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メモ日記【7/14~7/17】

7/14

 同僚氏の退職が正式に決まった。ということは彼の持っている仕事が概ね私の仕事になるということが決まったわけだ。気が重い一方、退職レースからようやく解放されたという思いもある。同僚氏とは約十三年間、二人三脚で働いてきた。短い結婚生活の期間を含めても、社会人以降の自分が最も多くの時間を共有してきた人物ということになる。毎日顔を合わせて言葉を交わしてきた相手が、自分の世界から跡形もなく消えるというのはなんだか不思議な気持ちになる。そして不安だ。ポストペットのサービスが終了したときのモモも、きっとこんな気持ちだったに違いない。毎日いろんな考えが頭に浮かんでは消えていく。名案のように思えた考えも、半日後には陳腐に感じる。その繰り返しだけでグッタリしてしまう。
 帰宅して、ふと先月宝くじを買ったことを思い出した。これはある時「最近良いことがないが、現在の日常にそもそも良いことが起こる余地がない」ということに思い至り、なんとなくドリームジャンボを三千円分買ってみたのだ。悪い運気が溜まりに溜まっている今こそ開封するのに相応しいのではないか、といざ当選結果の照会へ。すると驚くなかれ。本当に一万円が当たっていた。差引7,300円の特別利益である。私はいままで宝くじを「三千円を三百円に圧縮したい人が利用するサービスなのだろう」と思っていた。
 違ったのだ。


7/15

 どうやら小山田圭吾氏の過去のいじめがまた話題になっているらしい。今回はオリンピックがらみでピックアップされたようで、事は大きくなりそうだ。かくいう私も、彼の作る音楽は素晴らしいと思っているし新譜が出たらチェックはするくらいには好きだが、人間としてはとても好きにはなれない。むしろ「こんな人が近くにいなくて本当に良かった」とすら思っている。しかし歴史に名を残す傑作をものにした文豪や芸術家にはロクでもない人間も少なくない。そう考えると、後年に残る傑作さえ残せば、遥か未来のリスナーたちはこの悪行もアーティストの興味深い(そしていささか悪趣味な)逸話・トリビアとして消費するようになるのかもしれない。まあ、もし遺した芸術作品の価値よりも悪行の知名度が上回るなら、未来の歴史で彼の名が刻まれているのは石川啄木ではなくヒトラーと同じページであろう。
 明日は有休をとって簿記二級の試験に行く予定なのだが、昨日の宝くじの一件を同僚氏に話したところ、「普段から運のないお前が試験直前に運を使ってしまうとは。非常に悪い予感がする」とのこと。実際、簿記の試験というのは実施日によって問題の難しさにバラつきが大きいくせに合格点は毎回70点と変わらないため、ある程度勉強したら後は運の問題だと考える向きもあるらしい。確かに今回の宝くじの収益7,300円というのは試験一回分の値段を少し上回るくらいである。これが伏線ではないことを祈るばかりだ。受かったら酒でも買おう。換金して帰った。
  性行為における耳の使用方法について興味深い洞察を得たのち、就寝。


7/16

 試験は午後イチからということで午前中はダラダラと過ごす。おそらくアンジェラ佐藤氏なら飢餓感を覚えるほど軽い昼食を取ってから外に出ると、たちまち夏が私に襲い掛かってきた。今日の太陽はアスファルトをじっくり時間をかけて焼き上げることにしたらしい。歩くだけで汗がとめどなく流れる。まさに小山田氏言うところの『太陽は僕の敵』といった気分。駅に着くころには車ではなく地下鉄移動にしたことを後悔していた。
 試験は無事合格。「学生時代、勉強が苦手だった男が、無知識から三か月の独学で簿記三級、二級と取ったのは快挙なのでは」という想いと、「いや、この程度は別に大したことでない」という想いが交錯した結果、合格に大きな喜びは感じず、ただただ「終わったか」という感慨だけが残った。それはそれとして、一問だけ何度計算しなおしてもマトモな数字の出てこない問題があり、その答えが今も気になっている。おそらく恐竜が絶滅した本当の理由と同様、私はあの有価証券利息の金額を永遠に知ることはできないのであろう。ともあれ、私は無事、高額当選金7,300円を守りきった。
 そんなわけで帰りがけに紀伊国屋書店にて海外文学とアイドル写真集コーナーに立ち寄り数冊購入。それから大通公園に行き、久しぶりにとうきびワゴンのふかしジャガイモを買う。本当なら一緒にビールも胃に流し込みたかったが、さすがにこのご時世では売っていないようだった。皮膚を貫かんと降り注ぐ陽射しは昼を過ぎてもなお鋭い。日陰のベンチを探してさまよっていると、優しそうなおばあちゃんが「もう私は帰るから、ここに座り」と席を譲ってくれた。アツアツのベンチでアツアツのイモを食べながら、他人から受け取った優しさは、自身の中で栄養のように消費されるのだろうか。それとも花粉のように蓄積されるのだろうかということを考えた。
 その後、札幌が誇るパワースポット『小鳥のひろば』を経由して地下鉄で帰路につく。家の最寄り駅に着いたが、なんとなくそのまま家に帰るのがもったいなくなり、近所の店に寄り道。
 気温三十度。平日午後四時のモスコミュールは、かりそめの自由の味がした。


7/17

 昨日の試験合格について喜びの薄さに物足りなさが気になり、少しでも自尊心を満たそうと、『簿記2級 難しいのに』『簿記2級 独学 短期間 スゴい』『簿記2級 モテる』『きわどい水着 美女 画像』などで検索。自尊心はさほど膨れなかったものの、早朝から私のグラビアフォルダが若干の充実を見せた。
 午後、友人と会う。共通の別の友人が大ケガをしたとの話を聞いて驚いた。最近まったくツイッターを確認していなかったので露知らず。慌ててログインすると、いろんな方から私を心配するリプやDMが届いていた。有難いと感じる一方で申し訳ないとも思う。とはいえ、すぐに「元気です」と言える心持ちでもなく、なんとも厄介だなあと思いながらログアウトしてしまった。
 たまにツイッターから離れることがあるが、その理由はおおむね二つに分けられる。一つはネガティブな情報ばかりが目につくようになったとき。もう一つはネガティブな情報ばかりを発信しそうになったとき。今回は後者 だ。ふとした瞬間に愚痴や弱音ばかり書き込む自分に気付くと、「自分だけが大変なわけではないのに何をそんなに甘えているのか」という気分になってしまう。だが同じ立場の他人を見てもそうは思わないし、なんなら若い頃の私はむしろ他人に頼り切りだった。離婚した頃に「自分はこのまま一人で生きて死ぬかもしれないのだから甘えてはいられない」と感じたのが大きい。なかなか難しいものだ。
 23時頃、帰宅。私のグラビアフォルダが目を見張る充実を見せた後、就寝。 

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