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勝利の余韻と苺のかき氷

 我々は勝利の余韻に浸っていた。早朝から長い時間待った甲斐あり、お目当てのイヤリングを購入する事ができたのである。
「この後どうします? やっぱりお昼食べる前提でかき氷のほう行きます?」
「そうしましょう! どうせなら本命のほうを食べたいですしね」

 和kitchenかんなは、三軒茶屋駅より三宿のバス停から徒歩○分、と書いた方が正しいんじゃないだろうかという位置にあった。既に当日の予約枠は無く、並んで待つしかないと判っていたので身構えていたが、店外に列は無い。

お店の外観

 店のドアを開けるとすぐ上り階段に続いていて、階上には2、3組のお客さんが並んでいた。
 暫くすると店員さんが来て予約しているか訊かれた。していないと答えるとそのまま列に並ぶことになる。

「なんか店内20分制って書いてますよ。これ食事は諦めないとですね」
「そうですね……かき氷だけで精一杯ですね」
 ガイドブックに載っている写真のかき氷は小山のようだ。昼食のデザートには些か大きすぎる。我々は腹を決めた。

 思ったより列は早く進み、最上段の椅子に掛けたところでメニューを渡された。種類が多く限定メニューもあるが、ガイドブックについているクーポンは写真の二種にしか使えない。
「私は初志貫徹でBCにします」
「私はティラミスで」
「それで大丈夫ですか?」
「美味しそうだなって思ってたんですよ」
 奇しくも二人ともクーポン対象のかき氷を選んだ。ガイドブックは一冊だが二人ともクーポン対象になるだろうか? 店員に尋ねてみると店長が不在なので確認するという。

 案内されたのは窓際のテーブル席であった。内装のステンドグラスも趣深く、我々は取るものも取りあえず戦利品の写真撮影に勤しんだ。

 隣のテーブルのカップルにホールケーキのようなものが運ばれてくる。記念日デートなのだろうか。彼氏が「皆これ注文しないのが信じられない」と言う。二人で分けて食べるのかと思いきや、彼女の前に別のかき氷が置かれた。

BCとトッピングの小豆

 さて我々のテーブルにもかき氷がやってきた。クーポンサービスの小豆は私のBCだけについてきた。そちらも半分どうですか、と勧めたが固辞されたので一人で使うことにする。

 スプーンでふわ、と掬い取られた削り氷は苺とヨーグルトのシロップを纏って甘酸っぱく、しかしマスカルポーネクリームのおかげでコクもある。氷の中にもシロップが仕込まれているので味を感じない場所がない。さりとて「かき氷」なのでさっぱりと食べられる。トッピング無しでも十二分に美味しいが、小豆で味変するのもおつなものだ。

「本命が買えて美味しいかき氷も食べられて、きょうは本当にいい一日ですねぇ」

 会計を終えて店を出た我々が見たのは一人の老婦人だった。
「ここ、一人でも入れますか?」
「「ええ、ぜんぜん大丈夫ですよ!」」

 私達はイベントの待機列で偶然前後になった、名前どころか最後まで互いにハンドルネームも名乗らなかった間柄である。


同行者のティラミス

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