想い出の住む街 第七話
神無月 ー 十月 ー
ヒミィ達のクラスでは、グループで研究発表をする事になった。
課題は、自由。
勿論ヒミィは、いつもの五人でグループを組んだ。
「どうする?」
そう訊いたのは、ネオだ。
その日の放課後、教室に残った五人は早めに課題を決める事にした。
「大体研究発表だなんてさ、先生も面倒な事考えてくれるよな」
アーチはそう言って、溜息をついた。
「僕も、アーチの意見に賛成」
珍しく、ティムがアーチに賛同している。
「おいおい、二人とも今からそんな調子じゃ困るよ。やはり面倒だと思う気持ちがあるんだったら、課題は皆が興味を持てるようなものにした方がいいな」
セピアが、考え込みながら言う。
ヒミィも、それに同意した。
「それ、いい考えだね。皆が興味ある事なら、進んで調べたくなるもんね」
「じゃあ、僕が一つ提案したいんだけど……」
ネオが、遠慮がちに手を上げた。
「何だい、ネオ」
セピアがネオを指名すると、ネオは鞄から一枚の紙を取り出した。
「これ、皆の家にも届いたと思うけど……」
「あっ、プラネタリウムリニューアルオープンのチラシだ!」
ヒミィはそう叫んで、チラシを手に取った。
「機械設備も、最新のものに取り替えたって言うだろう?ちょっと、興味があって……」
ネオがそう言うと、アーチもチラシを覗き込んで目を輝かせた。
「ああ、これだったら僕も行ってみたいと思ってたんだよ」
アーチの反応を見て、セピアは驚いた顔をした。
「アーチが、乗り気になるなんてね……よし、それじゃあもうこれに決めるしかないな。他の皆は、どうだい?」
「僕は賛成!」
「僕も」
ヒミィとティムも、賛成のようだ。
セピアはそれを見て頷き、皆に言った。
「それじゃあ僕達の研究課題は、天体観測に決定」
次の日。
放課後に五人は、早速科学博物館へ出掛けた。
「そんなに、混んでないね」
ヒミィがそう言うと、アーチも辺りを見回し頷いた。
「平日だからだろう」
「五枚下さい」
入口の受付では、セピアが皆の分の入場券を買っている。
「空いていて良かったよ、並ばずに見られるね」
ネオは、今から楽しみで仕方がないようだ。
「お待たせ」
入場券を手に持ったセピアが、皆の所に戻って来た。
「何だ、それ」
ティムが、そう訊いた。
セピアの手には五枚の入場券の他に、あるモノが五人分握られていた。
「ああ、皆にも配るよ」
セピアが配ってくれたものは、厚紙で出来た眼鏡のようなモノだった。
レンズの部分には、何やら特殊なフィルムが張られている。
「眼鏡?」
ヒミィが首を傾げると、セピアも肩を竦めた。
「さあ……僕もよく分からないけど、上映中にこれをかけるらしい。きっと星が立体的に見えるとか、そう言う技術を新しく取り入れたんじゃないかな」
「それ面白そうだね、早く見たいなぁ」
ネオは、とても嬉しそうだ。
「じゃあ、早速入ろうか」
セピアの言葉に頷き、五人は中へ入った。
中はいくつかの展示室に分かれていて、星の歴史の説明や宇宙の写真、模型や季節の星座早見表など様々な資料が沢山置いてあった。
五人は上映時間になるまで、それらの展示物を一つ一つ丁寧に見て回った。
何しろクラスで発表しなくてはならないので、五人ともメモを片手に真剣な表情をしている。
「そろそろ、時間だな」
暫く経った頃、セピアが四人に声を掛けた。
メモを鞄にしまった五人は、プラネタリウムへ向かった。
中に入る客は一人もいず、席は全て空いていた。
薄暗い白熱灯の下、五人はビロード張りの紺色の座席に腰掛けた。
「もうすぐ始まるだろうから、椅子を倒しておいた方がいいな」
セピアに倣って皆が座席の背もたれを倒した途端、明かりが消えた。
辺りは、真っ暗になって行く。
天井を見上げると、其処には闇が広がっているだけだった。
暫くすると、妙に無機質な女性のアナウンスの声が聞こえて来た。
『本日はご来館下さり、誠に有り難う御座います。只今より、プラネタリウムを上映致します。尚、上映の際には入館時にお渡し致しました眼鏡をご着用下さいますよう、お願い申し上げます』
「だってさ」
そう言って、アーチは先程の眼鏡をかけた。
四人も、黙って眼鏡をかける。
『それでは皆様、星の世界を心行くまでお楽しみ下さいませ……』
其処でアナウンスは途切れ、再び静寂と暗闇が訪れた。
どれほどの時が、流れたのだろう。
未だに、プラネタリウムは始まっていない。
最初に気付いたのは、ヒミィだった。
「あれ……」
ヒミィは、広い草原の真ん中に寝そべっていた。
隣にはティム、セピア、アーチ、ネオが同じように眠っている。
「ねえ起きてよ、四人とも!」
ヒミィは、皆を揺り起こした。
四人が、ゆっくりと起き上がる。
「此処、何処だろう」
ヒミィが訊くと、ティムは眉を顰めて呟いた。
「何だ、一体……どうなってるんだ?」
「プ、プラネタリウムは?」
ネオが驚いてそう訊くと、アーチが溜息をつきながら答えた。
「それは、こっちが訊きたいよ。で、セピアの意見は?」
セピアは立ち上がり、首を横に振る。
「さあ……何とも、説明し難い状況だね」
「でも見てよ、やっぱりまだ星は出てないみたい」
ヒミィに言われて、他の四人は一斉に空を見上げた。
空は真っ暗で、月も星も出ていない。
「随分と、変わった場所だな。川沿いの原っぱとも違うし、隣町の空き地だって此処まで広くはない筈だ……」
セピアは、自分が知っている限りのありとあらゆる場所を思い出したが、このように果てしない草原は何処にも当てはまらなかった。
「ねえ、あれ……人、じゃない?」
いつも通り、ネオが目ざとく何かを見つけた。
果てしない草原の真ん中に、ポツンと小高い丘がある。
その丘の上に、二つの人影が見えた。
「行ってみようか?」
セピアの言葉に皆は頷き、早速丘まで走って行った。
「ほら……この月見草、綺麗だろう?」
「どうしたのさ」
「近くに咲いていたのを、摘んで来たんだ」
ヒミィ達が丘の上に着くと、二人の少年が会話を交わしていた。
黄色くて丸いテーブルと揃いの椅子が、草の上に置いてある。
その側には、山のような段ボール箱がいくつも積み上げられていた。
「あの……」
ヒミィが話しかけようとすると、少年の一人が怖い顔で怒鳴った。
「君達、此処は関係者以外立入禁止だよ!」
「え、あ……」
ヒミィが口ごもってしまったので、代わりにアーチが言った。
「ちょっと、待ってくれよ。こんな広い草原の真ん中で、立入禁止も何もないだろう?大体、君達は此処で何してるのさ」
「何してるって……見れば、分かるだろう?今は、準備中なんだ」
そう言って、少年は側にあった空気を送るポンプを目の前に突き出した。
「へぇーっ、自転車の修理でもしようって言うのか?」
アーチが厭味を言うと、少年は呆れながら肩を竦めた。
「全く、物分りが悪い奴だな。まあ、そんな頭の悪そうな厚紙製の眼鏡をかけているくらいだから、相当……」
「やめろよ」
もう一人の月見草の花束を持った少年が、困った顔をして言った。
「許してやってくれないか。口は悪いけど、根はいい奴なんだ」
アーチは黙ったまま、ムスッとしている。
「あ、あのさ……さっき準備中だって言ってたけど、何の準備なの?」
ネオが訊くと、花束を持った少年は山積みになった段ボール箱を指差した。
「あの中に入っているビーチボールに、空気を詰めなきゃならないんだ。もしだったら……此処で会ったのも何かの縁だし、手伝ってくれると有り難いんだけど」
「それって、どんな縁だよ!大体、どうしてこんな奴らに僕達の仕事を手伝ってもらわなきゃならないのさ!」
もう一人の少年は、気が乗らないようだ。
しかし、花束を持った少年は言った。
「そんな事、言うもんじゃないよ。彼等はきっと、悪い人達じゃない。それに僕達だって、手伝ってもらった方が助かるだろう?」
「そ、それは、そうだけど……」
そう言って、少年は俯いた。
花束を持った少年がクスッと笑って、宥めるようにもう一人の少年の肩に手を置く。
「まあ何だかよく分からないけど、僕達も突然知らない場所に放り出されて困ってるんだ。特にする事もないし、僕は是非ともお手伝いさせてもらうよ」
セピアは、そう言った。
「本当かい?助かるよ」
花束を持った少年は、とても嬉しそうだ。
「どうする?」
ティムが、皆に訊く。
ヒミィは、意気込んで言った。
「困ってる人がいるんだ、僕は勿論手伝うよ!」
「やっぱりね……」
ティムは、溜息をついて呟いた。
「ネオは、どうするの?」
ヒミィに訊かれて、ネオは答えた。
「そうだね……じゃあ、僕も手伝おうかな」
「ホント?だったら後は、ティムとアーチだけだよ」
ティムとアーチは、互いに顔を見合わせた。
「仕方ない、手伝うしかないだろう」
そう言って、ティムは肩を竦めた。
「分かったよ……」
アーチも、渋々了承する。
「有り難う。じゃあまず、こっちの段ボール箱から片付けよう」
花束をテーブルの上の花瓶に挿した少年は段ボール箱を開けようとして、ハッとしながらヒミィ達に言った。
「あの、紹介が遅れたけど……僕はムゥン、そして彼はスタァだよ」
「宜しく……」
スタァは腕を組みながら、ボソッと呟いた。
ヒミィ達も二人に自己紹介をして、早速作業を開始する事にした。
段ボール箱の中には、黄色い星の形をしたビニール製のビーチボールが沢山入っている。
「これを、全部膨らませるのかい?」
セピアが訊くと、ムゥンは頷いて言った。
「そうなんだ。僕達二人だけだから、ちょっと困ってたんだよ」
「ま、やるならさっさとやっちゃおうよ」
アーチは、ポンプを手にした。
「そうだね、じゃあ始めようか」
ムゥンの合図で、皆はそれぞれビーチボールに空気を入れ始めた。
皆で休む事無く作業を続けたお陰で、あんなに沢山あった筈の段ボール箱は、あっと言う間になくなってしまった。
その代わり、丘の上は辺り一面黄色い星型のビーチボールで一杯だ。
「助かったよ。後は、これだけだ」
ムゥンはいつの間にか目の前に現れた、人が乗れるくらいの大きさの籠を指差した。
中には、相当大きなビーチボールが折り畳まれて入っている。
「それ、大変そうだね」
ネオがそう言うと、ムゥンは頷きながら籠を覗き込んだ。
「うん、これが一番大きいんだ。でも、これさえ膨らませてしまえば……」
「お茶入ったから、休憩しろよ」
突然、スタァが無愛想に言った。
気が付くと、テーブルの上にはお茶やお菓子が並べられている。
「うわあ、美味しそう!」
ヒミィはいてもたってもいられず、すぐさま椅子に座った。
「皆も、良かったら座ってよ」
ムゥンに言われて、他の四人もテーブルに着いた。
スタァが、一人一人にお茶を注ぐ。
「砂糖、ある?」
ヒミィに訊かれ、スタァは黙って砂糖の入れ物を置いた。
「あ、可愛い砂糖だね」
蓋を開けたヒミィは、途端に喜んだ。
中には、色とりどりの星の形をした砂糖がいくつも入っていたのだ。
「僕は、ピンクの星にしようっと……皆もいる?」
ヒミィが訊くと、ネオが手を上げた。
「じゃあ僕、貰うよ……やっぱり、星は黄色かな」
ネオは、黄色い星をお茶に入れた。
星の砂糖はパチパチと音を立てて、お茶に溶けて行く。
「お菓子も沢山あるから、どんどん食べてね」
ムゥンはそう言って、お菓子の皿を差し出した。
蜂蜜と生クリームをたっぷり巻いたロールケーキや、月や星の形をした焼き立てクッキーからはバターのいい香りが漂っている。
ヒミィはまず、お茶を一口飲んだ。
本当は真っ先にお菓子に手を伸ばしたかったのだが、夜空の下にずっといたせいか少し肌寒かったのだ。
「あっ……」
お茶を飲んだヒミィは、ハッと驚いた。
「こんな美味しいアップルティーは、初めて飲んだよ」
「え?」
それを訊いて、ティムが首を傾げる。
「ストレートティーだろ?」
「そうだな……でも、本当にいい茶葉を使ってる」
セピアもそう言って、お茶を飲んでいる。
「だ、だけど、林檎の香りがするもの……」
ヒミィは、困った顔をしている。
其処でネオが、また違う事を言い出した。
「ぼ、僕は、てっきりレモンティーかと……」
その言葉に、皆は顔を見合わせている。
「一体、どう言う事なのさ。スタァは、同じポットからしかお茶を注いでないんだぜ?」
アーチがそう言うと、ムゥンはクスクスと笑った。
「ああ、それは砂糖のせいさ」
『砂糖?』
五人が、声を揃える。
ムゥンは、頷いて砂糖の入れ物を指差した。
「さっきヒミィは、ピンクの砂糖を入れただろう?そしてネオは、黄色の砂糖を入れた。これらをお茶に入れるとピンクはアップル、黄色はレモンの香りがするんだよ」
「へえ、面白いね。僕、全種類試したくなっちゃった」
ヒミィがそう言うと、ティムが驚いた顔をした。
「そんなに一杯、お茶を飲む気なのか?夜中にトイレに行きたくなっても、知らないぜ?」
皆は、一斉に笑い出した。
ヒミィは、真っ赤な顔で俯いている。
やがて休憩を終えた七人は、最後の仕事に取り掛かった。
黄色くて丸い、巨大なビーチボールだ。
今までの星のビーチボールは一つ一つ両腕に抱えられる大きさだったが、今度のはそうも行かないようだ。
「此処の入口に全てのポンプを繋げて、全員で一斉に空気を送るんだ。いいね?」
ムゥンに言われて、五人は頷いた。
「じゃあ、行くよ。せーの!」
ムゥンの合図で、皆は同時にポンプを押し始めた。
ビーチボールは、見る見る内に大きくなって行く。
それはまるで、気球のようだった。
「なあ、これ気球なのか?」
アーチが訊くと、スタァが答えた。
「僕達は、これに乗って帰るのさ」
「どう言う事?」
不思議そうな顔をしていると、ムゥンは嬉しそうに微笑んだ。
「有り難う、君達のお陰で助かったよ」
あっと言う間にビーチボールは膨らみ、気球のように籠をぶら下げて目の前に浮いている。
「じゃあ、行くか」
そう言って、スタァは籠に乗り込んだ。
「え、行っちゃうの?」
ネオが訊くと、ムゥンは頷いて微笑んだ。
「君達が手伝ってくれたお陰で、仕事も早く片付いたし……今日は、早めに帰ろうと思ってね。僕達、あまり長く地上にいられないんだ」
「え、どう言う事?」
ヒミィが訊き返したが、答えは返って来なかった。
「何処へ帰るのさ」
ティムが、続けて訊く。
「遠くだよ」
スタァが、素っ気無く答えた。
「この星、一体どうするつもりなんだい?」
セピアは、辺り一面に散らばっている星のビーチボールを見回した。
「大丈夫、一緒に持って帰るから」
ムゥンはそう言って、ニッコリ笑っている。
「一緒にって、どうやって持って帰……お、おい!」
アーチの話の途中で、気球は空へ向かって浮かび始めた。
「どうも有り難う」
「じゃあな」
ムゥンとスタァは、手を振りながらどんどん遠ざかって行く。
訳の分からないまま、五人も手を振って彼等を見送った。
「ねえ、あれ見て!」
突然、ネオが叫んだ。
何と言う事だろうか。
皆で膨らませた無数の星のビーチボールが、ムゥンとスタァを乗せた気球を追いかけるかのように、一斉に浮かび上がったのだ。
「す、凄いよ!綺麗だね……」
ヒミィが、呟きながらその風景に見とれている。
他の四人も、黙ったまま空を見上げた。
星のビーチボールは徐々に星座の形となって空高く上って行き、やがて夜空の星となった。
そして、ムゥンとスタァの乗っていた黄色くて丸い巨大な気球も、夜空に輝く綺麗な満月となったのである。
「なるほど、そう言う事だったのか……」
セピアは腕を組み、一人で納得している。
「え、何?」
ヒミィは、訳が分からない。
「これって、凄い事だぞ。僕達は、夜空に月と星を浮かべるのを手伝ったんだ。まさに、天然のプラネタリウムだな」
ティムの言葉を聞いて、ヒミィは目を丸くした。
「そ、そうなの?何だか、信じられないなぁ……」
「と言う事は、ムゥンとスタァは……」
ネオがそう呟くと、アーチは呆れ顔で溜息をついた。
「どうせ、空の住人かなんかだったって言うんだろ?何なんだよ、する事させておいて終わったら、はいさようならか?全く、疲れただけだったじゃないか。大体、僕達はどうやって元の場所に戻ればいいのさ!」
アーチが苛立ちながらそう言った時、いつの間にかお茶をした筈のテーブルや椅子が消え、紺色のビロード張りの椅子が五つ現れていた。
ネオが、ハッとする。
「ねえ、これって……もしかして、僕達がプラネタリウムで座ってた座席じゃない?」
「ネオの言う通りだ、取り敢えず座ってみよう」
セピアに言われるがまま、皆は座席に腰掛けた。
座席を倒すと、満月や星が綺麗に瞬いているのがよく見えた。
「物凄く、豪華なプラネタリウムだね……あ、流れ星だよ。ほら!」
ヒミィがそう言って空を指差すと、その流れ星は徐々にこちらへ近付いて来た。
「き、気のせいか、こっちに落ちて来てるように思えるんだけど……あの星」
ティムが恐る恐る言うと、皆も無言で頷いた。
流れ星は段々大きくなって行き、もう目の前まで迫って来た。
「ど、どうすればいいの?」
ネオが、震えた声で言う。
「もう、間に合わないよ!」
アーチが叫び、皆も悲鳴を上げて目を閉じた。
『うわぁーっ!』
誰かが、肩を頻りに叩いて来る。
ヒミィは目を細めながら、ゆっくりと起き上がった。
勿論隣にはティム、セピア、アーチ、ネオもいて、ヒミィと同じように座席に座ったまま、すやすやと眠っている。
やがて、皆も徐々に目を覚まして辺りをキョロキョロと見回し始めた。
「え……あれ?」
ヒミィは、呆気に取られた。
最初は自分が何処にいるのか分からなかったが、確かに此処はプラネタリウムの中だった。
目の前には、係員が立っている。
プラネタリウムの上映は、とっくに終わっていた。
今日の上映は一回だけで、再上映はない。
係員は、皆に自分の目を指差して見せた。
「あ……眼鏡」
ヒミィは、慌てて眼鏡を取った。
他の四人も、眼鏡を取る。
係員に言われて、五人は黙ったままプラネタリウムを後にした。
「あれから、どうなったんだろう」
帰り道。
ヒミィがそう呟くと、ティムが訊き返した。
「何が?」
「僕ね、プラネタリウムの間ずーっと夢を見ていたんだ……月と星を浮かべる、お手伝いをするんだよ」
「もしかして……ムゥンとスタァが、出て来るヤツか?」
ティムの言葉を聞いて、ヒミィは目を丸くした。
「ど、どうして、それを……」
「それなら、僕も見たよ」
そう言ったのは、アーチだ。
「僕も」
ネオも、小さく呟く。
セピアは、驚いて言った。
「じゃ、じゃあ、僕達は全員で同じ夢を見てたって事か?」
「そ、そんな事、ある訳……」
アーチが苦笑いした、その時。
「あっ、これ!」
ネオが、突然叫んだ。
「どうしたんだい、ネオ?」
セピアが、訊く。
「み、見てよ、これ……」
ネオはポケットの中から、不思議な石を取り出した。
星の形をしており、キラキラと光を放っている。
「綺麗だね、それ。どうしたの?」
ヒミィに訊かれ、ネオは首を傾げた。
「さあ、僕も良く分からないんだ……だって今、何気にポケットの中に手を入れたら、これが入っていたんだから」
「も、もしかして……これの事?」
何と、アーチもポケットから同じ石を取り出したではないか。
そしてヒミィとティムとセピアのポケットの中にも、同様に石が入っていたのだった。
「きっと、あの時の流れ星が原因じゃないかな」
セピアがそう言うと、ヒミィは嬉しそうに頷いた。
「ムゥンとスタァが、投げて寄越したんだよ。仕事を手伝ったお礼に、ってさ」
それを聞いて、ティムは石を眺めた。
「なるほどね……となると、これは貴重だな」
「僕達の、宝物だね」
ネオも嬉しそうに、石の光を見つめている。
其処で、アーチがボソッと呟いた。
「路地裏の骨董品店に売ったら、結構なお金になりそうだな……」
『アーチ!』
四人は、一斉にアーチを睨んだ。
「じょ、冗談だよ……それより、もう遅いから早く帰ろう。今日の天体観測の結果も、まとめなきゃいけないんだしさ」
アーチの言葉に皆は頷き、一番星の輝く夜空の下を家へと向かって歩いて行った。
おしまい
二〇〇〇.六.二一.木
by M・H
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同じ地球を旅する仲間として、いつか何処かの町の酒場でお会い出来る日を楽しみにしております!1杯奢らせて頂きますので、心行くまで地球での旅物語を語り合いましょう!共に、それぞれの最高の冒険譚が完成する日を夢見て!