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【小説】30年間、テレクラを生き甲斐にしてきた女の末路

この春、私はテレクラを卒業する。
30年前、炬燵に入ってぬくぬくとした生活を送っていた私を、炬燵の温かくなる所を壊してくれたのがテレクラだった。

テレクラと聞くと、世間体は悪いがそれに救われる人間もいる。ぬくぬくとした生活を幸せだと思えない人間もいる。生きるとは?幸せとは?炬燵とは?それを教えてくれたのはテレクラだった。

テレクラは私に、性のぼんやりとした所を教えてくれた先生でもあり、やさぐれたお母さんでもあった。

そんな私とテレクラの深い溝になった物語を、ここまで読んで目がクエスチョンマークになっている貴方たちの為に、紡いでほどいてみようと思う。

私が初めてテレクラを利用したのは大学を卒業後、就職が決まり地元を離れ移り住んだとある地方都市だった。

当時はちょうどバブル期で、夜の街は賑わいを見せていた。アッシー、メッシー、ゴッキーなんて言葉が流行した。

私はバブル期の恩恵を受ける事のない職についていた為、羽目を外して札束を紙飛行機にして飛ばす団体を横目に、地味な歓送迎会を終えた帰りだった。住んでいたアパートの近くには公園があり、誰もいない部屋に帰りたくなかった私は、酔いも後押しとなり、公園でしばらく遊ぶことにした。

ひとりものまねショーにも飽きてきた頃、肌寒くなってきたので公園の入り口にある電話ボックスで暖をとる事にした。

その電話ボックスは他より大きめで、足を伸ばす事ができる。ガラスの壁に寄りかかりぼーとしていた。ふと、ガラスに貼ってある無数のチラシの中から一枚のチラシが目に止まった。

ロッドアイス勃起氷菓…?ああ、テレクラか」

急にアイスが食べたくなった私は、何を思ったのか目の前の公衆電話の受話器を手に取り小銭を入れた。そのチラシに載っているフリーダイヤルの番号を押した。

遠くにコールの音がきこえる。

「もしもし…」

男のくぐもった声が聞こえた。

その声を聞いた私は、緊張のあまり上ずった声になった。

「も、もしもーし」

すると、男が呼吸を荒くし

「ハァ…ハァ…ねぇ、何色の…ハァ…パンツ被って」

ガチャン

男が言い終わる前に受話器を元に戻した。

「ちょっとなに今の…被るって」

嫌悪感と高揚感が入り交じった複雑な感情が私の中でどんどん大きくなっていく。もしかしたら晩餐館も混ざっていたのかもしれない。

もう一度フリーダイヤルの番号を押した。

「もしもし」

さっきとは別の男の声がした。

それに安堵した私は、いつもの声を出す事ができた。

「もしもし。あの…」

20分ほど会話を交わし、電話を切った。

この時の感情は今でも忘れられない。生まれて初めて、言葉では言い表せないくらいの大きな幸福感に包まれた。

この日から私とテレクラの共存生活が始まった。

仕事が終わった後一旦帰宅し、夕飯を済ませ、人通りが少なくなった時間帯にあの電話ボックスに通うのが日課となった。

私がテレクラを利用する目的は出会いではない。異性との会話を楽しむ事。ただの会話ではない。テレクラという背徳感が回線を通じて、絶頂の光回線となっているのだ。

私が出会い目的ではないと知ると、相手はすぐに通話を切った。中には私の様に異性との会話を目的とした男性もいる。そんな男性たちと交流を深め、テレ友もできた。さすがに本名は名乗れないので交流の場では『ウサギ』で通した。ウサギにした理由は、また別の話で書こうと思う。

私には色々なテレ友がいた。絵本の読み聞かせをしてくれた人は火災報知器のアナウンスの人の声に似ていた。声が煩くて内容が入ってこない。風俗店の店長をしている人もいた。嬢との関係がバレて奥様から踵落としをくらった話は面白かった。動物の盗撮を趣味にしている人もいた。いつか写真集を出す事が夢だとか。その写真集が本屋で並ぶのを楽しみにしている。その前に捕まらない事を願う。

そうやって、テレクラでの交流が私に絵本の読み聞かせの暖かさ、パートナーへの敬愛、動物を慈しむ心を教えてくれた。テレクラは私にとって人生の教科書となった。

そんな生活を続けて1年が過ぎた頃、気になる男性ができた。気になると言っても恋愛感情ではない。彼の性癖に興味を持ったのだ。

彼はれんと名乗った。本名かどうかわからない。仕事は探偵みたいなことをやってると教えてくれた。毎週金曜日の23時に電話を掛けると、決まって蓮さんが出る。約束した訳ではない。『プル』だとほかの人に取られる為『プ』で電話を取るようにしているとの事。『プ』の音で私からの電話かどうかわかるらしい。そうやって親しくなっていくうちに性癖の事を少しずつ話してくれた。

「実は俺、電話の相手が俺好みの下着や服を身に着けてくれてるのを想像すると、興奮するんだ。ロッドが言うことをきかなくなるんだ…今にも…」

「そうなの。ロッドが…」

「ウサギさんにお願いがあるんだ」

「なあに?」

「来週、ひ…ひもぱんを穿いてきてくれないか?」

「ひもぱん?いいわよ。丁度持ってるし」

「本当に?ありがとう!嬉しいよ…来週たのしみにしてる!興奮して俺のロッドがフル回転してるよ…」

こうして蓮さんの性癖を満たす為、私の奮闘が始まった。

元々コスプレに興味があった私は、蓮さんの無理な要求にも喜んで答えた。持っていない下着や服はデパートで買い揃え、日本にない物は海外から取り寄せた。あまり人通りのない時間帯とはいえ、誰かに見られないかドキドキした。いつしか、それが快感となっていた。

そんな刺激的な日々を過ごしていたとある金曜日の23時、先週お願いされた、どんぐりで作った下着を身に着け、足早に電話ボックスへ行き、電話を掛けた。

「もしもし…」

その日の蓮さんはなんだかいつもと違っていた。

「もしもし、なんかあった?」

「うん…実はウサギさんにお願いがあるんだ」

「どうしたの?改まっちゃって。今度はどんなコスプレ?」

「ちょっと言いにくいんだけど、来週は…ぜ…ぜ」

「ぜ?」

「ぜ…ぜん…」

「え?ぜん?」

「全裸になってくれないか!!」

その声が受話器越しにボックス内に響いた。


つづく


***
《お知らせ》

いつも週刊スカイボーイをご愛読いただき、ありがとうございます。本雑誌の新連載
[小説]30年間、テレクラを生き甲斐にしてきた女の末路 の筆者である「めー」が、筆をドブ川に流してしまった為、急遽、筆者が絶大な信頼を寄せている、医師であり占い師でもある作家の渡邊惺二先生に代筆をお願いする事になりました。
次回
[小説]30年間、テレクラを生き甲斐にしてきた女の末路~全裸偏~

主人公は全裸になるのか?ウサギと名乗った理由が語られる…

お楽しみに!!


小説のお友に音楽を添えて


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《臨時のお知らせ》
[小説]30年間、テレクラを生き甲斐にしてきた女の末路~全裸偏~
の書評について。

渡邊惺二先生より、書評は親友であり戦友の「○○について思うこと」じゃなきゃダメなんだ!と、ご欲望がありましたので、書評を「○○について思うこと」さんにお願いいたしました。


書評のお友に音楽を添えて


 鴨蓮社 スカイボーイ編集部

       編集担当 メー。 

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《小説の参考記事》
執筆にあたり、「ぽかうさいちご」さんの記事を参考にさせていただきました。貴重なひとり時間をテレクラの記事に費やした「ぽかうさいちご」さんの記事のコメント欄には「全裸」「テレクラ」の言葉で溢れていました。改めて「ぽかうさいちご」さん、小説にご出演ありがとうございました!


コメント欄を一部公開

なんという事でしょう。これが医師の言葉でしょうか…


有言実行。素晴らしい!


出演を快諾されています


以上、「渡邊惺二」さん、「○○について思うこと」さん、「ぽかうさいちご」さんの紹介記事でした。3名の皆様、ありがとうございました。
m(_ _)m

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