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小話④夕日を見る人たち

今日は天気が良かったため、海からすぐの駐車場に車を停めた。家はスマホや布団など誘惑のオンパレードなため、何かしたい時には外に出るようにしている。車の窓を少し開け、冷たい空気に季節の移ろいを感じつつ読みかけの小説を読み進めていた。目の前にはひっきりなしに車が往来し、エンジン音も常に耳に入ってきたが、それも今日ばかりは程よい雑音になり、時間は刻々と過ぎていった。その間にも家族連れやカップルが入れ代わり立ち代わり浜辺と駐車場を行き来していた。

気付けば夕日が落ちかけていた。読む手を止め、少し階段を上がった高台に移動した。そこはサイクリングのコースにもなっており、今日は天気も良いため散歩やランナーが多く見られた。歩いていると、見晴らしの良い階段があり、その奥に綺麗に夕日と海、そして遠くには佐渡島が見えた。その階段にはおじいさんが1人座っており、近くのベンチにはカップルがいた。私は早速、夕日をスマホで撮りながらベストポジションを探しつつ階段を上り下りウロウロしていた。不審に思われても仕方ないと思いつつ写真を撮っていると、黄色いおじさんも夕日を撮っていた。映らないようにそっと掃け、そこの人達と共に沈む夕日に目を向けた。知らない人同士ではあるが、同じ夕日を見ているというだけで同士であるように感じた。写真も一通り撮り終え、歩き出したがもう一度夕日の方に振り返った。するとついさっきまで見ていたものとは違い赤々としたものになっていた。もうすぐ沈む。そんな気配を感じているとずっと座っていたおじいさんが立ち上がった。その姿は遠くに住む息子や娘を遠くに想っているような、そんな優しくどっしりとした温かい背中だった。そしてベンチにいたカップルも階段の方まで出てきた。私の目の前には、絵のように夕日を様々な想いで見つめる人達と、それに見守られるように沈んでいく夕日があった。これが今日の中で一番いい写真になった。そんな事を思っていると夕日は沈み、ふと後ろを振り向いた。そこにはカメラを構えている黄色いおじさんがいた。私も絵の一部になっていたのだと気付き、少し恥ずかしくなっていたが、同じ気持ちであったことに少し嬉しくなった。

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夕日が沈んだ後の空はさっきよりも濃く、一帯を赤く呑み込んでいた。そんな空を背に満足げに私は車の方へ歩き出した。階段には赤く染まった空を見つめるおじいさんだけが残っていた。

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