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柚香ルドルフの愛はこの世界のどこにもない/'23花組『うたかたの恋』

柚香ルドルフと星風マリーのうたかたの恋を観ました。東京で3回(+東京楽配信)。

柚香ルドルフはあまりにも繊細で、あまりにも不安定で、ミュージカル『エリザベート』でもルドルフ役を演じていた記憶があるせいか、常に死と隣り合わせな不安感がありました。
彼がマリーと話していると、幸せな恋人たちのはずなのに、胸が締め付けられるように切なく苦しい。

特に、第10場、マリーがいなくなり酒場で自暴自棄に銃を撃ってしまうシーン。

ルドルフ「何をしにきた。君もスパイか?今更何をしにきたんだ」
マリー「あなたに会いたくて」
BG:うたかたの恋
 マリー、ルドルフの膝の上に凭れる。
 一同、ルドルフとマリーを残して去る。
ルドルフ「マリー」
マリー「(ルドルフの手を取り)こんなに傷ついて…お可哀想に」
ルドルフ「僕がどれほど傷ついたか、君にわかるか」 
マリー「わかるわ」
ルドルフ「いや、わからない。マリー、助けてくれ。お願いだ。君がいないとダメなんだ。はっきりわかった。今夜、君が帰ってしまったら…」
ル・サンク vol.229  脚本より


うう、打っているだけで思い出して泣きそう…。
ここのルドルフとマリーが恋人以上に母親と子どもに見えるのは、マリーがルドルフに凭れる→ルドルフがマリーに凭れる、という演出からしても意図的だと思う。
でも、柚香さんのルドルフはマリーに母性を求めながらどこかそこに自覚的なところがあり、私はそれがさらに恐ろしいんです。

ルドルフは自分が傷ついていることをまるごとわかって欲しくて、マリーはそれに対して即座に「わかるわ」と答える。
でも、「わかるわ」と言いながら真摯にルドルフを見上げるマリー、その頬に柚香ルドルフは手を添えようとして……やめるのです。
「わかるわ」と慈愛に満ちた全肯定をもらいながら、でも「いいや、わからない」と受け取るのをやんわりとやめる。
これが例えば、「いいや!わからない!」と言葉では強く否定しながらもマリーを抱きしめる、というような演技なら、駄々をこねつつマリーの共感を受け入れる、という解釈ができるのだけど、柚香ルドルフはマリーの共感を受け入れることを諦めている。つまり、

柚香ルドルフは自分の気持ちが決してマリーに、いや他の誰かに理解してもらえるとは思っていない。

そう感じたとき、あまりにも怖くて、痛々しくて、涙が止まらなくなりました。
柚香ルドルフは自分の持て余している愛への渇望に気づいていて、その小さな青い花を「たまたまマリーに投影した」に過ぎない可能性にも気付いていて、そしてその選んだ相手が自分と同じ感情を持ち返してくれるわけではないことにも気付いているんです。

でも、帰らない旅に連れて行く。

ずっと心にあるどうしても埋まらない部分を、そこにピッタリとはまるピースがどこにも存在しないことを分かっていながら、それでもマリーを手放せない柚香ルドルフ。

自覚的なだけにかわいそうで、本当にかわいそうで…。
マリーが純真で幸せそうなのだけが救いなのだけれども、柚香ルドルフは果たしてこの結末で心が満たされたのか。

マリーのルドルフへの気持ちは愛だと言えるかもしれないけれど、ルドルフにとってうたかたの恋はあくまで恋でしかなく、それは自分の欠けた心を求める恋で、子どもの頃に得られたはずの無償の愛への渇望なのだと思います。

加えて、3/17の15:30公演を見て、初めて気づきさらにゾッとしたのが、最後の舞踏会でルドルフがフランツにマリーを紹介するシーン。

ルドルフ「父上、あなたが運命をお決めになったマリーです」
 マリー、皇帝にお辞儀をする。
フランツ「それだけの美しさなら、どんな幸せな将来も手にすることが出来る」
 二人、再び踊りに戻っていく。
ルドルフ「マリー、旅に出ることになった」
ル・サンク  vol.229 脚本より


このフランツの台詞を聞いているときの柚香ルドルフ……右頬を痙攣させたんですよ。2回、はっきりと。
明らかにこの台詞を受けて、「旅に出ることになった」とマリーに告げたことがわかる演技。

マリーに自分以外との「幸せな将来」を許さない独占欲、フランツへの怒り、当てつけ……


柚香ルドルフが二人の結末を導き出すまでの、その感情の痛々しさ。
うたかたの恋は、本当にルドルフとマリーのこと?それとも、ルドルフの自己愛の追及に過ぎないのか?
そんな風に考えてしまうほど、ゾッとするような澱みを抱えた柚香ルドルフ。

そんなルドルフがかわいそうでかわいそうで、でも心の底から愛おしいと思うのは、おかしなことでしょうか。

彼の愛が、白いスモークの永遠の中でいつか見つかりますように。永久の時のうちに少しずつ癒されて折り合いがつくことを祈るばかりです。

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