山蛤(あかかへる)
山城 嵯峨、又は、丹波、播州、小夜の山より多く出す。又、摂津 神嵜の邊にも出せども、其 性宜しからず。
凡、笹原、茅原のくまにありて、是をとるには 小き網にて伏、又、唐網のごとくなる物の龍頭を両手に挟み、こまを廻すごとくひねりて打は、網きりゝとまはりて、三尺四方許に広がるなり。
※ 「笹原」は、笹が生い茂った原のこと。
※ 「茅原」は、茅が生い茂った原のこと。
※ 「くま」は、奥まったところ。隈。
かくし得て、腸を抜き、乾物として出す。其色 桃色繻子のごとし。手足、甚 長く目は扇の要に似たり。但し、今市中に售るもの、偽物多し。
本草綱目に、山蛤は 蝦蟆より大きく、色黄しとありて、日本の物には符合せず。国を異にするのゆへもある●。大和本草に、長明無名抄 を引て、井堤の蛙 是なり。
晩に鳴きて 常のかわずに變れり。色黒き様にて、大きにもあらずといふて、山蛤に充たるはおぼつかなし。
※ 「本草綱目」は、明の李時珍によって編纂された本草学書。
※ 「大和本草」は、江戸時代中期に貝原益軒によって編纂された本草書。
※ 「長明無名抄」は、鴨長明が著した『無名抄』のこと。
筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
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