暗闇の中で咲かせた恋

両親が仕事で不在で、時間をもて余していた一人の夜。
激しくなるばかりの雨音に、少し心細さを感じながらテレビを見ていると、インターフォンが鳴り響いた。

「理?」

立っていたのは、幼なじみの理。

「一緒にDVDでも観ない?」

その言葉に、一気にテンションが上がって、ドアを開けた。

「ほら、これ。前に藍が観たいって言ってただろ?」

理が差し出したのは、前に私が理のことを誘って断られた恋愛映画。
こういうのは、興味がないって言ってたのに。

「いいの?」

「ほら、早く観ようぜ」

「うん」

理に急かされて、慌ててDVDをセットすると、理が自分の隣をポンポンと叩く。
ふたりがけのソファ。その距離が気になったけれど、意識をしないように、静かに理の隣に腰をおろした。

「電気消そうか。その方が映画館にいるみたいで雰囲気出るし」

「え? うん」

理に言われて、リモコンに手を伸ばして電気を消す。
部屋が暗くなると、隣の理の顔もよく確認できなかった。

映画を観ながらも、隣の理のことが気になって、映画に集中できない。

別々の高校に進学してからは、毎日一緒にいることが当たり前じゃなくなって、自分の理への感情が、恋なんだと戸惑った。

幼なじみという距離を壊したくて誘った映画も、興味がないと断られて、それは私自身に興味がないってことだと、すごく落ち込んだ数ヶ月前。

理は、どういうつもりでこのDVDを持ってきたの?

気がつけば、目の前の映画よりも隣の理のことばかりを考えてしまって、チラチラとその横顔を盗み見た。
映画の内容なんて、これっぽっちも頭の中に入ってこない。

スッと、理の手が伸びてきて私の手に触れる。

「集中できてないみたいだね」

距離を縮めてきた理は、私の耳元で囁いてきた。

「そ、そんなことない」

気持ちを悟られたくなくて、つい声が大きくなってしまう。
隣を見ると、さっきよりもずっと近くに理の横顔があった。

近すぎる理の横顔に、鼓動がうるさくなっていく。

映画の中の恋人たちは、熱いキスを交わしていたところだった。

「……俺は全然集中できてない」

理がポツリと呟く。

「え?」

理を見ると、今度は私のことをまっすぐに見据えていた。

「真っ暗なふたりきりの映画館。恋愛映画。恋人たちのラブシーン。隣に大好きな人の横顔。これって、襲いたくならない方がおかしいだろ?」

「理?」

「……だから、藍が映画に誘ってくれたとき、嬉しかったのに断ったんだ」

「そうなの?」

小さく頷いた理の手が、私の顎をとらえる。それを合図に静かに目を閉じると、ふたつの唇が重なった。

「好きだよ」

映画の中で彼氏が彼女に囁く「アイラブユー」と、理の声が重なる。
私は映画の中の彼女と同じように、理の腕の中に抱き寄せられた。

「本当に?」

映画の中でも、まだ信じられないという表情で、彼女が彼氏のことを見つめている。
まっすぐに、大好きな人を見つめあうふたりの視線。
それはこんな暗闇の中でも幸せの光を放っていた。


fin


Kojiちゃんの名付け親企画に参加しています。

2020.4.3

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いつか自分の書いたものを、本にするのが夢です。その夢を叶えるために、サポートを循環したり、大切な人に会いに行く交通費にさせていただきます。