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高校のローファー

昨年まで、高校時代の黒いローファーを履いていた。

高校2年に買ったから約9年の月日を過ごしたことになる。この話をするとたいていドンびかれる。


もともと物持ちがいいタイプだった。でもそれ以上に父が教えてくれた「いいローファーは大事に履いていたらピタッと皮膚の一部になるよ」という言葉に興味があったのだ。まだ使えるし、捨てる理由もなかったので。高校、大学、社会人と舞台をかえて履き続けた。これが見事にその通りだった。


もちろん最初から身体の一部ではなかった。最初は革靴特有の硬さに何度もかかとやつま先が負けて、そのたびにバンドエイドをはった。それでも毎日履き続けた。


つま先がハゲてきたら、リペア用具の入ったカンカンをひっぱり出し、埃を落として、ハゲた部分に墨を継ぎ足し、布で余分を落とした。ブラシでやさしく磨くと魔法のようにぴかぴかによみがえった。


あまりにも足にぴったりだから、TPOをわきまえずあらゆる場所に履いてしまったこともある。身体の外のものにこんな感覚を覚えたのは後にも先にもあのローファーだけだと思う。


夏がおわり、今日は久しぶりにローファーを靴箱から出した。去年新調したこげ茶色の新人さんだ。まだ20回も履いてない。


駅に向かう途中かかとから擦りむけた痛みを感知した。懐かしさを感じながらドラッグストアによる。これから根気よく育てるからね。


10年も、20年も大事にしたい。

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