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嬰薁蟲(ゑびつるのむし)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

嬰薁蟲ゑびつるのむし の一名 野葡萄のぶどう

山城国やましろのくに たかみねいづもの 上品じやうひんとす。つるはなともに、葡萄ぶどうことなることなし。詩経しきやう、六月いくくらふ とはこれなり。

※ 「詩経しきやう」は、中国最古の詩集。五経の一つ。
※ 「いく」は、ブドウ科の植物の蝦蔓えびつるのこと。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

春月萌芽いだして、三月 黄白わうはくせう花穂くわほをなす。七八月 むすぶ。せうにしてまろく、いろ 薄紫うすむらさきその くきふいづ。しる通艸あけびのごとし。

つる往々ところ/\ ふくれたるところありて、真菰まこもに似たり。そのなかしろむしあり。これ小児せうにかんするくすりなりとて、ゑだともきりて、いちる。

※ 「通艸あけび」は、アケビ科の蔓性落葉低木。通草あけび。木通。
※ 「真菰まこも」は、イネ科マコモ属の多年草。黒穂菌くろぼきんという担子菌類の一種が寄生することで根元が肥大化し、これを食用とします。真菰筍まこもだけ

しかるに、この 茎中けいちうむしありと、和漢わかんしよおゐて見ることなし。やなぎむし常山くさぎのむしも、ともに かんくすりとはすれども、なを まされりとはへり。

南都なんとしん葡萄ぶどうなく、この とりたねり、煎熬せんかう/いりして あぶらのごとく 食用しよくようとす。又、あり。してよくもめば、艾綿もぐさのごとし。これにて附贅いぼす。故に、イボおとしの名あり。中華からには、さけかもし、葡萄ぶどう美酒びしゆ鬱金香うつきんこう唐詩とうしへたるは、これなり。

※ 「常山くさぎ」は、クマツヅラ科の落葉樹。臭木くさぎ。漢方ではクサギを「海州かいしゅう常山じょうざん」と呼ぶそうです。
※ 「南都なんと」は、奈良のこと。
※ 「附贅いぼ」は、いわゆるイボのこと。
※ 「美酒びしゆ鬱金香うつきんこう」は、李白の詩。蘭陵美酒鬱金香(蘭陵らんりょう美酒びしゅ 鬱金香うっこんこう)。蘭陵は地名。

和名わみやうヱヒツルとは、ひさしく あやまきたれり。ヱヒツルは 葡萄ぶどうのことにて嬰薁ゑびつる、イヌヱヒ、又、ブトウといへり。されども、古しへより混していひしなるべし。



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