見出し画像

モノカキコ、大好きな親友に会いに行く(中編)


前回の記事はこちら↓


浜松一人旅最終日。今日のメインはもちろん、『大好きな親友ことAさんに会う!』です。
待ち合わせ場所で待ってくれていたAさんは、よく着ているカーキ色の上着をその日も着ていたので、この人!とすぐに分かりました。

Aさんは見るからに優しそうな、素敵な人でした。よかったぁ。
緊張しましたが、嬉しく思いました。Aさんも私と会えたことを嬉しそうにしてくれたからです。実際会ってもやっぱりフレンドリーな人で、私の緊張をほぐそうとしてくれました。

“会えたのがすごく嬉しいよ”
“楽しみにしていたんだよ”

そう態度で伝えるのは、とても親切なことだと感じました。自分はここにいて場違いじゃないし、受け入れてもらっていると実感できるからです。
Aさんには「直前までスケジュールの目処が立たないから、プランはギリギリまで待っててくれる?」と言われていました。
そんなわけで、一緒に行きたいところとやりたいことはざっくり伝えてあったものの、当日の行動の流れがどうなるのかは不透明でした。
私はお昼ご飯を一緒に食べて、午後から浜松巡りに付き合ってもらえたら嬉しいなという認識でいたのですが、Aさんは午前中から丸一日、私のために時間を取ってくれていました。


中田島砂丘

まず海に行こうね、との約束通り「中田島砂丘」に連れて行ってもらいました。

中田島砂丘は日本三大砂丘のひとつだそうです。海にたどり着くまでに砂山を登っていかなければならないのが不思議な感覚でした。

浜松に着いた時から感じたのですが、意外にも地元の人達は、私が思っているのよりあまり海を意識して生活していないように見えました。「海街だね!」と言われてはじめて「そういえばそうだね」というような。
不思議だな……と思っていたのですが、前日街を歩いてみて何となく感覚を掴めた気がします。街の作り的に生活圏内と海が分離しているようです。行こうとしてもこの砂丘のように苦労して登らなければならなかったりして、ふっと見たときにそこに海がある、という地形ではないのかも知れません。

一見公園みたいな雰囲気の入り口を進むと、目の前にそびえる砂丘がどんどん巨大に思えます。歩きやすいようにとスニーカーを履いてきましたが、進むにつれ足がおぼつかなく、進んでいる実感がありません。Aさんの話によると、学生時代はここでリレー大会などをしたこともあったそう。
なんだかアリ地獄にはまったアリになった気分です。靴に砂が入りこむというよりも、靴が砂に包まれて一体化している感覚でした。でも、さらさらと綺麗な粒で、不快な感じはありませんでした。
苦労したぶん、頂上まで登り切って海がやっと見えたとき、とても達成感がありました。

海だぁ〜!


海に近づくにつれ、砂が徐々に湿り気を帯びて足場がしっかりし、歩きやすくなってきます。大きな波の音に、いい感じの石、いい感じの流木。

『アンファミリアの海』という小説を書いたとき、私は海辺を“この国の輪郭のきわ”と表現しました。まさに私は今、この国の輪郭のきわにいました。
ここに来てアンファミリアの海の再現をしようね、ずっと前からAさんはそう言ってくれていました。だって僕のことを思って書いてくれたんでしょ、と。そう、いつかAさんが私から離れてしまうかもと思うと寂しくて堪らず、そんな気持ちで書いた物語でした。
あの小説を書いた当時、書いたことをお知らせしてもいない内に、Aさんから「読みました」と丁寧な感想をいただきました。それがいろんな意味でとても嬉しくて、思い出すたび温かな気持ちになります。

「二十代の頃ね、人生うまくいかなくて、煮詰まったときに一人でよくここに来てたんだ。それでしばらく海を眺めたりしてた」

Aさんはそんなことを教えてくれました。確かに、どうしようもない気持ちになったときにここに来たくなる気持ちは分かる気がします。一人ならずっとここでぼーっとしてしまうかも。信頼されているようで、Aさんが過去の話をしてくれるのをいつも嬉しく思います。どの年代のAさんも、全部大事なAさんです。


砂丘から戻ってきて靴を脱いだら、コントみたいに砂がザーッと出てきて二人で笑いました。途中から風も強くなったので、せっかく後れ毛多めでおしゃれにセットしたつもりのニュアンスまとめ髪も、ただのザンバラ髪に……。
髪の毛頑張って素敵にしてきたんだよ見て、靴下とピアスの色揃えたんだよ見て!とAさんに報告してから四十分後、オシャレカキコは早くも終了しました。
でもAさんは「*ちゃんはどんな*ちゃんでもかわいいから大丈夫」と言ってくれました。ホンマかいな。でも優しいね!



聖地巡礼/手打ち蕎麦naru

お昼ご飯に「手打ち蕎麦naru」へ向かいます。ここのお蕎麦屋さんはAさんも行ったことがないとの事でした。
浜松駅にほど近い、沢山のお店が立ち並ぶ賑やかな通りにあるようで、同時にそこは崎山蒼志聖地が密集する場所でもありました。
通称「いつかみた壁」の場所もそのとき教えてもらいました。

顔がはっきり写るようなAさんとの2ショットはどうしてもまだ撮れるメンタルじゃない、と私が言ったとき、Aさんはとても残念そうでした。それでもそれを呑んでくれて、なおかつ顔がはっきり映らないような形を提案して撮ってくれたAさんの心遣いが嬉しかったです。
写真に撮られた私、何年振りだろう。強制参加の集合写真は全てフォルダから削除してきたな。自分が憎くて、子ども時代の写真も捨ててしまって。
なので自分があんなにひょいっと成長できるなんて思いませんでした。不思議なことに、浜松旅行で撮ってもらった写真は今見返しても不快感はなく、私はその写真がお気に入りになりました。

お蕎麦屋さんに到着すると店内は満席で、しばらく待ってから入店できました。外の階段でお客さんが一組待っておられて、その方が「そこの紙に名前を書くんですよ」と教えてくださいました。そのときのAさんの反応が柔らかくてフレンドリーでとっても素敵でした。同じように次の方が来られたときの話しかけ方も、とっても素敵でした。

店内に入ると、内装がお洒落です。このお店では以前シンガーソングライターの折坂悠太さんがライブをされ、そこにファンとして中学生の崎山蒼志さんが聴きに来たこともあったそうです。

午前中からよく動いたので、ここで初めて落ち着いてAさんと向かい合うことができました。近くで見るとまつげがとっても長い!
「まつげ長いね、かっこいいね」と言うとAさんは照れてしまうのですが、私はAさんの顔を描いたことがあるので、鼻も口も全てのパーツが整った顔立ちであることをよく知っています。
Aさんが電話のときと何ら変わらず、嬉しそうに私と話してくれるのが嬉しくて、あまりにも優しい表情で私を見てくれるのも嬉しくて、気恥ずかしさはあったのですが、Aさんに会いに浜松へ来て本当に良かったなぁとしみじみ思いました。

注文したお蕎麦、とても美味しかったです。くるみだれと蕎麦がよく合って、滋味深い味わいでした。調子に乗ってデザートまで食べてしまいました。幸せでした……。



きの珈琲/手紙交換の儀

ご飯を食べた後も、なんやかやで街中をウロウロしました。
ここは崎山くんがフリーライブをした場所だよ、ここが『蜜蜂と遠雷』のモデルになったホテルだよ、展望台行ってみる? そう言って色々な場所へ連れて行ってくれました。もし私が地元を案内するとしたら、こんなふうに出来るかなぁ。でもきっと、まずは自分がやってもらう側になるからこそ、やってあげる側になれるんだろうな。出来るように頑張るね。
あと、よそ見しながらふらふら歩いていたので「足元気をつけて!」と終始言われていました。危なっかしくてごめんね。


私のわがままで、事前に「Aさんとお茶したい!喫茶店の固めプリンを一緒に食べたい!」と要望を出していました。候補に挙げた場所のうち、一番近くのお店へ歩いて向かうことに。

“浜松 カフェ 固めプリン”で検索して見つけた、「きの珈琲」というお店です。

穏やかなマスターのいる、こだわりが詰まったような小さめのお店でした。

憧れの喫茶店固めプリン。大きな型で作って切り分けるタイプ

後先考えずに、浮かれてお蕎麦屋さんでデザートまで食べてしまったことを、この時点になってようやく後悔しました。プリンの胃袋スペースのこと考えてなかった……。完全に調子ノリコでした。
でも、美味しいものはやっぱり美味しい。カラメルソースがこっくりほろ甘く、プリンもしっかりした固さが理想的でした。なによりAさんと食べられたことが嬉しかったな。



ここで、“手紙交換の儀”を執り行いました。
ずっとやり取りしていたお手紙を、今回は直接交換し合って、お互いの手紙をその場で読むのです。
この日のために、私もAさんも、事前に手書きの手紙を準備していました。


大好きなAさんへ!

いちばん大好きな友達のAさんに、こうしてまたお手紙を書けることを嬉しく思います。
今は浜松でお会いする前ですが、渡す頃にはどれだけ打ち解けているかな〜と楽しみに書いています。
…………
「友達契約書」の話をした時のことを覚えていますか? 私が「友達って単なる口約束だから、簡単に友達じゃなくなっちゃうんじゃないかって怖い」と言ったとき、Aさんは「じゃあ契約書作る?」と言ってくれました。その言葉がすごく嬉しかったな。でも、今はその時よりもずっと仲良くなりましたね。こんなに素敵な友情関係は他にないと思っています。
…………
いつも本音で話してくれてありがとう。
私の話を聞いて、ヨシヨシしてくれてありがとう。
あなたのおかげで、私はびっくりするほど成長できました。
Aさんは世界一素敵な人で、世界一最高な友達です。

ずっと友達でいるよ。 

**様

いつもお疲れさま。いつも本当にありがとうね。
あなたと話すようになって、応援してくれる人が、傍にいてくれる事がどんなに貴重で素晴らしい事なんだろうかと思い返しています。
今日は浜松へようこそ。浜松の街は、**さんにどう見えていますか。何を感じましたか。またぜひ教えてね。
…………
今年も沢山、沢山話したね。
本当に電話の向こうから、一歩一歩前進して(時に後退→そういう時は遠慮なく僕にぶつけてくれたね笑)できることが増えていくあなたを見ていて、嬉しかったし誇らしかった!すごいよ。本当によくがんばったね。
そして、いつも親身になって僕の事をはげましてくれてありがとう!大感謝です。あなたがいたからがんばれました!

これからも仲良しでいてね。大好きです。

こうやって温かな手紙を交換し合える関係の人がいるというのは、なんて恵まれているんだろうといつも思います。どちらかが、ではなくてどちらもお互いを大事にしていると分かるのは、精神衛生的にとてもいいなと感じます。
Aさんは手紙にちょくちょくイラストを入れてくれていて、少女漫画調だったりギャグ漫画調だったり、それが嬉しくて可笑しくて、幸せでした。
泣いちゃうかなと思っていたのですが、どこかしら気を張っていたのか、もらった直後はイラストを見て笑ってばかりいました。
本当にこの手紙が沁み込むのは後々のことになります。

広くはない店内でしたが、その貴重なスペースの一角になにやら大きな機械が陣取っていました。

サイト写真より。左奥の機械です

私はあまり詳しくないので、何となく「コーヒー豆を加工するための機械なんだろうな」くらいに思っていました。Aさんも気になったようでした。
「あれ何?お米とか入れてポン菓子とか作るやつ?」
私はギャグだと思ったので「そうかもね!」と適当に返事をしていたのですが、Aさんはお会計のときマスターにも同じことを聞いたのでした。

「……あ、コーヒーの焙煎機ですね」

マスターの返答に一気に空気が緩んで、三人で大笑いしてしまいました。瞬時にお店の人との距離が縮まって和やかになります。
Aさんはやだ〜!と照れていましたが、私はAさんのこういうところがとても素敵に思います。垣根なく人に親しげに話しかけるところとか、疑問に思ったことは気軽に聞いてみるとか、たった一言で場の空気を柔らかくできるところとか。一日を通して度々「Aさん素敵だな」と思ったポイントはそこでした。気取らない、近づきやすい人です。

Aさんは周りに愛されて、困ったときは周りに支えてもらえる人だな。普段自分が周りを愛して、心をオープンにしているから。

お店を出てからもずっとおかしくて、学生に戻ったみたいに二人でいつまでも笑っていました。

ちなみにポン菓子の機械を調べてみたらこれ。意外とビジュアルは焙煎機と遠くなかったです。オシャレですね。



Aさんのストリートピアノ

「Aさんのピアノ生演奏、会ったら絶対聴かせてね!」と約束していた通り、Aさんは浜松駅にあるストリートピアノで沢山の曲をメドレーみたいに弾いてくれました。

浜松巡りのとき、途中から気づいたのですが、Aさんはずっしりと重いトートバッグを肩にかけて移動していました。私に聴かせるために、幾つもの楽譜を入れてきてくれたのです。
昔、誰にも聴かせることもなく部屋でひとりで弾いていたというピアノ。それが今やストリートピアニストとして演奏して、パフォーマンスとして成立させている。
ピアノのことはあまり分かりませんが、いつも真摯にピアノと向き合っているAさんの、優しくて誠実な音色がとても好きです。そして弾くたびに誰かしらに声を掛けられたり褒められたりして、着実にファンが増えていく様子を聞かせてもらうたび、私はとても誇らしい気持ちになります。

Aさんは椅子に座った瞬間、スイッチが入ったように演奏を始めました。弾き出したら周りを一切気にしない度胸と集中力に驚きます。録音とは違い、すぐそばで聴く生演奏はAさんの迫力が感じられて、惹き込まれました。
クラシックと最近のJ-popを織り交ぜたメドレー。一番周りに人集りができた曲は藤井風さんの『帰ろう』で、藤井風さんの人気ってすごいんだなと再確認しました。
自分が聴衆としてピアノ演奏を聴けたという嬉しさもあったのですが、大好きなAさんが周りから温かい目で見守ってもらっている様子を目の当たりにするのが自分のことのように嬉しくて、周りの人と拍手しているときがとても幸せでした。

街の各所にストリートピアノが設置されている浜松は、演奏者はもとより、聴衆もそれを自然に受け入れる基盤があるように感じます。風景の一部みたいに溶け込んでいるというか。音楽はもちろん素敵だけれど、それを自然と受け入れる土壌が浜松を優しい街にしているようです。

念願のAさんの生演奏、聴けたの嬉しかったな。



旅の終わり

ピアノ演奏を聴かせてもらったあとの帰り際の夕方、駅前の広場でAさんと別れました。
「*ちゃんの成長はこれからだよ。大丈夫」
Aさんは私の目をまっすぐ見て何度もそう繰り返してくれました。私のことを大事に思ってくれている目でした。
大丈夫。大丈夫。繰り返されるその言葉は、ほとんど願いごとみたいでした。言霊として何度も唱えられる言葉。私は何度も頷きました。

両手で握手してくれた手は、とてもふかふかで柔らかでした。
手を振って別れたあと、周りにたくさん人がいたにもかかわらず、Aさんは何度も振り返っては何度も大きく手を振ってくれていました。
こんなふうにしてくれる人、本当にいるんだ。

私は「Aさんと会えて嬉しいよ」の気持ちをちゃんと表現出来ていたかな。
周りに人がいると私の心は閉じがちで、素直な気持ちがいつも上手に出せているのか分かりません。それが心残りでした。


素敵な旅でした。Aさんと会えて、仲良しのフォロワーさんと会えて浜松の街を味わえて、本当に良かったな。全然一人旅ではありませんでした。
Aさんが何曲も弾いてくれたストリートピアノやそれを周りで温かく見守る人たち、活気のある浜松の駅周辺を思い出します。

帰路のあいだずっとそんなことを考えていました。




後編へ……。↓

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?