ほんとう

 本当は女の子になりたかった。本当に女の子になりたかった。本当の女の子になりたかった。

 好きだとか付き合いたいとか思われるには都合がよすぎ、ひっきりなしに言い寄られたりするだけ見た目がいいわけでなく、期待をかけては裏切られたと思って泣くほど惨めでもない。そんなわきまえた卑屈さを利用してふしだらに生きているとすっかり女に作られてしまったものだとおもう。そうなるまではもっと妖怪じみていた。

 女の子であったことなんて一度もなかった。幻のいびつな子供。安っぽい装飾を性的に充溢した体にまとい、まなざしを躱しながら挑発し、誰もが信じる意味や価値が真っ赤な嘘だって教えてくれて、どんな暴力にも傷つくことのない。不味い毒みたいなものを毎日食べていればおっぱいも膨らまないし生理も来ない。全部私のせいにさせてあげるってその子は言葉にしないまま言う。

 大人になっちゃいけないと思っていたから、サンタクロースを信じていないことも体の形が変わっていく不安も口にすることができないまま制服を着る歳になっていた。

 子供をみる仕事を始めて、そこにかの女はいた。大人びて振る舞おうとするかの女。どこにいても視線を求めて、近くに居るとささやき声で「ねえ先生、先生ってかわいいね」と耳打ちするかの女が時おりあらわす暴力的な衝動に、うっかり躓いてそのまま、沈んでしまいそうになる。

 おんなのこは、それぞれにお、ん、な、の、こ、との距離を設定し、実行し、振り返り、振る舞っている、ようにみえる。かの女たちはいつ、こんな普通の大人達に囲まれて、なにをどんなふうに思うのだろう。

 優しくされるたびに少し怒ってしまう。きっと自慰しかほんとうではない、空間の手触りをたぐり寄せるような、かつていた場所の記憶に体を委ねるような。

 こんな風にならないでよ、と願う。でもかの女はもしかすると。じゃあそうなる前にわたし?なんてありえない。女の子、じゃないわたしにそんな大胆な悪事をはたらくことなんて。

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