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肩甲骨の関節唇の解剖学的特徴とSLAP損傷について

関節唇とは??

読んで字のごとく、関節の唇(くちびる)です。
唇は飲食の際に口から食べ物がこぼれないようにする役割がありますよね?

肩甲骨の関節唇は、関節窩から上腕骨頭がこぼれないよう包み込むような役割を果たしています。

関節唇の機能

関節唇の主な機能は、上腕骨頭と肩甲骨関節窩の安定性を高めることです。

肩甲骨関節窩の凹面の深さが2.5mmであるのに対し、関節唇があることにより、約2倍の5mmに深さが増します。さらに上腕骨頭との接触面積が大きくなるため、より安定性が向上します。

また、上腕二頭筋長頭腱や関節上腕靭帯と連絡する線維性軟骨としての役割もはたしています。

関節唇の解剖学的特徴

関節唇を矢状面から見ると、上部の断面は半月状に隆起しているのに対し、下部は円形に隆起しています。

関節窩との結合も上部と下部で異なり、上部が弾性結合組織により疎に結合しているのに対し、下部は非弾性結合組織により密に結合しています。

これらのことより、関節唇の可動性は上部で高く、下部で低くなっていることがわかります。

関節唇上部には上腕二頭筋長頭腱が付着します。
上腕二頭筋が収縮することにより、長頭腱の付着部である関節唇上部は腱を介し筋の方向に伸張され、上腕骨頭をおおうように変形し骨頭の関節窩への圧迫力を高め、上腕骨頭の上方偏位を制動するといわれています。

この関節唇上部と上腕二頭筋長頭腱の付着部がのちに説明するSLAP損傷に大きくかかわってくるポイントです。

SLAP損傷とは??

Superior Labrum Anterior and Posteriorの頭文字を取ったものです。
関節唇上部が関節窩からはがれてしまうことをいいます。

発生メカニズム

発生要因は重いものを持ちあげた際に発生する下側牽引型の損傷や、外傷性上腕骨脱臼に付随するもの、肩への直接的な打撃や肘伸展位で手を床についた際に起こるもの、オーバーヘッドスポーツによる反復的な関節唇へのストレスによるものなど様々なメカニズムが考えられます。

ここではオーバーヘッドスポーツで生じるPeelback-mechanismについて、投球動作を例に挙げて説明していきます。

投球動作と発生機序について

投球動作のレイトコッキング期で肩関節は外転+最大外旋となり、上腕二頭筋長頭腱に捻転ストレスが加わります。

そのストレスが付着部に伝達されることをpeel back mechanismといい、結果的に上方関節唇付着部の剥離をもたらし、SLAP損傷が生じると考えられています。


症状とは?

安静時痛は少なく、オーバーヘッド動作や物をもち上げた際などに肩関節前面に疼痛を訴えます。
またクリック音やキャッチングといった症状も見られます。

分類

Snyderらによって、損傷の形態的特徴をもとに、Ⅰ~Ⅳ型に分類されています。
TypeⅠ:関節唇上方の辺縁の擦り切れた状態
TypeⅡ:関節唇上方と上腕二頭筋長頭腱が関節窩から剥離した状態
TypeⅢ:関節唇上部がバケツ柄状に損傷し、関節内に転位している状態
TypeⅣ:バケツ柄状の損傷が上腕二頭筋長頭腱にまで及んでいる状態

診断方法について

Oh JHらは、感度の高い3つのテスト(active compression test, apprehension test, compression-rotation test)のうち2つと、より特異的な3つの上腕二頭筋腱テスト(Speeds, Yergason's, Biceps load II)のうち1つを組み合わせると、感度70%、特異度95%になると報告しています。

例として以下の3つのテストを紹介します。

Active Compression Test


 SLAP損傷または肩鎖関節の問題が疑われる際に有効なテストです。
① 座位にて肩関節90°屈曲、10~15°水平伸展させる
② 自動運動で肩関節内旋、前腕回内させ、セラピストは下方に抵抗を加える
③ 自動運動で肩関節外旋、前腕回外させ、セラピストは下方に抵抗を加える
解釈:②で疼痛が出現し、③で疼痛が減少。消失すれば陽性とする
   肩鎖関節由来→表層部分での疼痛 関節唇→深層部分での疼痛


Compression Rotation Test

TypeⅡのSLAP損傷を鑑別するのに有効なストです。

  1. 背臥位にて肩関節90°外転、肘関節90°屈曲させる

  2. 肘関節を関節窩に向かって上腕骨軸上に圧迫を加える

解釈:疼痛の再現、クリック・キャッチングがある場合を陽性とする


Biceps Load Ⅱ Test

上腕二頭筋腱にストレスをかけるテストです。

  1. 背臥位にて肩関節120°外転・最大外旋させる

  2. 肘関節90°屈曲・前腕回外させる

  3. 肘関節を屈曲させるように指示し、セラピストは徒手抵抗を加える

解釈:上腕二頭筋腱停止付近に疼痛が生じる・増悪する場合は陽性とする。


これらの整形外科的テストに加えて、臨床所見、単純X線撮影やMRI、エコーといった検査を組み合わせて診断していきます。

治療

基本的には保存治療で、リハビリテーションを行い、改善を試みますが、損傷の程度により手術が必要な場合もあります。

初期治療として、投球や肩の外転・外旋を繰り返す作業など、悪化させる動作を避け、疼痛を軽減させることが重要です。急性期には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やアセトアミノフェンを服用することで痛みを軽減させることができます。

痛みが軽減してきたら、上腕骨と肩甲胸郭部の動きを改善し、腱板と肩甲胸郭部の筋力および筋持久力の向上を目的にリハビリテーションプログラムを開始します。

手術

関節鏡視下デブリードマン

 微細な損傷の場合は鏡視下にて損傷部位の除去をしていきます。

鏡視下関節唇修復術

TypeⅡの場合、剥離した関節唇上方を関節窩に縫合する手術が主流となっています。

リハビリテーション

投球動作などのオーバーヘッド動作時、肩甲骨や胸郭の可動性低下に伴い、肩甲上腕関節に過度なストレスが加わることでSLAP損傷やインピンジメント症候群などの障害のリスクが増大するといわれています。

また、肩関節後方の軟部組織の柔軟性低下に伴う内旋可動域の低下は、結果として投球動作のレイトコッキング時に過度な外旋ストレスや後方インピンジメントを生じ、障害につながるともいわれています。

Fedoriwらは

肩甲骨の運動障害と肩関節内旋制限に伴う後方の軟部組織に焦点を当てたリハビリテーションプログラムにより、プロ野球選手の約40%が手術をせずにプレーを再開している

Superior labrum anterior posteriorより

と報告しています。

PTが勧めるリハビリエクササイズ 3選

スリーパーストレッチ

肩関節後方の軟部組織の柔軟性向上を目的に行うストレッチです。
側臥位で肩関節90°屈曲位とし、他動的に内旋させ、伸張感を感じるところで30秒キープします。

体幹、胸郭回旋ストレッチ

側臥位で上側の足を股関節・膝関節90°屈曲位とし、体幹の回旋、肩関節を水平伸展方向に開いていきます。胸筋部分に伸張感を感じるところで30秒キープします。

チューブトレーニング

棘下筋・小円筋の筋力強化を目的に行います。
肩関節を2ndポジションで外旋していきます。
肩甲骨の内転方向の動きも加えることで、
肩甲胸郭関節の安定性向上を狙います。

参考文献
・肩のリハビリテーションの科学的基礎
・Superior labrum anterior posterior


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