「今晩は。あの私…会いたい人がいるのですが…」

私は店内に入るなり、今夜の店主らしき男性に話しかけていた。

「いらっしゃい！お嬢さんは誰を探してるのかな？
もしかして…爽やかなイケメン？それとも渋いイケオジかな？

悪いんだが今夜はふたりとも忙しいらしくて、俺がピンチヒッターなんだよ。

今夜は爽やかさのカケラもない俺で我慢してくんないかな？」

えっ？あなたも十分にイケメンですが？と言いそうになりながらも、初対面で馴れ馴れしいかな？と考え直し口にしたのは…

「あの…私が会いに来たのは以前、接客してもらった女性なんです」という言葉だった。

それを聞いた整いすぎてる感のある涼しげな美形の店主はクールな表情を崩し笑いながら

「あー姉さんのお客様なんだね。あの人は月に3回位しか遭遇出来ないレアキャラだからさ。中々会いに来ても会えないかも！」と私に教えてくれた。

ここに来たら会えるに違いないと思っていた私はガッカリしてしまい、店主にお礼を言って帰ろうとしたのだが…

時間があるなら飲んでいってよ。と言われて素直にカウンターに腰を落ち着けてしまった。

何を注文しようかとぼんやりメニューを眺めていると、頼んでもいないのに温かいココアと小皿に入ったナッツとチョコレートが出てきた。

「まだ、頼んでないのに…」と呟く私に美形店主は優しく微笑みながら言ったのだ。

「姉さんから聞いてるよ。私のいない時に来たらノンアルコールの甘くて温かい飲み物を出して欲しいって言ってたんだ。多分ならお客様の事じゃないか？と思ったから」

思いもよらぬ言葉に私は嬉しくて涙が込み上げそうになってくるのをこらえていた。

今は泣きたくはない！

そう思って堪えていたら…

「涙を我慢するのはよくないよ。泣きたいだけないたらスッキリするから泣けばいいよ。

泣き顔見られたくないなら、このタオル使えばいいから…」と大きめのフェイスタオルを私の前に置いた。

店主の然り気無い気づかいが益々私の涙腺を刺激したのか、涙が止めどなく溢れてしまうのだった。

ひとしきり泣いてスッキリした私が顔を上げると

「スッキリしたかい？じゃあ水分でも補給しようか？」と言いながら私に綺麗なピンク色のソーダ水を手渡した。

ピンク色のソーダ水の底には潰した苺が潜んでいるらしく、太めのストローで吸い上げると甘酸っぱい苺が口内に飛び込んできた。

泣いているうちに下げてくれたのか、ココアは目の前から消えていた。
「あの…せっかくのココアが…私、冷めたココアも好きなんです。飲みたかったのになぁ」と訴えてみると、　

「俺が責任持って飲み干したからお客様は何も気にしないでいいからね？それより、その苺ソーダの感想聞いてもよいかな？」との答えが返ってきた。

「えっと…甘さも上品で美味しいし、色も可愛いし！これ嫌いな女子いるの？」って思います。と私が伝えると、

「有り難う！おかわりしてもいいんだよ」と、とびっきりの笑顔でおもてなしされたので、クールな美形店主もアリだわ！と心の中で呟いた私です。

夜は始まったばかり…