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2.12日本武道館はハッピーエンド?バッドエンド?

トップ画像は@shun064さんの作品です。

王者潮崎豪は敗れた。ノアの2020年を牽引し「アイ・アム・ノア」というフレーズが誰よりも似合う男が。潮崎に勝ったのは武藤敬司。生ける伝説。黄金の90年代の最後の生き残り。御年58歳。普通に考えれば「11年ぶりの日本武道館で」「高齢の外敵に敗れた」わけであり、ある種のバッドエンドを予感させる。しかし本当にそうなのだろうか?この日の武藤はまさに「怪物」であった。昭和新日本のグラウンド技術。派手な技を使わずとも潮崎を苦しめる策略。そうした「古い姿」を見せつつも、シュミット式バックブリーカーからのムーンサルトを逡巡するという「令和的なファンサービス」も見せた。


もちろん潮崎をもそうした「武藤敬司のプロレス」に真っ向から立ち向かった。むしろ自分から武藤の領域に足を踏み入れた感もある。終盤までは潮崎が武藤の土俵で戦いつつも、己のリズムを掴みかけていた。しかし「潮崎のプロレス」を一瞬狂わせた技がある。そうエメラルドフロウジョンだ。終盤の潮崎の流れを、あそこで一瞬断ち切った。それは決して「武藤敬司のバイブル」にはない技だったかもしれない。しかしそれが難敵潮崎の突破口となった。「俺のバイブルとあいつのバイブルは違う」。そう言っていた武藤が唯一潮崎のバイブルに乗ったのがあの技だったかもしれない。


今の武藤は大空を舞うことはできない。足4の字固めもシャイニングウィザードも。いずれの技でも潮崎を切り崩せない。武藤の辞書に最後に残っていた技。それはジャックナイフのようなフランケンシュタイナーだった。潮崎の豪腕を一瞬でかいくぐり、電光石火3カウント。ノアの象徴に近づきつつあった潮崎を破ったのは武藤のバイブルだったのだ。


この瞬間ノアに新たなテーマが生まれた。怪物武藤を倒す。そしてその背後には「昭和新日本」、そして「アントニオ猪木の影」もちらつく。武藤はこれまでのノアとは異なるイデオロギーを見せた試合をした。「お前たちは俺を超えることができるのか?」「お前らのバイブルで俺に勝てるのか?」。これだけのパフォーマンスを見せた武藤に勝つのは至難の業である。だがしかし。相手が強いからこそ、そこに立ち向かう姿が映える。それもまたプロレスの醍醐味だ。武藤戴冠後にすぐさまリングに上った清宮海斗。ノアの守護神たる杉浦貴。昭和新日本の匂いを持つ中嶋勝彦。そして赤の王者拳王。誰が武藤と戦っても面白い。


確かに勝ち負けだけで見れば2.12日本武道館はバッドエンドだったのかもしれない。しかしこれだけ魅了的なカードが先に控えているのだ。こんなに楽しみなことはない。ワクワク楽しい未来を予感させる。それはまさしくをハッピーエンドなのではないだろうか?日本武道館は最早ノアにとって目的地ではない。常に日本武道館で試合をするには。こうした「次に繋がる楽しみ」が必須だといえるだろう。だからこそ2.12日本武道館はこれ以上ないハッピーエンドだといえるのだ。

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