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184「詩」秋の清らかに

背負ってるものが重すぎて
何もかも捨ててしまおうと思った
秋の清らかに澄んだ空気の中で

疲れた身体を横たえる
すぐに深い眠りについたらしい
ラジオから流れてくるフルートの音が
聞こえてくる

バッハだ

暗闇が見える
その中に一筋の光が射している
眩しくはない
ぼんやりした柔らかな明るさが
重荷の紐を解き
すっと中に入っていくのが
分かった

生まれ落ちたその瞬間から
人は平等ではない
生まれる前から背負った重荷もある
けれど
質の違った重荷を誰もが背負っていることは
みんな同じなのだ

ぼんやりした光は
重荷の中を照らし始める
照らされた場所は
溶けて
柔らかな祈りに変わっていく

生まれ育った国を離れて
生きている時代を離れて
何百年も前に書かれた曲が
背負ったものを軽くしていく

もう少し
生きてみようかと思った
秋の清らかに澄んだ空気の中で

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