~ここにはないもの~ #1
その日、僕は不思議な夢を見た
薄暗く少し風が吹く中、一斉に照明が灯り真ん中に立つ1人の女性を輝かせていた
見覚えのある姿…彼女は" 齋藤飛鳥 "
そう、そこにはアイドル時代の" 母 "が立っていた
DVDでしか見たことのない若き母
夢だとは理解しつつも、こんなにも鮮明なのはどこか不思議な気分である
〇〇:かあ…さん?
飛鳥: ……
声をかけたが返事はない
ただ…
なんだろう…
息子の勘とでも言うのだろうか、
母は何か言いたげにそして寂しそうに見えた
〇〇:かあさん…?
飛鳥: ……
それでも母は何も言わず、
こちらに背を向けて奥へと歩き出し
そして…
静かに暗闇へと消えていった…
…
……
がばっ
僕はいつも以上に汗をかきながら目を覚ました
昨夜、母の夢の見たせいなのか
それとも一世一代の勝負の緊張からなのか
それは分からないが、
なんにしても"いつもと違う朝"を迎えたのは間違いなかった
ただ変わらないこともある
すぅ…すぅ…
隣ですやすやと眠る彼女
さくらはいつもと変わらず、かわいかった
変な夢を見たからなのか…
隣にいて改めて落ち着く自分がいた
さっき" 一世一代の勝負 "だと言ったが…
それは僕の彼女…遠藤さくらについてである。
数年前、会社の後輩として入社してきたさくら
その面倒を見ることになったのが僕であった
可愛らしい子だなぁと初めから思っていたが、特に何かを期待したことはなかった
そんなある日…
『あ、あの…一緒にご飯行きませんか…?///』
外回りの仕事終わりに、
頬を赤らめながら彼女がそう口にしてきた
何故か僕も頬を赤らめて『いいよ。』と伝えた
すると彼女は、
僕にも聞こえないような声で、
『よ、よかった…///』
と小さくつぶやいた
そんな彼女に僕が惚れていくのは、そう時間はかからなかった
気付けば彼女になり、
気付けば同棲するまでに至っていた
そんな僕らは今日で付き合って3年になる
そして今日、僕は遠藤さくらにプロポーズをする
紆余曲折した人生といえるだろうか
こんなんで良いのかと…自分に何度も問いかけた
それでもようやく地に足をつけ覚悟を決めた
一世一代の大勝負といっていい日
人によっては複数回あるかもしれないが、誰もが1度でいいと思う。
昨日からずっとバッグに” 指輪 ”が入っているか、何度も何度も確かめた
そして今日、3年付き合ってきた彼女を
背伸びをして夜景の見えるおしゃれなレストランに誘った
ベタだと言われるかもしれないが…それしか思いつかなかった
さくら:〇〇くん…
〇〇:うん…どうした?
さくら:素敵なレストランだね…
と喜ぶ4年目の僕の彼女
この顔が見たかった、僕も自然と笑みがこぼれる
それと同時に、少しほっとする…
(大丈夫、うまくいく。)
自分にそう何度も言い聞かせる
〇〇:!!?
突如、ブーブーブーと震える携帯
画面の名前をみると「あやめ」とでていた
実家で父と母と暮らす妹からの着信だった
さくら:電話?出なくて大丈夫?
○○:大丈夫だよ、あとでかけなおすから
心配そうな顔をするさくらを安心させる
1番大事な時に邪魔するな!と思いながら僕は電話を無視した
ピロンっ
続けてくる妹からのLINE
『なんだよ…もう』と内心思いながらチラッと携帯の画面を確認する
えっ…
あやめからのLINE
それはたった一言だった
ただそれを見た僕は頭が真っ白になり、その日の全ての計画を見失ってしまうのだった
【 お母さんが、、死んじゃった… 】
#2 ↓
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