビまでならほほえましく見てられたんですが、さすがに

厨房に無数のネズミが動き回るシーン


は、夢のある風景には見えませんでした。
 どうも今回私にはピクサーの魔法のかかりがいまいち弱かった様でw

どうしても引っかかったのが、たとえキチンと身体を洗ったとはいえ、無数のネズミが手を題した料理を、それと知らずにそれ相応の値段をはらって食べた人のことを考えると、どうもスッキリしないって部分です。
 レミーとリングイニのコンビの場合は、実際手を動かしてたのは人間のリングイニですしね。

 おそらく、人間のもっとも生理的な部分の一つである「食」を扱ったものだという部分が大きいんだと思います。
 ここを是とするか非とするかは、観客それぞれの生理的な感覚に左右されるかと。
 これは物語の良し悪しとは違った部分なので、作品の評価とは別次元ですけどね。
 でもやっぱり最後まで「これでいいのかなぁ…?」という思いが離れないってのはありました。

 ほかにも気になったことは、あくまで主人公はレミーということなんでしょうが、他の人間の描き込みが今いちな部分が気になりました。
 特に相棒のリングイニが、呆れるほどデクノボウで、単なるラッキーボーイだってこと。
 お話の導入部ということで仕方ないのかもですが、最初にかれがしでかした事はサイテーですし。
 レミーとコンビを組むことになってからも、彼の側が努力してる様に見える部分がなかったのも残念。

 他の料理人の描写もかなりおざなりでしたねぇ。
 副料理長の怖い顔のおっさんはいい味出してましたが、他の三人はコレットの説明でしか語られてませんでしたし。
 まあ、終盤の扱いを見たら納得もいきましたけど、逆にあそこは副料理長になにかリアクションほしかったなぁ。

 でも、コレット・イーゴ・スキナーあたりはステキでした。
 コレットは最初にリングイニにまくし立てる描写で人柄やこだわりどころがひしひしと伝わってきますし、
 イーゴは使用前・使用後(笑)のギャップがすばらしすぎるw 
 彼のオフィスが棺おけの形なのに噴きましたw 

 あと、一番気になった部分は、イーゴを感心させるメニュー「ラタトゥーユ」なんですが、あれでイーゴは子供の頃の母親の手料理を思い出すシーン。
 一瞬いい感じに説得力があるように見えるものの、「なんで料理の習慣がない(と、作品でもはっきり示している)ネズミにおふくろの味とか郷愁とかが表現できるんだろうか…」
という疑問がどうしてもぬぐえず、いまいち共感できませんでした。

 映像的な部分は置いておいて内容に絞って言うと、今までのピクサー作品に比べて今作は要素が複雑すぎたのではないかしらん?と思います。
 従来のピクサー作品は根幹のテーマはかなりシンプルでしたしね。「家族」とか「仲間」とか。

たしかにレストランにいてはいけないはずのネズミの大活躍という矛盾のアイデアは面白いものの、やはりこの矛盾はハンデが多すぎたなぁ…と。
 ある程度リアルに描かれた人間の世界とネズミの世界の共存がありえないように。

 まあ、このように不満も多かったのですが、それを含めてなお楽しめる部分の多い映画だったと思います。

 とにかく、むちゃくちゃ動く!
よ く動くことで定評のあるピクサー作品ですが、今作はとくに、キャラが動いて無いと死んでしまうんじゃないかって心配するくらい動きます。いや、大げさじゃなくて。
 今回特に白眉だったのは、ネズミ視線のカメラワーク。
小さいレミーの視線で描かれるからこそ、さほど大きくない厨房の中がテーマパークのアトラクションのように。
 それがまた、普段目にすることの出来ないアングルや大きさで迫ってきて、心を奪われます。
 これがまた要所要所にスラップスティックなシーンや追いかけっこ的なものが入ってきて、迫力満点。

 ただこれにもちょっとだけ不満を言うと、こういう動きの激しいシーンが多すぎて、見ててちと疲れます
 それぞれはすばらしいのですが、頻度が高すぎて「またか」って印象が。
やりたいことが多すぎて切れなかったって感じですかねぇ…。
「インクレ父さん」の長男の満を持してのダッシュの時のように、

「溜めて溜めて…GO!」


って感じのカタルシスが感じられないといいますか。
あと、ドタバタシーンの「動いて無いと死んでしまうんじゃないか」って部分も、ちとやりすぎな感じもして本気で不安になったりも。

エンディングの「モーションキャプチャーを使ってないよ」表示はシャレのつもりなんでしょうが、
なんか意地になりすぎなような気もしてきます(´A`)

まあ、こういう部分も逆に言えば観客を楽しませようというサービス精神の表れでステキなんですけどね。
要所要所で「ぷっ」っと噴きださせる工夫が見受けられましたし。

ただちょっと私には味付けが濃すぎるかな。




 まあ、細かいところがいろいろ気になるのも、作品自体がかなり細かく作りこまれてるからでしょうし、
 個人的な見解や生理的な部分を置いておけば、かなり楽しめる作品だと思います。
 この文章だとそうは思えないかも知れませんがw



個人的に一番好きなのは、最後のイーゴの「ちょっと太った姿」だったりします。

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