怪しかった上野

 前に「男はつらいよ」の寅さんの旅立ちに、上野が似合う話を書いた気がする。

 東京都内にはいくつも「始発駅」があって、東京駅、新宿駅、両国駅なんかが浮かぶんだけど、やっぱり寅さんには上野だ。柴又だから金町に出る方が距離は短いし、実際そう考えられるエピソードも観た記憶があるんだけど、「上野で飲んでるから」の方が印象深い。始発の上野なら確実に座れる。

 寅さんと言えばインチキ商売の話がいくつもあるが、上野というのがインチキ商売に丁度良かった土地らしい。帰郷する出稼ぎ労働者(カモ)が多かったとか、商品を製造する小さい工場が近くにかなりあったとか。大勢が集まる上野公園もあるし。これは1980年代前半ぐらいまでの話だが。

 そういえばこの辺りで「なぜなに学習図鑑」を並べて売ってる人を見た記憶が、うっすらとある。

 旧ツイッターで「上野の露店で出稼ぎの帰省客相手にパチモン怪獣を売ってるおっさん」の話が出ていたが、納得である。

 今もアメ横に「今日だけサービス」と言いつつ年中やってるチョコレート売りがあって、「これもこれも、これもおまけだ」とか言うその名人芸に買ってしまったりするが、昔はこの辺もっと怪しかったんだろうと思う。

 私自身も昔の上野駅は垣間見ている。次々発車する東北各方面への電車特急は華やかだった。夜になると夜行の特急の他、座席車の多い急行もあった。

 上野からの最後の寝台列車が無くなるという事で、見に行った事もあったが、あれは列車や車輌に対しての葬式じゃなくて、上野から長距離列車に乗る時代への葬式だったんだろうと思うのだ。

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