恋の答え合わせ

「ちょっと、淳弥くん、くすぐったい」

背中にすーっと線を引く淳弥くんから、逃げるように身体をそらす。
それを見ながら拓がくすくす笑った。

「告白大会でもするか?」

「告白大会?」

拓の言葉に、私と淳弥くんは顔を見合わせる。

「今思ってることを背中に書く。チャンスは一度。わからなかったら、それでおしまい」

「おーっ、いいね。拓の浮気心とかわかるかもしれないなー」

「ばーか、俺はずっと理衣一筋だって。まずは俺からな。二人とも座って」

拓に言われるがまま、私と淳弥くんはその場に腰を下ろした。

「じゃ、一文字ずつ書いていくぞ」

拓の指が、背中に触れる。

ゆっくりと、“こ”という文字を記したような気がした。
続く文字を、忘れないように心の中で復唱していく。

“こんや りいに プロポーズする”

本当に?

トクンと高鳴った胸の鼓動。
振り返ると、拓は少し顔を赤らめて、照れくさそうに笑った。

「なんだよー、お前ら。見せつけやがって。てか、ただのノロケじゃん!」

淳弥くんも答えがわかったのか、からかうように拓のことを小突く。

違う意味で、ギュッと締め付けられる胸。

いつも三人一緒だった私たち。
そこから関係が変わったのは、私と拓が付き合いだしたからだった。

「次は俺の番な」

今度は、淳弥くんが私たちの後ろに回った。

淳弥くんの告白って、一体なんだろう。
あまり淳弥くんの恋愛話って聞いたことがない気もする。

“ず”

一番最初に書かれた文字を、忘れないように刻み込む。
淳弥くんの指は、“つ”そして、“と”と続いた。

ずっと?

息を呑み込んで続く言葉を待つ。
隣の拓はピクリとも動かなかった。

“り…い“

え? 私の名前?

答えを見失わないように、全神経を背中に集中させる。

“の…こ…と…が…”

私のこと? まさか、そんなわけないから。

隣で、同じ言葉を拓が感じてることも忘れて、私は淳弥くんの綴る言葉の先を期待してしまっていた。

“す…き…だ…っ…た”


“ずっと りいのことが すきだった”

繋がった言葉を、心の中で繰り返す。

「終わり。わかったか?」

振り返ると、淳弥くんとばっちり目が合った。

本当に?
そんなこと、一度だって言ってくれたことなかったのに。

ずっと欲しかったその言葉は、絶対に聞くことができないと思ってた。

「全然わかんねー」

本当にわからなかったのか、拓が降参とばかりに両手をあげる。

「次は理衣だな」

「あぁ」

私は、ただ二人の背中を見つめた。

きっと拓も淳弥くんも、私が二人の背中に書く答えを待っている。

私は、拓のこと、ちゃんと愛してる?
もう、淳弥くんのこと、ちゃんと吹っ切れてる?

二人の背中にじっと見つめられているような気がした私は、静かに二人の背中に触れた。

私が好きなのは。
私が愛しているのは、そう、きっとこれから先も、あなたは私の心の中を捕えて離さないだろう。
何があっても、私が好きなのは、あなただけだ。
誰にも変えられない。私にも変えられない。

ねぇ、本当に?
それでいいの?

fin


いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。