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ブッダガヤの日本寺で漫画"ブッダ"を読む 【インド】

一緒にインド入りをしたひかりくんとコルカタの旅を終えてブッダガヤへ向かった。
沢木耕太郎著「深夜特急」で沢木氏が旅した場所として書かれていたので知っていた。

ブッダガヤは仏教の開祖であるブッダが悟りを得た菩提樹がある場所として沢木耕太郎著「深夜特急」に書かれていたので、無宗教と言えるほど宗教に興味のない私でも「これは行っておきたい」とリストに入れていた場所だ。

”ブッダ” ”仏教”
「なんか聞いたことあるな」という音として漠然と知っているだけで、その意味や歴史、背景は全く理解していない。興味を持ってこなかったのだ。
旅の中でこういった体験はたくさんあった。
知ってるようで知らないことを目の当たりにする度に自分の無知さを恥じたし、今ここで知れてよかったとも思えた。


誰にも縛られない全て自分次第の自由な旅なのだが、私たちはなぜか規則正しい生活を送っていた。
決まった時間に起き、朝食を食べ、町をぶらぶらして疲れたら適当なお店に入り、チャイやコーラを飲みながら休む。
そして、空が暗くなるまでまた意味もなく歩く。お気に入りのお店で夜ご飯を食べたら宿へ帰って寝る。そんな毎日を過ごしていた。

ブッダガヤに来て数日経ったある日。
ひかりくんが、「ここから少し行ったところにトトロの木のモデルになった木があるみたいなんですよ。ちょっと行ってみませんか?」と私に提案してくれた。

私は少し気まぐれなところがあって、どうしても気乗りしなかったので
「俺はここでいつも通り待つよ」って言って、ひかりくんの素敵な誘いを断った。
今思えば、そこにしかない魅力的な木を一目見ておけばよかったな、と少し後悔している。

日本を発ってから約3ヶ月もの月日が経っていた。この時、少しでも日本に関わるものを見たりすると懐かしく感じる様になっており、宿から数分歩いた先にある「日本寺(NIPPONJI)」も、心休まる場所のひとつだった。

そこでは誰でもどんな時も歓迎してくれて、何者でもない旅人の私のことも快く迎えてくれた。

日本寺の中には、小さいながらも日本の書籍を揃えた図書館があった。
元々本を読む方ではなかったが、日本語で書かれた本にすごく懐かしさを覚えた。私の目にまず映ったのが、手塚治虫の漫画「ブッダ」だった。
ブッダガヤにいるのに、ブッダが悟りを開いた菩提樹がある場所にいるのに、そのことについて何も知らない。

私は、それを一巻から時間を忘れて読んだ。
初めて読むブッダは、人生に迷いに迷っていた自分に衝撃を与えてくれた。

幸せは結果を追い求める事ではなく、そこに行き着くまでの過程なのだということ、 人生は長いようで短い、幸せな時間、瞬間は思っているより短い。明日は何があるか分からない時代、今をこの旅を充実したものにしよう、と心から思えた。

「さんしょーさん、さんしょーさん」とひかりくんの声がした。
外は落ちていくオレンジ色の夕陽に照らされたブッダガヤの街並みが見えた。

どうやらいつの間にか机にうつ伏して寝てしまっていたようだ。

私は、寝ぼけた頭で「トトロの木どうだった?」と聞いた。
ひかりくんは、「すごく大きい木でしたよ。ここで寝てるくらいなら来ればよかったのに」と呆れ顔で言った。

「確かに」と答えて私たちは笑い、宿へ戻った。

その日の夕飯はひかりくんがトトロの木を訪れた時の話を聞きながら食べた。私がブッダに思いを馳せている間に彼は違う場所で違う経験をしていて、今一緒に食事している。

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