殺生

 ある日、息子がこんな質問をしてきた。

「何故、人を殺してはいけないのか?」

 私は息子をジッと見つめると、読んでいた新聞を畳んで、息子に向き直った。

「そうか、じゃあ今この瞬間から人を殺しても良い事にしよう」

 そう言うと、私は息子の首に手を掛け、ありったけの力を込めた。
 声も出せず、見る見るうちに顔が鬱血し、もがき苦しむ息子をしばし見つめると、腕の力を緩めた。
 解放され、咳き込む息子に向かって私は言った。

「もしも人殺しが自由になれば、お前はひとたまりもない。嫌だろう? 分かるな?」
「うん、分かったよ父さん」

 涙目で納得する息子に私は満足そうに頷いた。
 あれから二年。
 息子は元気に成長しているだろうか。
 今はただ、家族が一目でも面会に来てくれる事を、祈るばかりである。

#小説 #掌編


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?