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いきものがかりを聴かなくなった日。

いきものがかりというミュージシャンを知らない人がいたら、おったまげる。

シングルCDのほぼ全てがドラマや映画とタイアップ。吉岡聖恵、水野良樹、山下穂尊のスリーピースバンド。

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水野さんが書く太陽みたいな明るい歌詞、山下さんの鋭くかつあたたかな歌詞、そして、天まで届く吉岡さんの伸びやかな声。「歌が大好き」な気持ちがぐんぐん伝わってくる。

私は、いきものがかりのファン”だった”。
その明るさに心奪われ、コンサートにも握手会にも10回以上足を運んだし、コア中のコアな聖地に無理やり親に連れて行ってもらった。(相模大橋や、サンダースネイク厚木、ビナウォークなど。)インディーズのCDもそろえた。登下校中の寄り道は禁止だったけど、制服でHMVへ走りフラゲは当たり前だったし、真夜中のベランダで、夜風を浴びながらウォークマンから流れるいきものがかりに心酔した。今でも何も見ずに、ほぼ全ての歌を歌える。イントロドンがあれば優勝すらできると思う。

学生の頃の音楽吸収力は最高だ。きっと、どんな人にも、自分のある時代を支えた歌やアーティストがいると思う。わたしにとっては、それがいきものがかりだった。


いきものがかりは、私と父を繋ぐひとつの架け橋でもあった。普段めったに話さなかったが、コンサートには二人で行ったし、新譜を買っては、ギターを弾いてもらった。2010年の「こんにツアー!in武道館」で「帰りたくなったよ」のイントロを聴いた途端、泣き出した父を見て、すごく透明な気持ちで、彼の思いの丈に深く思いを馳せることもできた。そんな、副産物的な思い出もある。

しかし、大学に入った頃から、彼らの音楽をほとんど聴かなくなってしまった。

理由は明らかだった。「今の自分には、いきものがかりの明るさが眩しすぎる」と思い、自然と距離ができたのだ。新しい環境の中で、新しい苦しみを乗り越えるためには、他の音楽が必要になった。それは、暗くてハッピーエンドではないもの。前向きではないもの。いきものがかりとは、正直、真反対の音楽を好むようになっていった。

その時、ちょうど父とも別々に暮らすようになり、いきものがかりが生活に存在するきっかけすら、無くなってしまった。

たまにCMから聴こえる、彼らの歌に懐かしさを感じて、もうあの明るかったあの日々に戻れないんだなぁと、ぼんやり寂しくも思ったりした。きっと、いきものがかりは、幸せの象徴でもあったのだ。


それから8年。2016年の暮れ。年末年始の支度をしていたら、胸を締め付けられるような歌詞をのせた懐かしい声が、テレビから聞こえた。いきものがかりの「ラストシーン」という曲だった。

涙がこぼれないように 君を思い出すけど
いつも笑ってるんだ 少しずるくないかなぁ
ねぇ 僕はあの日から強くなった
そうでもないかな 風が笑った さよなら

なんか、いきものがかりらしくない。
彼らが「さよなら」と言うことは、ほとんど無いのだ。こんなにも「不在」の誰かを歌うなんて、珍しい。すごく勝手だけど、いきものがかりそのものや、彼らを好きだったあの頃に「さよなら」と言われてる気がして、少し嫌な予感がした。

ほどなくして、彼らは活動を休止した。

身勝手に、深く後悔をした。
私は、いきものがかりをたくさん聴いたあの時代のように、過去のアルバムを掘り起こし、何度も聴いた。今はもうウォークマンではなく、スマホで聴けることにも、時の流れを感じさせた。

そこで気付いたのは、いきものがかりは全て、決して「前向き」ではなかったことだった。  

たとえば、「茜色の約束」は「死」をテーマにしているし、「ブルーバード」は「墜ちるのを知ってても羽ばたく」「SAKURA」なんかは絶対叶わない恋だ。

この人たちこそ、深い悲しみの上に、喜びを立ち上げる人たちなんだと、恥ずかしいけれど、8年の時を経て、初めて知った。
この時、あの頃よりももっと透明な気持ちで、両親を早くした亡くした父が「帰りたくなったよ」で泣いた理由が、分かった気がした。

いきものがかりの歌は、一見、みんなが共感できるようなきれいな歌詞が多い。でも、聴き手の人生の経験値に即して、その最も大切なタイミングに、そして、心のピンポイントに、必ず響くように作られているんだ。

だから、高校生にも、お父さんにも、老夫婦にも、幅広く知られたんだ。


確かに大学生の私には、彼らの曲は必要なかったかもしれない。でも、また新たな環境に繰り出した今、いきものがかりの歌は、とてもあたたまる。邪のないその聖性を、強く求めてしまう。

あれから十数年生き、”結婚”の文字が見えだしている今。「抱きしめても届かない想い」があるなら「ふたり」を聴くし、感謝があるなら「ありがとう」を聴いて手を繋ぐ。当時、それとなく聴いていたが、今なら心の底から理解できる。

きっと、また8年、さらに10年、50年経てば、また違う角度から、いきものがかりの歌に励まされるのだと思う。彼らの音楽があれば、曇りなき素朴な光が、未来から差してくる気がする。

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