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【じゆうけんきゅう】なぜ通信制の小中学校がないのか 2/3

以下の記事の続きです。前回は「1.実はあった中学校の通信制」、「2.通信制中学に関する制度」について書きました。

3.おじいちゃん・おばあちゃんに限定した通信制中学校の趣旨

この条文の趣旨につき、学校教育法の逐条解説があれば一番良いのですが、残念ながら手元にない状態です。ネット上でこの条文について調べていたところ、Googleブックスで公開されている「社会教育法解説 公民館の建設―社会教育の自由の獲得のために戦後民主主義への叫び」という解説書の中に関連する箇所を見つけました。

〇社会教育法解説 公民館の建設―社会教育の自由の獲得のために戦後民主主義への叫び (p.155,156抜粋)
 なお、現在実施中の学校教育のカリキュラムに基づく通信教育としては中学校の通信教育もあるが、中学校教育は新制度によって義務教育による中学校教育は当分の経過措置として、旧制の尋常小学校卒業者及び国民学校初等科修了者に対して行われているのであって、その意味において新制度を規定した学校教育法の本文には中学校が通信教育を行う旨の規定がなく、附則においてこれを規定しているのである。よって本法には学校教育のカリキュラムに基づかないいわば社会教育の面における通信教育について規定するものであって、その内容としては一般的教養を高める為の教育、職業教育、技術教育等の広い部面の教育を内容とする社会教育について規定せんとするものである。
https://books.google.fr/books?id=NCvIhm2DHPIC&pg=PA156&lpg=PA156&dq=%E5%B0%8B%E5%B8%B8%E5%B0%8F%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%8D%92%E6%A5%AD%E8%80%85%E5%8F%8A%E3%81%B3%E5%9B%BD%E6%B0%91%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%88%9D%E7%AD%89%E7%A7%91%E4%BF%AE%E4%BA%86%E8%80%85%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%97%E3%81%A6%E3%80%81%E9%80%9A%E4%BF%A1%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E6%95%99%E8%82%B2%E3%82%92%E8%A1%8C%E3%81%86%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B&source=bl&ots=RBqDSeMb10&sig=lDOvWTFD4weQTBFFDhw3eAtKY8A&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwjLwP3NhPPeAhWLyIUKHQq3C7MQ6AEwAnoECAgQAQ#v=onepage&q=%E5%B0%8B%E5%B8%B8%E5%B0%8F%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%8D%92%E6%A5%AD%E8%80%85%E5%8F%8A%E3%81%B3%E5%9B%BD%E6%B0%91%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E5%88%9D%E7%AD%89%E7%A7%91%E4%BF%AE%E4%BA%86%E8%80%85%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%97%E3%81%A6%E3%80%81%E9%80%9A%E4%BF%A1%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E6%95%99%E8%82%B2%E3%82%92%E8%A1%8C%E3%81%86%E3%81%93%E3%81%A8%E3%81%8C%E3%81%A7%E3%81%8D%E3%82%8B&f=false

ちょっとわかりづらいのですが、要は中学校の通信制は「当分の経過措置」である、ということのようです。戦前6年だった義務教育が戦後の学制改革で9年に延長されたものの、その狭間で中学校の教育を受けることができなかった、かつての尋常小学校卒業者及び国民学校初等科修了者を対象としている、ということでしょうね。

国会でもこの通信制中学校に関するやり取りがありました。「保坂委員」というのは現在の世田谷区長の保坂展人氏、「辻村政府委員」というのは当時の文部省初等中等教育局長です。

〇平成9年2月19日 第140回国会 衆・文教委員会 
○保坂委員 (略)この教育改革というのは多様な教育機会を子供たちに与えようということだと思うのですが、例えば中験以外に通信制中学というのがございまして、東京では一橋中学がございます例えばそこに中学生を紹介しようとすると、学齢期の子供はちょっと難しいのですね。受け入れてもらえないのです。つまり、十六歳以上ですと、働いていたり、そういう方が通信制中学に入れない。ところが、大阪に行くと天王寺中学が受け付けてくれるようなんです、個別のケースによると
 東京がだめなら大阪があるさという話もありますけれども、これはどうなっているのでしょうか。東京でも受け付けてもらえないでしょうか
○辻村政府委員 中学校の通信教育の関係でございますけれども、これは戦後の学制改革の移行措置として講ぜられているものでございまして、その対象者は法令で明定されておりますけれども、「尋常小学校卒業者及び国民学校初等科修了者」という形で限定されてあります
 ただ、別科という制度がございまして、それは正規の中学校じゃございませんけれども、そこで教育を受けるという人たちのための授業というものは行われております
 したがって、私ども、東京それから大阪、それぞれの中学校に聞きましたところ、大阪におきましても、学齢相当の子供はこの中学校には入っていないという報告を受けております。東京につきましても同じように、学齢期の子供は就学をしていないということでございます。
○保坂委員 続いてお願いしたいのですが、やはり学齢期の子供も、例えば訪問教育で非常に弾力化していただいて高校も範囲に加えていただいた、親たちも子供たちも喜んでいると思うのですね、何らかの選択で、この通信制中学もぜひ学齢期の子供もアクセスできる、入学できるというふうに改善の意図はございませんか
○辻村政府委員 私ども、中学校の子供たちの心身の発達状況等を考えますと、やはり通信ということではなくて、先生と直接接する形での学習というものが大変大事だと思います。したがって、戦後の切りかえ時におきましては暫定的にそういう制度があったわけでございますけれども、やはり本来の中学校教育のあり方というものを考えますと、正規の、今行われている中学校に通ってもらいたい、こういうふうに考えております。
○保坂委員 戦後の混乱期に加えて、今、戦後第二の混乱期だと私は認識しています。本当に大勢の若者が、十五歳から二十歳まで、高校中退を加えますと登校拒否体験は大体百万人いるのですね。これらの人たちが、高校においては、大検があり、私塾のバイパススクールもたくさんできてかなり弾力化されてきた。ただ、中学あるいは小学校において、実際上の教育難民が発生しているという事実を踏まえて、今後ぜひ検討をお願いしたいと思います。
 (略)

約2か月後に同じく保坂議員から文部省(当時)に対しての質疑があります。「こんな長ぇ会議録は読めるかよ!」という方は、この後にかつてTweetした抜粋版を掲載していますので、そちらをどうぞ。

〇平成9年4月25日 第140回国会 衆・文教委員会 
○保坂委員 (略)さきに二月十九日の当委員会で伺ったことなんですが、通信制中学というのが、東西、大阪と東京にあるわけです。そのときに、大阪では学齢期の子供は入れるというふうに聞いているがということで御質問させていただいたのですが、これは事実と違ったようでございます。
 実は、いろいろ調べましたところ、二、三年前までは学齢期の子供あるいは十代の若い人たちが入っていたということのようです。そして、そのときの委員会でのお答えで、通信制中学というのは、尋常小学校卒業者及び国民学校初等科修了者を当分の間入学の対象とするというお答えだったのですけれども、現状はどのようになっているでしょうか。その人たちの年齢というと六十代以上になっているかと思うのですが、その方たちだけが学んでいるというスタイルなのでしょうか、その辺を具体的に伺いたいと思います。
○辻村政府委員 通信制の中学校は、全国で二校ございます。そして、一校は東京、一校が大阪でございます。
 東京都の場合について申し上げますと、平成八年度の数字でございますが、在籍者数四十人でございます。年齢別には、二十代が五名、三十代が三名、四十代が五名、五十代が六名、六十代が十八名、七十代が三名、こうなっております。
 それから、大阪の場合でございますと三十二名でございまして、年齢別では、四十代が三名、五十代が二名、六十代が四名、七十代が三名、このほかに刑務所に服役中の方が二十名、これらの方々につきましては年齢は承知いたしておりません
 二十代、三十代の方が入っているわけでございますけれども、これは別科生という、本科ではなく別科という制度がございまして、その課程に受講をされている例ではないかというふうに私どもは承知いたしております
○保坂委員 前に中学検定の問題について文部省は改革の中で、十六歳から十五歳へというふうに規制を緩和された。この趣旨は、不登校ということの中で学びの意欲を持っている子供たちがチャレンジするそのチャンスを与える、広げるという趣旨だったろうと思うのですね。この趣旨にかんがみれば、例えば病気で外に出られないとか、あるいはいろいろな事情でいじめを理由にして学校に行けないとか、そういう子供たちが通信制中学につまり学齢期から学ぶことができるという方向で考えてもよいのではないかと思うのですが、この点についていかがでしょうか、お考えをいただきたいと思います。
○辻村政府委員 通信制中学校は、学校教育法の附則で明確にされておるわけでございますが、これは、戦前義務教育が六年でございました。その切りかえによって新制中学校に進んだわけでございますけれども、義務教育が六年でございましたので、六年で終える方もいらっしゃったわけでございます。そういう方々を主として意識いたしまして、当分の間、尋常小学校卒業者、国民学校初等科修了者には通信による中学校教育の機会を与えるという形で、附則で特例として、経過措置として設けられたわけでございます。したがいまして、新しい制度のもとでの中学校相当者は、やはり昼間のと申しましょうか、通常の中学校において学習をしていただく、これが原則であろうというふうに思っております
○保坂委員 もう時間がないので終わりますけれども、映画で「学校」という夜間中学を描いた映画がございました。ここには、働く人やさまざまな経歴を持った人、そして不登校やいじめに遭った子供も、夜間中学で出会って人間的に再生していくというプロセスが感動的に描かれていましたけれども、ぜひそういう改革の方向を子供たち本位に柔軟に開いていただいて、もう一度再検討をしていただきたい。夜間中学についても、学齢期の子供は以前は入れていたのですが、今はなかなか難しいようでございます。その点を申し上げて、私の質問を終わりたいと思います。
 ありがとうございました。






辻村文部省初等中等教育局長が答弁しているとおり、

・ 通信制中学は、義務教育を6年で終えた尋常小学校卒業者、国民学校初等科修了者に通信による中学校教育の機会を与えることを目的とした特例として定めている経過措置である
・ 現在ある通信制中学ではこれに該当しない層も学んでいるが、これは本来のかたちではなく、別科として授業を受けているものと承知。
・ 現制度における中学生については、通常の中学校において学習することが原則である。

ということのようです。制度を所管する役人としては、このような答弁になるでしょうね。安易に国会の場で「不登校の子供たちも行けるようにしましょう!」とは言えないですし。

答弁の中で「中学校の子供たちの心身の発達状況等を考えますと、やはり通信ということではなくて、先生と直接接する形での学習というものが大変大事」という発言がありますが、中学校は通信制はダメで、高校はOKというのはどういうことなのでしょうか。そもそも「通信制」はどういった趣旨で作られたものなのでしょうか。


4.そもそも通信制の趣旨って?

通信制の趣旨についても学校教育法の逐条解説があれば一番良いのですが、残念ながら手元にないので、オープンになっている国会会議録から拾ってみたいと思います。昭和63年10月27日の参議院文教委員会で粕谷議員に定時制・通信制の教育の理念について問われた中島文部大臣の答弁です。

〇昭和63年10月27日 第113回 参・文教委員会
○粕谷照美君 (略)定時制の教育、通信制の教育というものが戦後始まったわけでございますが、その理念というものは一体どういうところにあったのだろうか、大臣の御認識をお伺いいたしたいと思います。
○国務大臣(中島源太郎君) 粕谷委員から定時制、通信制についての理念を御質問でございました。
 高等学校教育そのもののあり方というものにつきましては、学教法の四十一条にも、四十二条にもございますように、まず中学校教育を基礎といたしまして社会において果たさなければならない使命の自覚に基づいて、またそれぞれの個性に応じて将来の進路を決定させ、そして一般的な教養、専門的技能を習熟せしめるということがございますが、その一般論の中で特に定時制、通信制となりますと、一つには働きながら学ぶ方々、勤労青少年の方々に魅力ある学びの場をお与えするということが中心になってきたと思っております。同時にまた、現在の状況からいたしますと、この定時制、通信制、後期中等教育に対します理念のあり方として、勤労青少年以外にもその履修の多様な後期中等教育であるし、また一方では生涯学習の一環としての後期中等教育の場でもある、そのような要素を心に置きながら定時制、通信制教育の充実に今後も努めてまいりたい、このように考えておるところでございます。



後段に「勤労青少年以外にもその履修の多様な後期中等教育であるし、また一方では生涯学習の一環としての後期中等教育の場でもある」(「後期中等教育」というのは「高等学校」という意味ですね。ややこしいですが、「高等学校」は中学校とともに「中等教育」であり、「高等教育」には含まれません。)とはありますが、やはり「働きながら学ぶ方々、勤労青少年の方々に魅力ある学びの場をお与えする」というところが主な目的のようですね。「勤労青少年」ではなく、当然に学習することとされている義務教育段階の小学生・中学生はそもそも通信制の対象とは想定されてないわけです。


一方で、現行制度の通信制中学校の対象となっている「尋常小学校卒業者及び国民学校初等科修了者」については、制度改正の狭間で改正前に義務教育となっていなかった中学校の課程を受けることができず、既に社会に出て働いていたり、ご家庭を持っていらっしゃったり、または既にご隠居されていたりという状況にあり、そういった点では「働きながら学ぶ方々に魅力ある学びの場をお与えする」と似た状況にあると言えるということでしょうね。

働いている人は学校に来られないから通信制を用意するけど、働いていることが想定されない小学生・中学生は学校でみんなでお勉強しようね!」ということでしょう(子役等、働く小中学生との整理はどうなんでしょう?)。

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今回はここまで。次回は実際に通信制に通っている高校生はどうして通信制を選んだのか、それは当初制度が想定していたように働いているからなのかというようなことを文科省の調査から見ていきます。