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ホドロフスキー監督94歳の誕生日記念に

映画『エンドレス・ポエトリー』制作のクラウドファンディング参加者への返礼としての公開タロット・リーディングの様子を日本語にしてみました。
(訳出にあたって、指差し箇所には語を補足し、言い淀み部分は省略するなどしています。元動画は、ホドロフスキー監督のFacebookページの "LECTURA DE TAROT - L" でどうぞご覧ください)

LECTURA DE TAROT (L)

Posted by Alejandro Jodorowsky on Wednesday, March 23, 2022

はじめに

親愛なるシリアク・ベッロさん
映画『エンドレス・ポエトリー』制作資金援助へのご協力のお礼として、今からあなたにタロットのリーディングをします。プロのアーティストのあなたからの、とても興味深い質問に、ぜひ何かお答えできればと思います。

あなたは、これまで25年間サーカスや演劇の世界で働き、いま達成感を得ている。今後の活動について、いろいろ考えているが、どこから手をつけようかと迷っている。このリーディング結果から、まず何に着手するか決断し、その後順々にすべきことをしていきたい、ということですね。
サーカスと演劇に25年! どちらも私の敬愛する世界です。これは大変なことを任されたものです。

依頼されたカードはもう準備してありますが、まずお伝えしておきたいことがあります。私は、未来予知としてタロットを読むのではありません。アドバイスを与えて相談者を従わせることもしません。リーディングは無償で行います。金銭だけでなく、相談者の未来に関しても、一切搾取は望んでいないのです。

私にとって、タロットは利益追求とは無縁の神聖なる書物であり、タロット自体の語るものを読み解いているのです。そこにはもちろん私の解釈も入ります。しかし、主観の混在はあっても、この摩訶不思議なるモノのもたらす絶対的な客観性が常にあるのです。

読み解き方(例)

タロットの読み解き方の説明として、例をお見せしましょう。

ここに、ランダムに選んだ2枚のカード、【教皇】と【隠者】があります。
まず、何が共通しているか見てみます。

共通点

あまり共通点はないようです。
【教皇】は、聖堂の門扉を背に、聖職者として定められた装いで、弟子または信者とともにいる。【隠者】は、みすぼらしいとは言わないが、簡素な装い、彼自身の服をまとっている。ほかの人物は描かれていない。

では、共通しているのは何でしょうか。
まず手袋。【教皇】の左手には、小さな十字のついた水色の手袋。右手は肌色で素肌、やはり小さな十字がついている。【隠者】の左手は【教皇】と同じ水色、右手も【教皇】と同じ肌色。

そこにどんな意味があるか、考えてみます。
ほかのタロットではこうはいきません。これは、象徴群に精通した古いタロットだからこそ、どんな細部にも語りがあるのです。

【教皇】は、カードを見ている人と弟子2人のほうを見ている。【隠者】は、手にしたランタンを見つめ、こちらには横顔を見せている。
観客のほうを向き発信する社会的存在の【教皇】と、ランタンを掲げ、自分の内面に向き合う【隠者】だ。

【教皇】

【教皇】は、水色(聖性と霊性)の手袋をした手で、理念や教義を信者の頭に植えつける。十字のついた杖は、まずその軸部分が精神(spiritual)および神性(divine)の軸をあらわし、十字架の3本の腕は「頭」と「心」と「性」を支配することをあらわす。(杖の軸がまっすぐ前景人物の頭部につながっているように)信者の頭部に理論として伝えられ、完全な支配権力になる。

宗教の伝道でもあり、信念をもたせたり、信じ込ませたりすることでもある。【教皇】が身に着けているのはユニフォームで、最高権威をあらわすものだが、それは「仮装」ともいえる。冠の装飾が三段になっているのは、「頭」と「心」と「性」が制御されていることのあらわれ、素手の右手に十字がついているのは、彼自身その考えを信じているということだ。教皇はその手で祝福を与えている。しかし、自分自身を差し出しているのではなく、社会のための教義を聴衆に伝えている。

【隠者】

【隠者】は、すべてを手放した人物、過去には【教皇】だったともいえる。
VIIIIというのは、奇数だが3で割り切ることのできる奇妙な数だ。

聖性をあらわす水色の左手に持った杖を見てみよう。【教皇】の杖は、知能や観念をあらわす黄色で、「理念の杖」だ。さらに深い側面から「霊性の杖」といってもいい。だが【隠者】の杖は、真っ赤で、ヘビのように見える。【教皇】が教義を扱っていたのに対し、【隠者】は自身の生命、クンダリーニを手にしている。【隠者】がしているのは内的な作業だ。人々の役に立つというなら、教理などの教えによるのではなく、自分自身が手本となることで役に立つ。

【隠者】は、霊性の外套マントで、偏見や私心といった影響から、手に持った灯火ランプを保護している。これは霊性の光だ。いま、この光は(灯火の赤い面を指しながら)彼の生命と混ざり合っている。【隠者】は光を、自身の人間としての自己実現(肌色の右手を指示)を見つめている。
【教皇】の自己実現(肌色の右手)は、人々への祝福、権力の顕示だ。
【隠者】は、「私は光と同体、私の作業と同体だ。その光は世界に広がっていく。私は光の代理者ではない、光を見せているのだ」と言う。【教皇】が「私は神の代理人である。私が弟子に神のことを伝える、架け橋になる」と言うのに対して、【隠者】は「私はあるがまま。私は私だ。まったく偉ぶらない」のだ。

このように、手袋ひとつにもメッセージがあります。タロットというのは、それ自体が〈読み解き〉を持ちかけてくるので、読み手はそれを語っていくものなのです。

依頼のリーディング

XVII 【星】

あなたには「いろいろ計画プロジェクトがある」ということでした。
【星】のカードにも、ひとつ、ふたつ、と計画がある。黄色の計画(向かって左の水差し)、これは精神に由来するもので、さっきの【教皇】にあたるでしょう(笑)。もうひとつの青色の計画は、性器あたりから出ている。これは【隠者】にあたる。ここには、思考を度外視した、聖なる獣性がある。もちろん(左の水差しを指示して)思考もそれに従う。精神性の貢献もある。どちらか1つではなく、そこにはどちらもかかわっているのです。

天に描かれた星々を見ると、宇宙も同じだとわかります。(黄色の星を指して)中央の人物の髪と同じ色の、黄色の活動がある。(青色の星を指して)獣性の活動もある。深く、暗色の、創造的、性的な活動だ。宇宙は繁殖リプロダクションしている。

ここには、生命の樹の上に黒い鳥がいる。まだ飛び立っていない。
というのも、あなたは自分の大切な部分をサーカスと演劇、つまり観客のために使っている。いまのあなたは【教皇】の状態にある。あなたは完全に観客のほうを向き、あなたの芸術は観客に向けたものになっている。

III 【女帝】

しかし【女帝】では、あなたは創造すると同時に、(楯の鷲を指して)精神性の創造にも立脚している。つまり、あなたが発するメッセージは、観客のためだけでなく、自分自身の探求でもある。あなたは25年間ずっと自分を探し続けている。「本当の自分とは何者か」「表向きの自分はどこにいるのか」「俳優としての自分は、軽業師としての自分はどうか」「深層において、私は何者なのか」
その深層の自分には定義などない。

番号なし 【愚者】

深層の自分、【愚者】は番号をもたない。

【愚者】は【隠者】とよく似ている。2人は見つめ合っているようにも見える。どちらも赤い杖を持っている。
ただし【愚者】の杖は、まっすぐの、道具としての杖だ。水色の、スピリチュアルな場に立つために使っている。今、あなたがどの活動をするか選択するのも同じだ。何でもデタラメにしていいわけではない。そこには意志に基づく選択がある。
【隠者】の杖には、もう意志はない。すでに自分自身になった状態にあり、自分自身として生きている。
真我セルフには意志、思惑はない。
真我セルフには定義がない。
真我セルフは発信すべきメッセージをもたない。
存在そのものがメッセージなのだ。

対になるカード

すでにご存じの人も多いでしょう。タロットには1から10、11から20、の2つのまとまりがあります。
依頼されたカードの17番は7とペアになる。3は13、番号なしの【愚者】は21番【世界】とペアだ。

● XVII -----> VII

XVII【星】のカードで実現していること、何をすべきか迷っているあなたは、VII【戦車】を見ると、その2つの〈ギフト〉、水を放出していた2つの容器は2頭の馬になっている。外界に見せるため、世界征服へ出かけるの馬、つまり推進力になっている。あなたはこれまで25年間、拍手喝采をくれる世界、自分を認め、称賛してくれる世界を制覇しようと全力を注いできた。

● III -----> XIII

そして、現在の状況だ。
(XIIIを指しながら)破壊のまっただなかだ。偏見や欲望など、自我がもちかけてくるすべてを断ち切り、「わたしの中に何があるのか」「無意識の暗がりの中には何があるのか」「私の真の望みは何か」と自問している。
背中には植物がある。背骨を上った先のうなじに花びらがある。頭部には誰にも気付かれないように、ヘブライ語で神の名「YHVH(ヨッド・ヘー・ヴァヴ・ヘー)」の4文字が刻まれている。「死」は「神」を内包している。
私個人は、トランスパーソナルな状態に至るためには、死なねばならない。トランスパーソナルとは、自分だけではない状態、見せびらかすのでなく、真の自分であるということだ。

では、自分とは何者なのか?
アーティストだ。
では、アーティストであるとは?
人類とは何かを知っている者だ。世界ユニバースとは何か、地球とは何かを知っている者だ。すべては一体だと知っている。私は全体の一部だ。この地球に生まれ、この仕事をしているのは、自分のためではない。あらゆる生き物の真我セルフを目覚めさせるために、私がアーティストになるようにと世界ユニバースの計らいがあったからだ。
あなたの仕事は、何千年も何万年も残り、生きとし生けるすべてのものの魂を目覚めさせ続ける。それが、アーティストの仕事だ。世界ユニバース中の生物が完全な良識に至るまで、魂が完全に再統合を果たすまで、あなたの仕事は何百万年も続いていく。

●【愚者】 -----> XXI【世界】

そして【愚者】が【世界】の状態になると、それは世界を手に入れた状態だ。しかし、その征服は彼自身がするのではない。彼の魂そのものとして世界を手に入れるのだ。魂は(水色の輪を指しながら)完全なる女性的な受容性の楕円だ。そこには男性性と女性性(人物が手に持つ棒と瓶)が統合されている。性と心と思考が統合されている。高く飛翔し、知性をあらわす鷲がいる。情緒および愛をあらわす天使は、すべてと一体になり、すべてを与える。そして、すべてを従え、性の象徴である獅子がいる。

依頼者へのメッセージ

親愛なるベッロさん。素晴らしいではありませんか。スペイン語でBelloは「美しい、素晴らしい」という意味です。あなたは名前に芸術アートのすばらしさをもっているではありませんか。シリアックには、サーカス(circo)の〈cir〉が含まれているではありませんか。

あなたは模索中だと言いますが、現状で【世界】だと言えるでしょう。【世界】の左下に描かれた動物は、つつましい肉体です。それは、行いのため奉仕するもので、自分自身のために使うものではないのです。あなたの創造性クリエイティビティ(右下の獅子)は、あなた自身の名声のために用いるものではありません。人々の模範となって創造性の種をまくために使うのです。あなたには愛(左上の天使)があります。生きとし生けるすべてのものと完全に一体化した愛があります。宇宙のすべては、岩石さえ生きています。そして知性(右上の鷲)、そこに「美」があります。それは、あらゆる概念、言葉の土台となる沈黙です。

いいですか、シリアク・ベッロさん。
私のあなたへの助言は、具体的にどちらを選べばよいかという点では沈黙に次ぐ沈黙です。
私は、どうぞあなた自身を選んでください、と伝えたい。そうですね、ささやかな公演をしましょう。大々的なものはすべて……。
そう、ひとつサイコマジックのアクトをしましょう。これくらいの大きさのテーブルに、いま私がするように、ひとつの世界を構築します。

テーブルの上に自分の知るすべてを出してみる。ここに世界を構築します。
すべて出し切ったその状態は、観客も誰もいない、あなた自身のための舞台スペクタクルです。
あなたはその場で、わかるはずです。いかなる舞台スペクタクルを選択すべきか、プロとしてきっと自然にわかるでしょう。
あなたが選び取るのではない。それは、向こうからあなたの元にやってきます。

ここまで聞いてくれてありがとう。あなたの支援に感謝します。


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