浦江邑うらへむら観喜くわんぎ天尊てんそんは、五百羅漢らかんの西北にしきたに在ありて、浪花なには天尊てんそんの第一だいゝちたり。

霊験れいげん著明いちじろくして病気べうき平癒へいゆ、および祈いのるに福徳ふくとく円満ゑんまんを降くだし玉たまふがゆへに、米穀べいこく売買ばいかいの人ひとは殊ことに信心しんじんをこらし、昼夜ちうや迎合かつがうの声こえ 絶たゆる間ひまなし。

又、寺中ぢちうに桜さくら楓もみぢ多おゝく、初夏しよかの頃ころは、杜若かきつばた 咲さき乱みだれて、雑人ざうじんこゝにつどひ 遊観ゆうくわん なすも多おほかりき。

※ 「浦江邑うらへむら」は、摂津国西成郡浦江村。
※ 「観喜天尊」は、歓喜天尊。
※ 「迎合」に「かつごう」のふりがなが付けられています。「かつごう」は、渇仰かつごうのことと思われます。渇いた者が水を切望するように仏を仰ぎ慕うという意味。

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