見出し画像

鯢(さんしやういを) 山椒魚

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

さんしやういを

渓澗たにみづせうず。牛尾魚こちくちおほひなり。茶褐色ちやいろにして、に班まだらあり。みづはなれて陸地りくちく。おほいなるものは 三じやく ばかりはなはだ 山椒さんせうあり。また椒樹さんせうのきのぼり、かわくらふこのうをや●なおけば よるなき小児せうにこへのごとし。せい いたつつよものにて、つね小池せんすいやしなひ、もちゆべきときその 半身はんしんたちきりその なかばまた 小池せんすいはなちおけば、づから肉をせうじ、もと全身ぜんしんとなるゆへに、作州さくしう方言はうげんにハンサキといふ。またその さりたるかはひさしくして、なを うごくなりといへり。

※ 「さんしやういを」は、山椒魚さんしょううお
※ 「牛尾魚こち」は、海水魚のコチ(鯒、鮲)。
※ 「作州さくしう」は、美作国みまさかのくに
※ 「ハンサキ」は、岡山県の県北に位置するはんざき。この辺りでは、オオサンショウウオのことを「はんざき」と呼ぶそうです。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]


べつに、一種いつしゆ 箱根はこね山椒魚さんしやううを といふものあり。ちいさき うをなり。

越後ゑちごにてセングハンウヲといふ。そのかたち水蜥蜴いもりはらあかし。ゆへに アカハラともいふ。乾物かんぶつとしていだし、小児せうに疳虫かんむしす。物理ぶつり小識せうしき閩高みんかうもと黒魚こくぎよありとは これなり。

※ 「疳虫かんむし」は、小児の疳の病(夜泣き、かんしゃく、ひきつけなど)を起こすといわれる虫。かんむし
※ 「物理ぶつり小識せうしき」は、明末清初の時代にほう以智いちによって編纂された科学技術全般の類書的な書物。
 国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができます。『物理小識12卷總論1卷【全号まとめ】
※ 「閩高みんかう」のびんは、五代十国のひとつで福建を拠点にした閩越国びんえつこくの意味。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『日本山海名産圖會 5巻 [2]

いま相州さうしう信州しんしう軽井沢かるひさわ和田わだほとりよりいづものも、かの いもりのごときものにて、よるたき左右さゆういわうち [木+付+攀の脚の部分] のぼるなり。土人どじん これるに、木綿もめん袋にて玉網たまあみのごときものゝそこ巾着きんちやくくちのごとくにして、松明たいまつてらして、うをのぼるをうかゞひ、ふくろをさしつけて、おのづからるをりて、ふくろしりき、つぼおさむ。又、丹波たんば但馬たじま土佐とさよりもいだせり。

※ 「相州さうしう」は、相模国さがみのくに

松明を照して魚の上るを候ひ
袋をさし附て自から入るを取りて
袋の尻を解き壺へ納む


本草ほんざうに、一種いつしゆ 䱱魚ていぎよといふものおなじく 山椒魚さんせううをともいへども、これ人魚にんぎよなり。河中かちう およ湖水こすいせうず。かたち 鮧魚なまずて、つばさなが手足てあしのごとし。また時珎ぢちん諬神録けいしんろくするところものは、華考くわかううみ人魚にんぎよなり。紅毛人おらんだじんこの うみ人魚にんぎよほねもちきたりて、蛮名ばんめうヘイシムルと云。はなはだ にせものおほし。

※ 「本草ほんざう」は、江戸時代中期に貝原益軒によって編纂された本草書のことと思われます。『大和やまと本草ほんぞう』。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和本草16巻付録2巻諸品図2巻巻13-14

※ 「時珎ぢちん」は、明の時珍じちん。『本草綱目』の編纂者。
※ 「諬神録けいしんろく」は、五代十国時代から北宋代にかけての政治家・徐鉉じょげんの著書。「時珎ぢちん諬神録けいしんろく」とありますが、これは誤りのように思われます。
※ 「華考くわかう」は、明の愼懋官によって編纂された『華夷花木鳥獸珍玩考』のことと思われます。
 国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができます。『華夷花木鳥獸珍玩考12卷【全号まとめ】
※ 「ヘイシムル」は、『大和本草』では「海女 ヘイシムレル」と記されています。

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和本草16巻付録2巻諸品図2巻附録巻1-2



筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字や誤字・誤読に気づいたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖