見出し画像

映画「祝日」について(脚本担当視点)

 前作『幻の蛍』の脚本を書き終えたのが2021年の夏頃。それから約半年後、2021年の年末に新作の脚本のお話を富山チームの皆さんからお話を頂きました。お打ち合わせの内容を明確に覚えているわけではないので、あまりテキトウなことを言ってしまってはいけないのですが、一言で言えば、「自由に書いてほしい」と言われたと記憶しています。そこから、伊林監督を始め、皆さんとお話をしながら見えてきたのが今作の骨子となる、

ある日、死のうとした女の子が自分の天使と出会う。

 というお話でした。

 自分史的なことでいうと、この年はちょうど、フジテレビのヤングシナリオ大賞の佳作を受賞した年でもあります。受賞前からのお友達でありながら、今、もっとも注目される脚本家である生方美久さん(言い切りの文をあまり書かないけど、これは言い切っていいはず)、とお互いの脚本を読んで励まし合ったりして「次は授賞式で会いましょう」と言ったそのことばが現実になった。そんな記念すべき年でもあります。

 でも、僕の心は穏やかではありませんでした。それは脚本家という職業が思ったものではなかったからです。それは僕自身の見通しの甘さでもあったわけですが、脚本家は、バラ色の職業ではない。寝転んでいればホイホイ仕事が入ってくるわけでもないし、その日々は砂を噛むような時間がほとんどで、決しておもしろくないことも日々、多々起こるものだったのです。いわゆる、現実を知った、というやつです。

 そんな中でのこのお声掛けは、僕にとってまさに青天の霹靂というか、なんというか。「あなたの大切にしていることを書いてほしい」と言われているような気がして。そこから年末年始に一気に自分の中にある、なにか大切なものを掴み取るように、このお話のスケッチというか、全体の空気を掴むための文章を書いていきました。

 脚本執筆期間中、一つルールを決めました。それは「世界に目を凝らすぞ」ということです。見ているようで見ていない世界のことをできるだけ見ようとして、見過ごしてしまっている悲しい出来事やあかるい出来事をできるだけ丁寧に拾い上げ、それをこの死のうとした女の子と共有したいと思いました。見ているようで見ていないなにかを見ようとして天使と出会えたような。そんな気もします。

 そんなこんながありながら。人生にぬかよろこびしたり、勝手に落胆したりを繰り返しながら、決定稿をお送りしたのが2022年の9月8日になっています。秋です。3つの季節をくぐり抜けて、映画『祝日』の脚本が完成し、そしてそこからさらに1年半とちょっとの時間を経て、ついに皆さんにご覧頂ける運びになりました。嬉しいです。本当に嬉しい。こんなにしあわせなことがあっていいのだろうか、と思います。本当に。

 ヤンシナ受賞時にnoteを書きました。そこにも書いたのですが、僕は映画やドラマに詳しいわけではない。海外ドラマは人より多少好きかな、とは思いますが、コンテンツというものに対して、貪るように摂取できる貪欲さ、みたいなものに欠けています。これは創作者としては、あまり、というか、かなり良くないことで、でも当時も今も、そこは変わっていません。

 でも、です。

 でも、折に触れて、「生きてみよう」「生きるんだ」と、心が折れそうになっても、そこを支えてくれたのは、あるドラマであり、ある映画でした。コンテンツというもの全般を好きではないけれど、あるドラマ、ある映画に救われた過去がある。だから書いている。だから書きたい。その気持ちが途切れたことは今の今まで、一度もありません。

 脚本家の生は、(少なくとも僕にとっては)過酷です。楽ではない。明るく書く、軽く書くことを信条にしていますが、それでもつらい。割とちょっとしんどい。書いたものが褒められるなんてことはほぼないし、無茶な直しもこなさなきゃいけないし、いろんな利害の中で、それでも気丈にがんばります。自分で選んだ道と言われればそれまでだし、脚本を仕事にできているだけでしあわせなんだからそれくらい我慢しろと言われれば本当に、なにも言い返すことはできません。そう、でも、そういう話をしたいんじゃないんです。〈にもかかわらず〉、を言いたくて、この話を書いてます。

 にもかかわらず、脚本は好き。
 にもかかわらず、脚本は頑張りたい。

 心からそう思ってます。そして、そんな風に、自分なりにちょっと傷つきながら、ちょっと踏ん張りながら、それでもって思って書いていたら、ふとご褒美をもらえた。ご褒美みたいな作品が生まれた。心の底から愛おしくて、どこにだしても恥ずかしくない。好き嫌いはあるかもしれないけれど、それでも「観てほしいです」と胸を張って言えるし、クレジットされていることが誇らしい。そんな映画。冗談に聞こえるかも知れませんが、本当に天使が運んできてくれたとしか思えないような。そんな気分です。

 つらつらと書いているうちにまた長くなってしまいました。ごめんなさい(映画は90分とちょうど見易い時間になっているのでご安心下さい)。

 最後に何より、これはあくまで脚本を書いた、いちスタッフとしての僕の視点です。この作品を形にしてくださったのは、伊林監督であり、主演を演じてくれた中川聖菜さんであり、天使の馬場さんの岩井堂聖子さんであり、キャストの皆さんであり、スタッフの皆さんであり、どこの誰もと知れない僕を見つけてくれた坂本監督であり、もうもう、書ききれないとんでもないたくさんの皆さんのお陰で形になったものです。感謝しかありません。

 映画『祝日』、ぜひ劇場でご覧ください。5/10から富山で先行公開、5/17から全国で順次公開されます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?