見出し画像

もしかしたらサブスク疲れが始まっているのかもしれない

前回の記事はこちら

今回の「ワイングラスのむこう側」は、コストコからサブスクリプションビジネスを考えます。実はもう、サブスクは難しいんじゃないかと考えている林伸次さん。なぜそう思うのでしょうか?

コストコはなぜ成功したのか?

いらっしゃいませ。
bar bossaへようこそ。

コストコを利用したことありますか? 以前、同業者の人が、「コストコで結構美味しいブルゴーニュルージュが1600円で売ってて、それを仕入れている」って教えてくれたことがありまして。美味しいブルゴーニュルージュとなると、今は最低でも3000円以上はします。「コストコって手があったのかあ」とは思ったのですが、僕、未だに利用したことがありません。

コストコは説明不要かもしれませんが、会員制の倉庫型スーパーです。僕、コストコを利用し始めたら、コストコだらけになる自信がありまして。なぜかというと、コストコって年会費が必要なんですね。

検索すると「コストコ 元をとるには」っていうのがたくさん出てきます。「年会費は3850円だけど、この洗剤を年に7回買えば元はとれます」みたいな、「どうやったら年会費の元をとれるか」を考える人が多いんです。

要するに、商品が安いと思って年会費を払ってるのに、結局利用しなくなるのが、とにかく嫌なんです。やっぱり、損をするのは嫌なものですよね。コストコはその「人間心理」を利用しているようで、一度年会費を払ってしまうと、「とにかく損はしたくない。とにかく年会費の元はとりたい」って思うから、コストコばっかり利用してしまう人、たくさんいます。

これって、「囲い込みビジネス」ですねよね。僕らは、年会費の元をとるためにコストコで一生懸命買い物をするじゃないですか。近所のスーパーで買うよりもコストコが絶対に安いと思って、一生懸命ケースで買います。すると、コストコ以外で買い物ができなくなるんです。コストコは年会費で儲けながら、その年会費を出しているという人間心理も利用しているんです。

これの飲食店バージョンができないかなあって、よく考えるんですね。この連載ではしばしば触れていますが、日本の外食産業って「お酒で儲かるビジネスモデル」でして、とにかくお酒をたくさん飲んでもらおうとしますよね。グラスが空いたら、すぐに「何かお持ちしましょうか」って言われるじゃないですか。

でも今は、お酒を飲まない若者が多いし、文化的にお酒を飲めない外国人が来るのも増えているし、そもそも日本人はお酒に強くないから、「お酒の売り上げに頼らない外食」っていうのを考える時期だと思っているんです。

それで、思いついたのが、コストコと同じような年会費制です。例えば、飲食代がとにかく安い店を作ります。他の店だと1万円くらいお寿司が6000円くらいで、他のレストランだと1万円くらいのワインが6000円くらいで提供されるんです。ただし、別に年会費が1万円必要です。

それならコストコと同じように、年会費を払ってるし、すごく安くてお得だから、何度も何度も通うんじゃないでしょうか。さらに、これを発展させて、「入会するのに基準を設定する」ってことにするんですね。会員の3人以上の紹介がなきゃダメとか、入会の審査があるとかってすれば、誰でも入れるわけじゃないから優越感も持てるし、招待性だからその飲食店がいろんな人との出会いのきっかけにもなるかもしれません。

裏テーマが「そこで人と出会って恋愛とかビジネスとか友情とかが始まる」っていうものなんです。系列店も作って、有楽町に蕎麦屋があったり、下北沢にジャズバーがあったり、大阪店とか福岡店とかも出張の時に行けるんです。

これって「サブスク疲れ」では?

これ、「良いお客様だけを囲い込む」っていう、すごく良いビジネスな気がしているのですが、無理だろうなあという気もしています。理由は今もうみんな「サブスク疲れ」していると思うからなんですね。

先月、僕のnoteのメンバーシップを、初月無料にしたんですね。これは、note側のおすすめというのが大きいのですが、僕自身すごくケチだから、「とりあえず無料会員で入会してみる」っていうことがよくあるので、そういう人っていっぱいいるのかなって思ったんです。

それが初月無料、ほとんど影響なかったんです。ちゃんと計算してないけど、むしろ登録者数は下がっていると思います。

一方で、100円の有料記事をしょっちゅう買っていただけるんですね。初月無料なら、その記事だけ読んで、すぐに解約すればいいのにと思うんですが、それはしないようです。僕は僕自身がすごくケチなので、すごく不思議です。

やっぱり、どう考えても、「もう新しくサブスクに入るのはやめよう」ってみんな思っているんじゃないかと思うんです。

気づいたのですが、どっちが安いとか、こういう風に利用すれば結局は安くなるとか、そういうのを考えるのが面倒くさくなってきているような気がするんです。

僕自身、コストコは利用していないし、「10%還元」みたいなことも、考えるのが面倒くさくて避けてしまう傾向があります。

「今だけこんなに安くなります」とか、「入会してもらうとこんな特典が」とかって、みんな疑い始めているのではないのかなあって思うんです。「美味しそうな話には何か裏がある」って感じているのでは。それって、最近の「ネットの記事は信用しないっていう新しい習慣」と似ているのではって思うのですが、いかがでしょうか。

【この連載の関連記事】
・値段を聞くたび笑う外国人のお客様
・あなたは今、おいくつですか?
・人は何に幸せを感じるか?
・人の才能を引き出せる人
・子供にはわからないこと、大人だからわかること


この記事がおもしろいと思ったら、ぜひ紋白蝶に登録してください。40記事以上あるこの連載だけでなく、150以上の記事が読み放題です。


前回の記事はこちら。

この連載の記事一覧はこちら。

林さんの書籍はこちら。



林伸次(はやし しんじ) 1969年生まれ。徳島県出身。1997年創業の渋谷のワインバー「bar bossa(バールボッサ)」店主。本連載の書籍化『ワイングラスのむこう側』『大人の条件』はじめ書籍多数。また『恋はいつもなにげなく始まってなにげなく終わる。』など、小説も執筆。

ここから先は

0字

通常会員

¥980 / 月
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?