最低の自分でいること

お風呂上がりに、山を背に構える住宅街の夜道を歩くと色んな発見がある。
それは新しい発見かもしれないし、いつのまにか擦れて見失っていた世界の再発見かもしれない。どっちだっていい。僕にとっては楽しいのだから。

素直であることは最低だ。時に誰かを傷つけるし、素直さで傷つけた時は、嘘で傷つけたときより罪悪感が著しい。
カッコつけてる時の言葉で人を傷つけても、カッコつけた自分が良い言い訳を用意する。
「自分は○○な奴だから」みたいな保険も、それ自体が言い訳や、罪悪感の防壁になる。

素直さにはそれがない。傷つける時も傷つく時も、くだらないほど無防備だ。
「素直が一番」なんて馬鹿馬鹿しく思えてしまう。素直でいたいと思ってる張本人なのに。


夜道を散歩していると色んな発見がある。
夕焼けが終わっても夜空は時間でグラデーションがある。
単に「暗い」「青紫」とかだけでは語り尽くすのが勿体ないくらいの、静かなざわめきを秘めている。

或いは街灯。オレンジの光、白い光、切れかけの電気やまだ数年しか使われてないもの。
或いは樹木。或いはカーブする坂道。
或いは家から漏れる灯り、声、生活音、生活の匂い。


これらは、ある人たちにはどうだっていいことだし、言ってしまえば「価値のない」ものであるようで、
価値のないものに拘って、自然を相手に一喜一憂する僕は、
誰かにとっては
「金の無い底辺」だったり
「頭おかしい奴」だったり
「危険で変な人」だったりするわけだ。

そんな風に思われるのだから、やはり自分は全く最低の人間に他ならない。と、今まで考えていた。

意識していたわけではないけれど、
僕の持っていた思い込みは、「自分は人間としての生活が上手くないが、できるだけ社会に歩み寄るべきだ。関係が構築できなければ自分に責任があるのだ」というもので、
自分自身を「最低」と評する理屈はこれによって無限に生成され続けていた。

今夜気付けたのはどうして?


夜、家をでる前、食事に出かける服を選びながら「気負わないこと」を意識した。
なるべく、すべての人の前でなるべく、正真正銘の(最低の)自分でいようとするために。

最近色んなことに疲れていて、
いっそはじめから最低の状態でいれば、最低の(一番楽な)自分で付き合える人が寄ってきて、結果すごい楽なんじゃないかって。そんなことを考えていた。
お風呂あがりとか、食事中とかにぼんやり。
それが、今日の服選びの時に行動として現れたのだろう。

最低の僕でも、僕がそう思ってるだけで、きっと誰かにとっては最上かもしれない。
誰かにとって無価値なものが、僕にとって無比の楽しみであるように。
毒として扱われてるものが、あるときの誰かにとっては薬になるように。


僕はぼくのことを最低だ、ショボい奴だ、とか思うことがあるけど、
その度「ならば誰かにとっての最高で、ぶちあがる奴だ」って言い返す。

偶像化した深刻な自己否定に対し、ただ熱量が高いだけの推論で対するのだから、
フォークで刺し抜かれた手の痛みを、殴って誤魔化そうとしているようなものだ。
とてもつらいんだけれど。

そう、つらいんだな。つらいから、もう言い返すのを止めたかった。
言い返したって、自分を最低だと思う気持ちは変わらなくて、
希望的な推論があっても、過去の絶望は塗り替えられない。

だからもう、最低でいいかなって。
最低のままでいられるようになろう。いられる場所にいよう。
そんな風に繋がって、色々なことを考えながら、夜道を歩いたり、文字を打ったり消したりした。

素直でいよう!とか言わないよ、とてもくだらないから。
けれど、僕たちはもっと「自分にのみ従って生きる」選択をしていいかもしれない。

今、最近までより比較的気分が軽い。
この心は夏の夜風のせいではないと思う。
涼しくなくてぬるくて、そんな風情じゃないから。

素直さは最低だけど、もし最低だと思えても、
素直でいれば/最低でいれば、荷物がとっても減る。

嘘や虚飾や無理を使わなくても、
相手に合わせようとしなくなって、まず自分を楽にしていく。
自分が楽に振る舞うのに慣れてきて、段々自分らしい距離感で相手を思いやり始める。


最低でいたはずが、寧ろほどよく普通になっていく。
と信じたい。


最低を心掛けることは素直でいることに繋がる。
自分勝手であっても、所詮は誰かへの贔屓や好意は隠せない。
勝手さの中で誰かを嫌いになっても、きちんと距離を置けたら困らない。(好意を発露できる素直さがあれば、距離を置くのに意識を向けられるから。)

今、こういう文を用いて自分の行動を律しようとしていることも、ただの自分の都合だ。
形にしないと、この忙しい日常では自分の掛け替えのない望みすら一瞬でも忘れてしまうから。
書けることは書いておくことで、
なんとか今日も突き進んでいく。
足が地を踏む音のひとつひとつを忘れぬように。


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