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第2章[第1話]《ユウとカオリの物語-ジェンダー編-》


どんなユウも、わたしの好きなユウよ。
こんなに可愛い人がわたしを好きになってくれるなんて。
こんな幸せはないわよ。
 ※ ※ ※

僕はずっと子供の頃から、着ぐるみを着て生きてる気がしていた。

着ぐるみは何着も持っていて、その時々で周りの人たちが笑ってくれる着ぐるみに、僕は着替えるものだと思っていた。着ぐるみを脱ぐのは両親の前だけで、着ぐるみがないと他人とは接することができなかった。
10代の頃は色んな着ぐるみを試しては変えて、いつしかその中にいる本当の僕のことなんて、いったどんな僕だったのか、僕自身も、忘れていた。

大人になってやがて、その着ぐるみはお気に入りの1着に定着した。
少し可愛さのあるその着ぐるみは、僕の弱さを隠してくれる、優しくて強いまなざしの着ぐるみだった。

「ねぇねぇ!ユウさん!ここ、座って良い??」
「あ、うん、どうぞ。」

職場でいつも元気なエリちゃんだ。
僕は素早く立って椅子を引いてあげた。

「わ、ありがと!優しいね!」
「あ、いえ、えっと…こんにちわ」

いきなり隣に座ってきたエリちゃんに僕は照れていた。
会社の飲み会なんて嫌いな僕だけど、以前から気になっていたエリちゃんも参加すると聞いて、話す機会があればいいなぁなんて、期待して参加することにしたんだ。でも向こうから来るなんて...どうしよ...

「もしかして、照れてますーっ!?可愛い!!」

え、可愛い??そか。これ、可愛いんだ。

「会社でいつもクールでカッコイイ感じじゃないですか?だからもっとコワイ人なのかと思ってて。でね、今日はせっかくの機会だし、絶対話してみようと思ってたんですよ!」

そう言ってエリちゃんはニコニコしていた。
そう言えば以前のLGBTの飲み会でも、カッコ良くて可愛いとか言われたな。タチですよね!?なんていきなり聞かれてびっくりしたけど。そう見えるんだな。でも僕はビアンの子にはどうも興味がいかない。だってビアンの子って結局僕の女子な部分を探すんだもん。ノンケのシス女子が良いよなぁ。エリちゃんは元気だし可愛いし、仲良くなれたらいいな。
そんな事を想いながら、飲み会ではずっとエリちゃんと話していて、すっかり意気投合した。

それからいつしか自然な流れで僕らは付き合うようになり、幸せな時間を共有してくれた。
だけど数年の時を経て、終わりは突然告げられた。

「なんか、もうちょっと違う。友達同士に戻ろう」

使い古したその着ぐるみは、いつしか糸が綻びあちこちに穴があいて、中の僕が見えるようになっていた。中の僕はつまんない僕。弱弱しくてダメな僕。それは彼女の求める僕じゃなかった。

着ぐるみ、新しく作り続けなきゃダメだったんだ。

僕はそれから、着ぐるみを新しく作り続けることに、必死になっていた。


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2人の自己紹介


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