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あなたを忘れてしまうのが

私の知らない側面で何かが絶えず変化している。


忘れてしまうのが怖い。私の思った事々はあぶくのようにつぎつぎ湧き出でて、泡のように消え飛ぶ。形にも残らぬ、目にも見えぬものだから、私が言葉にして残しておかなければ、私がどうにかしてやらなければ、それらは日の目を見ることなく、言わば「死ぬ」。
忘れるのが嫌いなんだと思った。
でも違う。
私の思いはもっと強くてもっと厄介なものなんだと漸く気付いた。
嫌いなんじゃない。忘れるのが怖いのだ。


書き留めておかないと私は怖く、書こうと思った事が消えてしまい二度と現れないことが怖く、じゃないと私、ただそこにいるだけの粘土人形みたいになってしまうようで。目に見えない私だけのものを具現化しなきゃと責務のように焦って。
忘れたくない、忘れたくない。
忘れないで、忘れないで。
忘れる事によって物事がずっとスムーズに進むのだとしても。
思い出すのが辛くても。
きちんと原因を突き詰めたい。“ほんとうのこと”を知りたい。誤魔化したり、まぎらわすのは気持が悪い。
忘れる事によって調子が良くなって元気になるとしても。
その元気な私は真の元気な私ではないから。
空っぽで浅薄な人間になってしまいそうだから。

そんな訳で私は紙に書き付ける行為を止めない。ひとつも取り零さないよう、脳のレシートが欲しい。
だって、どんなに沢山の言葉を書き綴っても、
本当に大事なことは書けていないような、
一番伝えたいことはまだ伝わらないような、そんな恐怖に囚われる。
今まで書いたものを総合しても、多分私の中の50%くらいしかまだ取り出せていない。あとの半分はどうにも奥に詰まっていて取り出すのが難しい。

私は書く、どうしても。

終わらないのだ。

捕まえるたびすかすか抜けていく、そういう気分はずっと消えないでいる。

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