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圧巻の展覧会:いざ東博「桃山展」へ②

前回の投稿を「東博へ行ったよ」だけで終えてしまったが、印象的だった作品ぐらい記録にとどめておきたい。会場内は撮影禁止となっていたため、ひたすら文字だけで記しておく。

桃山美術の絶対エース:狩野永徳

「桃山美術」とも称される、安土桃山時代に作られた美術品の数々のなかでも、この時代だからこそ…と思う特徴が、豪華な障壁画(屏風絵・襖絵など)だ。金キラ派手な背景に描かれた獅子やら風景やら、どれも力強くて美しく、これほど華やかな障壁画の作品が生まれた時代はないのではないだろうか。NHK大河ドラマ「麒麟がくる」を見ていたら、二条城の内装に集められた調度品の中にも、こういった壮麗な障壁画が運び込まれるシーンがちらっと映っていたが、当時はきっと今見るよりももっと眩しかったに違いない。

中でも、絵師・狩野永徳は絶対エースだ。この展覧会のトップ作品として図録の表紙を飾る「唐獅子図屏風」(宮内庁三の丸尚蔵館)の大胆な構図や、細かいところまで丁寧に描かれた「洛中洛外図屏風」(上杉博物館)など、屏風や襖といった大きなキャンパスにめいっぱい描きたいものを描く姿が目に浮かぶ。「洛中洛外図屏風」は11月1日に放映された「麒麟がくる」の情報コーナーでも紹介されていたし、教科書にも掲載される国宝なので、実物を見れば「あぁこれか!」となる日本人は多いように思う。この屏風は、京都の市街(洛中)と郊外(洛外)の建物や人々の暮らしを上からみたように描かれていて、少し離れて全体を見ると、まるで自分が空から京の町を見ているような不思議な立体感を感じる。もちろん間近でじっくり見るのも楽しく、食事風景や商いの様子、お祭り騒ぎをする人々など、当時の暮らしぶりが場面ごとに散りばめられている。この図屏風一つで、あっという間に時間が経ってしまう。

今回の展覧会図録表紙 ↓ 

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一線を画す世界観:長谷川等伯

煌びやかな障壁画が続く会場のなかで、全く趣の異なる屏風絵が現れる。長谷川等伯の「松林図屏風」(東京国立博物館)だ。水墨画のこの作品は、屏風の六曲一双の空間をたっぷりと使い、松林がゆったりと描かれているだけのモノクロの風景なのだが、墨一色で松林の広さや奥行き、松の動き、少し霧がかったような様子を感じとることができる。屏風の高さが約1.6メートル。自分の身長とさほど差がないこともあってか、この屏風絵の前に立つと、さらさらと風が流れ、自分がその松林の中に立っているような気持ちになる。静寂が広がり、心が静まっていくのを感じる。そんな不思議な感覚になる絵はそうそうないのではないだろうか。ちなみに、「松林図屏風」は実は下絵だったという説があったり、描かれた後に屏風に仕立て直されたのではないかという説があったりする。つまり、今、私たちが見ている作品は、もとの画から松の構図を変えて仕立てられているというのである。それを等伯が意図的に配置換えしたのであれば「もぅ等伯さんってすごい!」と感服するし、もし別の人がしていたとしたら「あなた天才!?」と言いたくなる。

狩野永徳と長谷川等伯。「桃山展」の後期展示では、この2人の代表作(唐獅子と松林)が並んで展示されているし、洛中洛外図屏風も同じ空間に展示されている。上記にも書いたが、安土桃山時代のいずれの傑作画も、それぞれの前に立つと、まるで自分も同じ場所にいるかのように錯覚し、時空を超えるような楽しみ方ができる。絵の一点だけを観るような構図ではなく、とても広く空間をとり、自分が絵の中に入り、移動して観ていくというのが、古来から続く日本絵画の特徴だろう。そういった点は、観る人の視点で一つの情景をフレームのなかに納める西洋絵画との大きな違いだとも思うし、そこで思い出すのは、チームラボが活動初期の頃から手がける「超主観空間」の作品の数々だ。

障壁画だけの感想になってしまったが、茶道、南蛮、武具など、ほかにも見応えたっぷりの展覧会なのだ。室町・戦国・安土桃山・江戸初期までのおおよそ100年の間に、これほどまでの芸術文化が花開くとは…と驚くほど美しく、力強い作品の数々が展示されている。

特別展「桃山―天下人の100年」

2020年10月6日(火)~2020年11月29日(日)東京国立博物館 平成館


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