見出し画像

152「詩」地下通路の猫たち

昼間は
地下道の猫の壁画です
じっと動きを止めて
ここを通る人々を
観察しています

写真: Y.Tatsuo

ここを通る人々は
いつも前を向いて忙しそうに
足速に駅に向かいます
わたしたちが
まばたきをしても
人々が気づくことは
ありません

わたしたちの前を通り過ぎる人々を
注意深く
監察しているのです

わたしたちは
前を通り過ぎる人々の
どんな小さな悲しみにも
気づきます

どんなに笑っていても
どんなに嬉しそうにしていても
心の奥に隠している
どんな小さな悲しみにも
気づきます

わたしたちは
ひとつとして同じではない
悲しみの色をそのまま
心に写します

終電が通り過ぎて
だいぶ時間が経った頃
わたしたちの前を
通り過ぎる人が
いなくなります

フクロウの声を合図に
わたしたちは壁画から出て
動きだし
ただの猫に戻ります

近くの草むらに行って
絵筆になりそうな
雑草を引き抜いてきます

引き抜いた雑草に
溜めておいた悲しみの絵の具を
落とさないようにそっと乗せ
地下道の壁に塗っていきます

悲しい心を溶かしてくれそうな
閉じ込められているものに
隙間を開けてくれそうな
背負っている荷物を
ほんのわずか
軽くする
柔らかな絵に
変えていくのです

わたしたちの周りを
取り囲むバックの絵は
そんなふうに増えていきます

どこにどんな絵が増えたか
気づく人はいません
気付けなくても
ここをまた通る人々は
明日
きっと笑顔になっていると思います


※写真:Y.Tatsuo
立川駅近くにある地下通路の壁画だそうです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?