見出し画像

聴竹居を訪れて

もももろうです。

タイトル、なんと読むかご存知ですか?
そのまま読んで頂いて結構なんですが、「ちょうちくきょ」って言います。
ちょっと言い難いですが、なんかかわいいですよね。

先月の終わり、帰郷に合わせてここを訪れて参りましたので今回はそのお話。


聴竹居とは

この聴竹居ですが、「居」と付いているので建物だとなんとなくはお分かりかと思いますが、日本の建築やインテリアの歴史を辿ると必ず出てくる、とても重要というか貴重というか、素敵というか価値のある建物なのです。

本当は写真を見ていただくと、もはや私の文章など不要なくらいその素晴らしさが伝わるのですが、SNS等での発信はご遠慮くださいということなので、これはもう逆に私がnoteにて紹介する必要があるなと、逆ファインプレーやなと思い記事をしたためさせて頂いております。

この聴竹居、訪れるとガイドさんが丁寧に1箇所ずつ説明かつ案内して下さるのでとても勉強になります。
以下、あらましですが、

場所は京都の大山崎。
1928年に建築家・藤井厚二氏の手によって建造された邸宅です。
藤井氏は東京帝国大学から竹中工務店へと入社し、目覚ましい活躍をされますが約6年で退社。
その後、アメリカを始めとする各国の建築をその目で確かめるため、9ヶ月にわたり海外視察。
日本の住宅と設備が他の国に比べ随分劣っていることを憂い、その思索を込め建てられた5軒目の自宅。

ということで、、え!自宅5軒も建てたの!?
と、そのパワフルさを感じさせるエピソードでございます。余談ではありますが、実家も非常に裕福だったと事。


聴竹居の意義

聴竹居は「日本住宅の理想形」とか「環境共生住宅の原点」などと言われており、国の重要文化財としても指定されているのです。
この建物を一言で表すならば、調和と融合です。あ、二言でした。

これほど和と洋がしっかりと手を繋いでいる住宅が他にあるのかという見事な調和ぶり。
そして、その繋ぎ目が和洋といった概念で括れない、新しいステージにあると思わせる融合ぶり。

これには谷崎潤一郎も何も言うまい、、と言うか年代も地域も結構ニアなので、何か言ってないかな。文献探しときますね。ご存知の方おられましたらご教授くださいませ。



陰翳礼讃の記事でも書いたように、当時の日本はさまざまなものに欧米の風が吹き、まさに風雲急の発展を遂げている最中でした。

そして1920年、生活改善運動という国家的なプロジェクトが推進されます。
これは簡単にいうと国民みんなの生活の質を向上させようね!という取り組みなんですが、かなり幅広く問題定義がなされており非常に興味深いものがあります。

例えば農業に対する改良や、食生活における改善。さらには、蚊とハエのいない生活という取り組みまであって、調べると結構紆余曲折を経ていて面白い。と、言ってしまうといささか語弊はありますが、そこから日本の生活水準というのは徐々に上がっていくわけです。
今私たち日本人がこんなに豊かで衛生的な暮らしを送れているのは、先人たちが試行錯誤しながら築き上げてきた努力の上に成り立っているのだなぁとつくづく思います。



そして藤井氏は、意匠のみならず、そういった機能面においても和と洋の融合をもって解決していくのです。
それが日本住宅の理想型と言われる所以なのです。


住居における対策

1つ目は衛生面。

当時はトイレやキッチンなど水回りの衛生状態が非常に悪い上に、換気など空気の循環においても配慮がなされていなかったため感染症や伝染病が流行しておりました。

それを解決すべく、聴竹居では清潔感のある白を基調とした壁、空気の循環を考えた高天井、そして土間を廃止して基本板間にしてあります。
キッチンには生ゴミの処理ダクトなど、廃棄や排水設備にも海外から持ち帰った知識をふんだんに活かした設計がみて取れます。
さらに藤井氏の強い要望でスイスからわざわざ電気冷蔵庫まで取り寄せ、食品の衛生的な保存と管理を徹底。当時主流の冷蔵庫といえば氷を一緒に入れとくアレなのに、、すごいですね。
なんなら電気コンロも備え付けて、壁掛け時計まで電気式というこだわり。
そう、この聴竹居は何を隠そうオール電化住宅なのです。

そして、2つ目は意外にも和服問題です。

洋服が一般に浸透するのは戦後になりますが、ここで既に意識されだしてるんですよね。脱ぎ着にかかる時間や動きづらさ、そしてやはり衛生面でも問題になる。
ただ、当時はまだまだ洋服も高価でしたので、藤井氏は着物のままでも座りやすい椅子などを自ら設計して配しています。
日本特有の床座という生活の中に、西洋の椅子座形式を取り入れ、しかしそれがごく自然に日本の生活様式の進化と捉えられるような提案になっています。

例えば、床座の人と椅子座の人の目線が合うように小上がりを巧みに使ったり、椅子座の人の目線に合わせた床の間なんて、軽率におこなえば否定されそうな設計ですが、その発想の柔軟さに一目見ただけで納得させられます。
しかも床の間にピクチャーレールまで取り付けてます。


というか、建具から調度品から、ありとあらゆるものをご本人が設計されているので、全てにおいてこだわりが見られます。
正直、全部聞いて回ったら見学時間内では終わらないでしょう。


そう、実はこのnoteにおいても、一つずつお話ししてたら終わらないというか!また連載みたいに長ったらしくなってしまうので!ここからは絵と解説でいきます(写真をネット上のアップするのは禁止といわれましたので)!
面倒くさいわけでは断じてありません!!!


以降、イラストと説明です!

家中で一番素敵な縁側

・宅内に直射日光が入るのを防ぐ縁側は、外を通るご近所さんと挨拶出来る関係性を意識した作り。
・海外から取り寄せたガラス窓は、遠近感のバランスを考え中心の窓が広く、外にいくほど小さくなっている。
・床はフシのない松。贅沢すぎます。
・天井はへぎ板のあじろ貼りで2ヶ所に空気を逃すための蓋付き開口部を配置。
・照明はバランスを考慮し部屋に対して45度に配置。もちろん設計は藤井氏。
・屋根は銅板で軽量に。これは震災を教訓とした発想。
それ以外にも作り付けの家具が非常に多いのは、そういう理由からである。
・建具に使われたスリワリの小ネジは全て木目(長手)と同じ方向性で止まっている。
・左奥の花台は90度の角に対して木目を垂直に使い、小口を黒漆で仕上げシャープに見せている。


15cm高くすることで開放的なまま空間を差別化している食卓

・独特なアーチを描いた入口。他にもアーチを使った装飾が随所に設けられ、座る場所から見る連続性や統一性といった視覚的な心地良さを意識して作られている。
・実は部屋左奥の壁は、キッチンと繋がっており、小窓から料理を提供できる。それを加味して両部屋の床の高さもそれぞれに調整されております。
・イラスト手前にある小さな出っぱりは右の扉を開けた時用のドアストッパーで、アーチと同じ形をしていてすごくかわいい。ここは大工さんの仕事らしいです。
・食卓は直射日光が入らないように東西南北を45度ふった設計にしているとのことです。


スイスから取り寄せた電気冷蔵庫

・ものすごい存在感


まさに調和と融合の客間

・椅子座で過ごせる客間。右手前の椅子は着物のままで座れるように、座面を深く、帯が後ろに逃がせるような構造。
・テーブルは当時よく見られた糸巻き型。膝が当たらないよう下の方が円弧が抉れている。
・奥の床の間は椅子座目線に合わせて作られている。ピクチャーレールも仕込まれていて、従来のような掛け軸だけではなく好きに飾れる。


上:食卓の照明
下:リビングの照明


・食卓の上の照明は縁側同様四角い形を部屋に対して45度で作り付けられています。そして、なんとこの中央の装飾は方角を指し示しております。
・リビングの照明は円形で格子の装飾と二重のベースが特徴的。この辺りは、食卓入口のアーチや、欄間にもある円弧状の装飾などと統一感を持たせているそうです。
・これは同じデザインのものが間隔を開けて3つ取り付けられており、しかも全て微妙にサイズが事なります。これもまた遠近法を意識してとの事で、本当にこだわりには脱帽です。


一番素敵な窓

最後に格子状に枠組みされた窓。
グリットを元に作られた格子窓は開ける分量によって表情を変えます。
本来、窓は無段階で開閉させるものですが、このようなデザインにされるとまんまと段階調整してしまうというか、したくなるというか。
しかもそれが美しいとなると、もう藤井氏の思うがままです。
両手をあげて降参するしかない窓。


イラストでお伝えしたものの、正直2割も伝えられていないと思います。
やはりこれは実際に見ていただくに越したことはありません。
インテリア、建築関係ではない方でもきっと感動しますよ。
そして、間違いなく皆さん「ここ、住みた、、」と漏らしてしまうこと請け合いです。

どうぞみなさん、京都にいかれる際は市内もいいですが、是非「聴竹居」を訪れてみてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?